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「体は辛くはないか?辛かったら横になってていいから」
「ありがとうございます」
「佐竹さんの所に着いたら起こすから」
そう言われて僕は後頭部座席に座って窓から流れる景色を見ていた。
来たときは暗くてあまりわからなかったが、田んぼばかりだと思っていた景色は思ったよりも建物が多い場所なんだなぁーと窓からの景色を見ていた。
「あさひ、そろそろ着くから」
「あっ…はい」初めて名前で呼ばれて少しドキドキした。
「ヒートは辛かったか?初めだって聞いたけど…」
「はい。でも立花さんがくれた香水のおかげで乗り切れました。ありがとうございました」
「いや。それくらいしかしてあげられることがなくて悪い」
「いえ。あとパーカー嬉しかったです」
「そうか…それはよかった。もしまた欲しいのがあったら言ってくれ」
「ありがとうございます」
「着いたぞ」
そこは大きな1軒屋だった。
立花さんの車を降りると玄関から1人の男性が出てきた。
「立花さん、こんにちは。あら…君があさひくん?はじめまして、佐竹翔太です。よろしくね」
「こちらこそ、すみません。よろしくお願いします」
「立花さんの大事な子ちゃんと預かるから」
「よろしくお願いします」立花さんは深くお辞儀をして車で帰っていった。
「ここが、あさひくんの部屋、好きに使っていいからね」
「すみません。部屋まで用意してもらって…」
「いいの。僕も1人でこんな大きい家で寂しいからさ」
そう言って俯いた佐竹さんの首筋に噛み跡が見えた。
佐竹さんはオメガなんだ。でも1人って…そう思っていたら
「僕の話でも聞く?あんまり面白い話しじゃないけど」
「聞きたいです」
それから僕は佐竹さんから今までの話を聞いた。
恋愛して普通に結婚して番になったが、なかなか子供に恵まれなかった。アルファとオメガは発情期の性交で、ほぼ100%の確率で妊娠すると言われてるのに、佐竹さんは3年たってもできなかった。そのせいでご主人のお義母さんから嫌味を言われてたらしい。
そんな中、ご主人の浮気がわかった。そしてその浮気相手とはもうすでに番になっていて、
しかも相手は妊娠していた。
佐竹さんは、子供も産めないオメガはいらないと言われ、そのまま家を追い出された。行く場所がないので結局、実家のあるこの街に帰ってきたけれど、ヒートの時には落ち着かなくて、酷くなる一方だったと…番をなくしたオメガはやはり精神的にも弱って、色んな薬を試したけど駄目だった。いよいよ施設に入らないといけないと周りから言われた時に北見先生から立花さんを紹介してもらったと教えてくれた。
「立花さんと出会って、香水なんて本物がいなければ意味がない、番のあの人がいなければ…って思ってたの。でもね、立花さんとあの人の香りを思い出しながら作ったとき、確かに思い出すだけで、いないのは辛いし苦しいんだけど、心が満たされる感じがしてね。少しずつ回復していった。僕は立花さんに会えてよかったんだ」
そうだったんだ。母さんも立花さんに会えてたら…もう少し、楽に生活ができていたんだろうか…
「ごめんね。暗くなっちゃったね。そういえばあさひくんはどこから来たの?」
僕は佐竹さんに自分の話をした。佐竹さんが教えてくれたのに、自分のことを隠すのはおかしいと思ったからだ。
佐竹さんは僕の話を黙って聞いてくれた。
「辛かったね。もう安心していいから」
「みんなに迷惑かけちゃって…すみません」
「立花さんから、あさひくんが運命の番って聞いたよ。本当は自分のところに連れて帰りたいのに、今はまだできないからって。安心できる場所が僕の所だと思ってくれて嬉しかったんだ。僕は運命の番に会ったことはないけど、会えたらきっと幸せだったんじゃなないかと思ってる。だから、あさひくん幸せになってね」
「でも僕…今まで人を好きになったことがなくて…だからわからないんです。人を好きになる気持ちとか、立花さんは優しくしてくれるけど、やっぱりこんな僕には釣り合わないと思います。運命の番なんて…」
「あさひくん、その人を好きになるのに釣り合う、釣り合わないなんてないんだよ。それに好きになるきっかけなんて最初はほんの些細なことからだと思うよ。例えば見た目。その人の顔が好きとか声が好きとか、手が好きとか…あとは優しく声かけてくれたとか。それからその人と話をしてわかり合って…徐々に好きになる人もいるよ。立花さんのどこか好きなところはない?」
「好きなところ…僕は…立花さんの手が好きです」
「手?」
「はい。立花さんが頭を撫でてくれたんですけど、その手が好きなんです。母さんとは違うけど、安心する大きな手が」
「そうか…そこからでもいいと思うよ。人を好きになるのに理由なんてないことがほとんどだからさ」
「そういえば…佐竹さんのご両親は?」
「あぁ…うちの親、今海外なの。リゾート地に住みたいって向こうに移住しちゃったんだ。僕のヒートも落ち着いたからなんだけど…だからこんな大きな家に僕1人なの。あさひくんが来てくれたから寂しくなく過ごせそうだよ」そう言って笑ってくれた。
今日からここが僕の家になるんだ。あの家に帰らなくていいのは嬉しいけど…大丈夫なのか心配になった。
「ありがとうございます」
「佐竹さんの所に着いたら起こすから」
そう言われて僕は後頭部座席に座って窓から流れる景色を見ていた。
来たときは暗くてあまりわからなかったが、田んぼばかりだと思っていた景色は思ったよりも建物が多い場所なんだなぁーと窓からの景色を見ていた。
「あさひ、そろそろ着くから」
「あっ…はい」初めて名前で呼ばれて少しドキドキした。
「ヒートは辛かったか?初めだって聞いたけど…」
「はい。でも立花さんがくれた香水のおかげで乗り切れました。ありがとうございました」
「いや。それくらいしかしてあげられることがなくて悪い」
「いえ。あとパーカー嬉しかったです」
「そうか…それはよかった。もしまた欲しいのがあったら言ってくれ」
「ありがとうございます」
「着いたぞ」
そこは大きな1軒屋だった。
立花さんの車を降りると玄関から1人の男性が出てきた。
「立花さん、こんにちは。あら…君があさひくん?はじめまして、佐竹翔太です。よろしくね」
「こちらこそ、すみません。よろしくお願いします」
「立花さんの大事な子ちゃんと預かるから」
「よろしくお願いします」立花さんは深くお辞儀をして車で帰っていった。
「ここが、あさひくんの部屋、好きに使っていいからね」
「すみません。部屋まで用意してもらって…」
「いいの。僕も1人でこんな大きい家で寂しいからさ」
そう言って俯いた佐竹さんの首筋に噛み跡が見えた。
佐竹さんはオメガなんだ。でも1人って…そう思っていたら
「僕の話でも聞く?あんまり面白い話しじゃないけど」
「聞きたいです」
それから僕は佐竹さんから今までの話を聞いた。
恋愛して普通に結婚して番になったが、なかなか子供に恵まれなかった。アルファとオメガは発情期の性交で、ほぼ100%の確率で妊娠すると言われてるのに、佐竹さんは3年たってもできなかった。そのせいでご主人のお義母さんから嫌味を言われてたらしい。
そんな中、ご主人の浮気がわかった。そしてその浮気相手とはもうすでに番になっていて、
しかも相手は妊娠していた。
佐竹さんは、子供も産めないオメガはいらないと言われ、そのまま家を追い出された。行く場所がないので結局、実家のあるこの街に帰ってきたけれど、ヒートの時には落ち着かなくて、酷くなる一方だったと…番をなくしたオメガはやはり精神的にも弱って、色んな薬を試したけど駄目だった。いよいよ施設に入らないといけないと周りから言われた時に北見先生から立花さんを紹介してもらったと教えてくれた。
「立花さんと出会って、香水なんて本物がいなければ意味がない、番のあの人がいなければ…って思ってたの。でもね、立花さんとあの人の香りを思い出しながら作ったとき、確かに思い出すだけで、いないのは辛いし苦しいんだけど、心が満たされる感じがしてね。少しずつ回復していった。僕は立花さんに会えてよかったんだ」
そうだったんだ。母さんも立花さんに会えてたら…もう少し、楽に生活ができていたんだろうか…
「ごめんね。暗くなっちゃったね。そういえばあさひくんはどこから来たの?」
僕は佐竹さんに自分の話をした。佐竹さんが教えてくれたのに、自分のことを隠すのはおかしいと思ったからだ。
佐竹さんは僕の話を黙って聞いてくれた。
「辛かったね。もう安心していいから」
「みんなに迷惑かけちゃって…すみません」
「立花さんから、あさひくんが運命の番って聞いたよ。本当は自分のところに連れて帰りたいのに、今はまだできないからって。安心できる場所が僕の所だと思ってくれて嬉しかったんだ。僕は運命の番に会ったことはないけど、会えたらきっと幸せだったんじゃなないかと思ってる。だから、あさひくん幸せになってね」
「でも僕…今まで人を好きになったことがなくて…だからわからないんです。人を好きになる気持ちとか、立花さんは優しくしてくれるけど、やっぱりこんな僕には釣り合わないと思います。運命の番なんて…」
「あさひくん、その人を好きになるのに釣り合う、釣り合わないなんてないんだよ。それに好きになるきっかけなんて最初はほんの些細なことからだと思うよ。例えば見た目。その人の顔が好きとか声が好きとか、手が好きとか…あとは優しく声かけてくれたとか。それからその人と話をしてわかり合って…徐々に好きになる人もいるよ。立花さんのどこか好きなところはない?」
「好きなところ…僕は…立花さんの手が好きです」
「手?」
「はい。立花さんが頭を撫でてくれたんですけど、その手が好きなんです。母さんとは違うけど、安心する大きな手が」
「そうか…そこからでもいいと思うよ。人を好きになるのに理由なんてないことがほとんどだからさ」
「そういえば…佐竹さんのご両親は?」
「あぁ…うちの親、今海外なの。リゾート地に住みたいって向こうに移住しちゃったんだ。僕のヒートも落ち着いたからなんだけど…だからこんな大きな家に僕1人なの。あさひくんが来てくれたから寂しくなく過ごせそうだよ」そう言って笑ってくれた。
今日からここが僕の家になるんだ。あの家に帰らなくていいのは嬉しいけど…大丈夫なのか心配になった。
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