魔女のおくりもの

あの日、俺は、愛を知った。
小領邦の領主息子である俺は、屋敷の者たちから「気狂いの領主息子」と呼ばれていた。珍しいものに目がなく、好奇心の赴くままに生きる姿が、狂気に映ったのだ。父は跡継ぎである息子の評判を必死に隠し、理想の領主として育てようとしていた。
そんな俺の運命を変えたのは、一人の理髪外科医との出会いだった。
「忌むべき血を好み、死者の解剖を行う魔女がいる」――そう聞いていた人物は、俺と年の変わらない美しい青年だった。愛猫の治療を頼みに訪れた俺は、穂麦のようなブロンドヘアに映える赤い血、真剣なまなざし、そのすべてに心を奪われる。
「知りたいんです。人間のこと」
博識で聡明、強い意志を持つ彼は、一般的な治療法である瀉血に疑問を持ち、解剖を通じて真の医学を追求していた。それゆえに「魔女」と呼ばれ、忌み嫌われていた。俺は毎日のように彼のもとへ通い、初めて知った感情を確かめ、共有しようとした。
「君は、必死に生きているだけなんだ。君は、強い意志を持った美しい人だと、俺は思う」
しかし、幸せな日々は突然終わりを告げる。魔女狩り――すべてが焼き払われ、彼の姿は消えた。絶望と怒りに駆られた俺は短剣を抜き、その瞬間、父が守り続けてきた俺の狂気が白日の下にさらされる。「魔女に魅入られた化け物」として勘当された俺は、彼を探し各地をさまよい続けた。
やがて「魔女を飼う物好き」の噂を辿り、再会を果たすが――彼は、もう俺を見てはくれなかった。
冷たくなった体。うつろな瞳。それでも残されたぬくもりだけが、俺たちの思い出をつなぎとめていた。俺は彼を抱き、高山地帯をさまよい歩く。やがて小さな村にたどり着き、束の間の安息を得るが、神の名のもとに再び魔女狩りの炎が二人を襲う。
禁断の愛、狂気と純愛の境界、そして救済と破滅が交錯する、切なく美しい純愛悲劇。
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