愛故に
「愛って何ですか」――青年は私に問いかけた。
女優として多くの人に愛されているジェイド。華やかなスポットライトを浴び、歓声に包まれ、薔薇の敷き詰められた道を歩く彼女は、誰もが羨む存在だった。
「私は私を愛しているわ。それだけよ」
他人の愛など信じない。愛を証明できるのは自分自身だけ。それが、彼女の生き方だった。
仕事終わりに通うパブで、カウンター越しに問いかけてくる青年。彼は愛を知らない。母は多くの男性を愛し、愛されながらも、泣き崩れていた。彼女の愛は偽物だったのかと。
「そうじゃないわ。彼女の愛は本物よ。すべてを、等しく、愛していたのよ」
ジェイドの言葉に、青年の灰色の瞳にわずかな光が差す。そして、二人は静かに微笑み合う。
しかし、平穏は突然終わりを告げる。
ジェイドの恋人の男が、記者の前で彼女との関係を否定したのだ。「彼女とはただの友達だよ」――その言葉は、鋭利な刃物のように彼女の胸を裂いた。
自己愛だけが真実のはずだった。誰に裏切られようと、彼女という存在は彼女自身によって肯定され続けるはずだった。
それなのに、どうして、こんなに、胸が苦しいの。
「私は彼を愛していたわ。そして彼も、私を愛していた。そのはずだったのに」
涙が止まらない。いつものパブで、青年に問いかける。
「ねえ、愛ってなに」
青年は静かに答える。
「貴女は、愛して欲しかったのではないですか。自分で自分を愛すことで、愛されていることを感じていた。そして、すべての人を等しく愛していた」
拒み続けていた真実。私は私を、恋人を、そして――青年を愛していた。
その瞬間、世界の色彩が一変する。胸を満たしたのは苦痛でも悲嘆でもなく、ただひとつの甘美な衝撃。
自己愛という鎧に守られていた女優が、初めて他者を愛したとき、運命は残酷な結末を用意していた。
愛とは何か。その答えを見つけたとき、彼女の胸に灯る炎は、永遠に燃え続ける。
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ジェイドの言葉に、青年の灰色の瞳にわずかな光が差す。そして、二人は静かに微笑み合う。
しかし、平穏は突然終わりを告げる。
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それなのに、どうして、こんなに、胸が苦しいの。
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