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最終部:タワー・オブ・バベル
その303 ミラーメイズ
しおりを挟む――62階
「やっぱり鏡の壁、ですね」
フレーレが呟き、鏡にそっと手を当てながら呟く。気持ち悪くなりそうなくらい私達の姿を映す鏡が四方八方にあった。
「壊せないうえ、映った人物がダメージを受けるのは厄介よね」
「ああ、狭いから味方の攻撃で傷つけないようにしないとな」
<魔物だっぴょん!>
私とレイドさんが話していると、リリーが通路の先に魔物を発見し、そそくさと私達の後ろへ隠れる。
「……さっさと倒そう。ここは俺がいく」
「僕も行こう、ナイフの勘を取り戻しておかないとね」
ノゾムとユウリのコンビがメタルワームへ襲いかかり、あっという間に沈黙させる。このメタルワームは背中が鋼鉄のように固く、腹が柔らかいという典型的な弱点を持つ魔物である。ノゾムのワイヤーという紐で足を止めてひっくり返すと、関節部分にナイフをスッと入れて解体していく。
「わー、鮮やかですね!」
「さすがは兄弟ってとこかしら」
<むう、天井がもう少し高ければ良かったんだが……>
フレーレとセイラが褒めていると、カームさんが天井を見て苦々しげに口を開き、お父さんがカームさんの背中をポンと叩きながら天井を見て言った。
「恐らく空中からの攻撃を警戒しているのだろう。下の階でファウダーの動きは見ていたはずだ。魔物も前と上からは対処しにくいからだろう、それゆえに封じてきたと見るべきだな」
「ま、カームよ、今回は俺達に任せておけって。ジャンナのおかげで体の調子はすこぶるいいからな!」
パパが腕を叩きながら片目をつぶる。
<……無理はするなよ? お前達がやられたらジャンナ達も悲しむ>
<まったくだっぴょん。それじゃ、そろそろいくっぴょんよ>
「あ、はいはい。リリー、妙に張り切っているわね……」
腰に手を当ててリリーの後ろ姿に嘆息していると、エクソリアさんが横に立って口を開いた。
『兎、というのはよく伝説や伝承で道案内をすることが多いんだ。だからリリーは戦闘力は皆無だけど、こういう迷路みたいな場所は勘が働くんだよ。他にも理由はあるんだけどね』
「そうなんだ、今までご飯を食べるだけの存在だと思ってました」
「戦闘力はカイムさん! そんな感じですかね?」
「フレーレ、それはちょっと酷いわ……」
フレーレの後ろで、鏡を殴って自分にダメージを与えているカイムさんが視界に入る。うーん、カイムさんとユウリ。フレーレは早く気付いて欲しい……そして決めて欲しい。このままでは余計な犠牲が増えてしまう。
「何をやってるんだ? 行くぞ」
「あ、はーい」
レイドさんが振り返り私達に声をかけてくれ、フレーレとエクソリアさんと共にみんなに追いつき歩きだす。
――この62階は下とほとんど変わらず、鏡にさえ気を付けていれば魔物以外の脅威はほぼないと、罠担当のカイムさんが言っていた。恐らく鏡かけた魔法のようなものがあるため、罠をかけることができないのだろうとのこと。
そうと分かればいざ進め! リリーの案内を受けて進むと早くも63階への階段へ到着した!
「今何時だ?」
「えっと……もう15時ね」
パパが時間をママに聞いて、答えていた。そんな時間か……お腹すいたと思った……。
「休める所が無いのがネックか……仕方ない、とりあえず上に行ってから休むとしよう」
お父さんの言葉に、やれやれとこぞって階段を登っていく。階段は魔物が出ない場所なので、63階に入る前に休もうと言うことでみんなが頷いた。
「……まともに戦ったのは初めてだが、魔物って強いな……」
「だね。ただ、遠慮なく攻撃できるから怖がらなければ勝てない相手じゃない」
「二人ともお疲れ様! 次は私も前へ出るから、63階は休んでていいわよ。はい、これ」
昼食のサンドイッチを手に、私はノゾムとユウリに話しかける。何だかんだで、62階はこの二人が頑張ってくれた。信用できるか? と言われればまだ微妙な所だけど、今日の頑張りは労いたいと思う。
「……いいのか?」
「ええ、みんなで協力していかないとすぐに無理がくるからね」
「あのドラゴンみたいにかい……?」
そう言うユウリの顔は少し泣きそうだった。相手にしていたころは好戦的だと思っていたけど、自分のせいで消えてしまった二人を思いやれる人のようだ。
「そうね……思う所はあるでしょうけど、今は耐えて進むしかないわ。あの二人のためにもね」
「分かった。僕はあのドラゴンとの約束は果たす。君達を父さんの所へ必ず連れて行く。ま、その前にあのクソジジイを殺してやるけどね」
サンドイッチを受けとり、被りつくユウリ。そこへアイリと話していたフレーレがやってくる。
「あ、ルーナが持ってきたんですね。それじゃ、これはわたしが食べようかな」
サンドイッチをフレーレも持ってきたようで、すでに食べているからと自分の口に運ぼうとしたところでユウリに止められた。
「僕が食べる。寄越せ」
「大丈夫ですか? 結構ボリュームありますけど……」
「問題ない……うぐ……!?」
「無理しないでくださいよ? はい、お水です。それとお二人ともけがをしてますね≪シニアヒール≫」
決して弱くない魔物との戦いなので、無傷とはいかない。それをフレーレの魔法で傷が塞がっていく。
「便利だな、魔法」
「む、フレーレさん、こちらでしたか。そろそろ63階へ入るみたいです、ルーナさんも行きましょう。お前もまだ食べてるのか? ささっと食え」
「うるさい、先に行けよ。すぐに追いつく」
「そうはいかん。全員で来るよう言われているからな。私が待つので、フレーレさんは先へ……」
「いえ、わたしも待ちますよ!」
「あ、そうですか……」
カイムさんとしては勘が働き、ユウリの傍にフレーレを置いておきたくないんだろうなあ……そんな生暖かい目で見ていたが、ユウリとノゾムも食べ終わり、63階へと足を踏み入れる。
「変わり映え無し、か」
「そうでもなさそうよ?」
先を歩くパパとママが呟き、ママが鏡の前に立つ、すると……
「あはははは! 鏡に映ったママがすごい小さい!」
「ほ、ホントね……ぷふ……」
私とセイラが笑っていると、ママに頭をぽかりとやられる。
「あいた!?」
「笑い過ぎよ!」
「でも、面白いですねこれ」
フレーレが別の鏡に手を当てながら微笑んでそんなことを言う。そしてこちらを振り返る。
「でも、遊んでいられないですね先に進みましょう!」
<……!? フレーレ! 鏡から離れるっぴょん!>
「え? リリーさん、どうしたんです?」
リリーが叫びフレーレが首を傾げる。少し間があり、私達はリリーが叫んだ意味を知る!
「フ、フレーレがこっちを向いているのに鏡のフレーレは背中を向けていない!?」
「え!?」
ガシャーン……!
驚いたフレーレが振り返ろうとしたとき、鏡の中のフレーレが鏡から飛び出し、首を締め上げていた!
「ふふふふ……」
「うう……わ、わたし!? えい!」
「ギャアァァァ!?」
フレーレが自分の偽物に聖魔光で殴ると、悲鳴をあげ、煙のように消えて行った。
「大丈夫!?」
「え、ええ……すいません、迂闊でした……!? 皆さん!」
「これは……!」
フレーレが声をあげると、鏡に映った私達が全員、こちらを向いていることに気付く。
「どうやら、この階は俺達自身が敵のようだな」
「……問題はどれくらい複製できているか、か」
ガシャン!
レイドさんとお父さんが剣を構えた瞬間、鏡から私達が襲ってきた!
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