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最終部:タワー・オブ・バベル

その308 本物に勝てる偽物はいない?

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 「だああぁぁぁっしゃあ!」

 「ディクライン、加勢するぞ」

 「行くわよ! ≪マジックアロー≫!」

 【しゃらくせぇ!】

 【≪ヒール≫よ、そして≪フレイムストライク≫だわ!】

 ボウン! パパが紙一重で避けると、床に焦げ目がついた。

 「うぉっと!? お前もあれやってくれよ」

 「仕方ないわねー」

 パパとママが自分の偽物と対峙し、お父さんがそれを手伝うと図式になり、迂闊に手出しするのが難しくなっていた。私達に偽物が出てこないとも限らないため、周囲を警戒しつつ援護ができるようパパ達を囲むようにそれぞれ動く。
 ……ちなみにセイラとニールセンさんの偽物がどうなったかチラ見したところ、二人が正座させられていた。多分あれは偽物だろう。セイラ(偽)は俯いて泣いており、ニールセンさん(偽)が正座しながら器用に庇っていた。セイラ(偽)の横でリリーが背中に手を置いて首を振っているのがさっぱりわからない。

 後、声は聞こえないがセイラは凄い剣幕で怒っているみたいで、見たことない顔をしていた。

 「……あれは本気で怒ってるな」

 「やっぱりそうなんだ……」

 レイドさんが『ああなったら俺でも止めるのは難しい』と言うので、あっちは任せることにし、パパ達の戦いを見守ることにした。

 【チッ、やっぱり魔王と二人がかかりはキツイな】

 「実力は同じなら後は数の問題だ!」

 「……その首、もらうぞ」

 ガギン! ギャリィン! パパ(偽)が二人の攻撃を捌きながら後ずさる。

 【ディクライン! ≪ゲイルスラッシュ≫】

 「甘いわね≪ゲイルスラッシュ≫!」

 ママ(偽)の魔法に対して同じ魔法を使い、打ち消す。

 【……流石は本物……どう? 久しぶりの大技は】

 「ま、たまにはいいかもね。で、あなた達は私達に成り代わってどうするつもりなのかしら?」

 【それは簡単よ。神裂を倒してこの世界を救うのよ。その後は、世界旅行でもいいんじゃない?】

 偽物の目的ってそうなの!?

 「トリスメギストスとやらの手下じゃないのか、お前達は」

 ガキン! 剣と剣がぶつかり、パパが偽物に向かって喋りかけると、偽物もそれに応対してくる。

 【まあ魔法生物みたいなもんだから間違っちゃいないが、俺達も意思を持っちまったからなぁ。生みの親の失態だな】

 曰く『鏡写しの影が優秀過ぎた』のだと。

 本来なら成り代わったあとは操り人形のようになるハズだけど、まるっとパパや私達をコピーしたものだから、抑圧された心で欲望を吐きだしているものの、根幹は同じものだって。

 「ならここを通してくれないか?」

 【そういうことも予想済み……でも、私達が外に出るにはあなた達の身体は必要なのよ。悪いけど、それはできないわね!】

 「自分の偽物がいるのも面白いと思ったが、決着はつけないといけないようだな」

 【そういうことだ! 『煌天斬空』『魔撃浄滅剣』!】

 「何だと!? やべえ!」

 「その技は……!?」

 パパ(偽)の剣が光り輝き、パパに切り込み、返す刃がお父さんを襲う! 二人は慌てて避けたけど――

 「うぐあ!?」

 ぶしゅ! っと、避けたはずなのにパパの肩から血が吹き出し、お父さんは片膝をついていた。

 「お父さん!?」

 「……ぬう、偽物でも使えるとは迂闊だった」

 顔半分が骸骨になっていて、呻くように呟くお父さんを私が支えて後退させる。パパはリザレクションで治るけど、お父さんはそうはいかない。というか偽物とはいえパパが技を使うのを始めて見たわ……。

 【≪ヒール≫】
 
 【おう、助かるぜアイディール。本物よ、さっき俺は言ったな俺達は『抑圧された心』だと。何に気を使っているのか分からんが、俺も使うことができるんだぜ……?】

 ママのリザレクションを受けて回復したパパが立ち上がり睨みつける。この表情も初めて見る顔だった。

 「……別に気を使っている訳じゃない。そろそろレイドにも教えてやろうと思っていたしな。ただ、強力過ぎて撃たないだけだ」

 【負け惜しみを】

 ニヤニヤと笑うパパ(偽)とママ(偽)を見て、一瞬息を吸ったパパがこちらを見ずに声をかけてきた。

 「……女神二人にフレーレちゃん。みんなの周りに魔法障壁を頼む。セイラ達にもだ」

 「やるの……?」

 ママが心配そうに聞くと、口元を緩ませて何も言わずに私達のところへ向かわせていた。

 「いいのか? 攻撃するチャンスだぞ?」

 【勇者サマが卑怯な真似はできねえだろう? どっちが本物に相応しいか勝負だ……!】

 そこに遠くからエクソリアさんの声が響いて来た。

 『ディクライン、いいぞ』

 「……準備ができたようだな。悪いな、俺の勝ちだ」

 ぐっと剣を両手で構えると、ゾクリとするような冷たい感じが――

 【ぬかせ……! 『煌天斬空』!】

 パパ(偽)が、さっきパパに当てた技を放つ! でも同じ技が使えるなら相殺できるはず!

 「俺の抑圧された心ね、確かにそうかもしれねぇな……だが一つ思い違いをしているぞ。俺はあえて抑圧してるんだよ……」

 【もらった……! これで俺がほんも……】

 「心の奥底までは分からなかったようだなその技にゃ続きがあるんだよ……『煌天斬空閃』」

 「きゃあ!?」

 ゴッ! 凄まじい気合いの塊みたいなものが障壁にぶつかりミシミシと嫌な音を上げる! ママの偽物は一瞬防御したような構えを取ったが、あっという間に吹き飛ばされ鏡に叩きつけられた。

 そして――

 ピ……ピピピピ……
 
 【う、お……!?】

 偽物が先に振りかぶったにも関わらず、それを振り切ることはできなかった。パパ(偽)の体中に無数の光の筋が走り、直後……全身から血を吹き出した!

 ズブシャァァァァァ

 【ぐああああああああああああ!?】

 剣を取り落とし、膝から崩れ落ちるパパ(偽)

 【ディクライン!? ≪リザレ……≫】

 「そこまでよ。あんたも私なら、あがくのは止めなさい」

 【う、ぐ……動かない!? まさかルーナの補助魔法!? ……わ、分かったわ、私達の負けよ……だから、回復を……】

 ママがリザレクションをかけようとした偽物を羽交い絞めにして呟くと、ガクリと項垂れて涙を流した。



 ◆ ◇ ◆


 <バベルの塔:70階>


 「おのれ、役立たずめらが……! 下手に知能を持たせたのは間違いだったか。まだルーナやレイドの影はいる。やつらを調整せねば……もう少し学習させたかったがディクラインとやらの影を見たところ、わしに牙を剥く可能性もあるようじゃしな」

 トリスメギストスは鏡に手を入れ、ぬるりと中へ入っていく。


 「それにしても恐るべきは『勇者』の恩恵か。神裂が研究していた訳もわかるわい。ディクラインとレイド……あの二人を消すのが最優先か。ならアレを使えば確実か」

 ニヤリと笑いながら、トリスメギストスはその身体を鏡の中へ躍らせるのだった……

 
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