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最終部:タワー・オブ・バベル
その396 世界
しおりを挟む「終わりよズィクタトリア」
私は駆け出しながら恐ろしく冷静に呟く。私達にやられた傷が癒えにくいのか、その場を動かず迎え撃つつもりのようだ。なら、そのまま立ち止まっていてもらいましょうか!
「レジナ!」
「ガォォォォン!」
『うぐぉ……足に……!?』
「はああああ!」
渾身の力を込めて愛の剣を振り下ろす。ズィクタトリアは私の剣を光の刃で受けると、左手で魔法を撃つ構えをする。
『”破滅の――”』
「させませんよ!」
カイムさんが私に向けようとした手を捻りあげ明後日の方向へ光が飛んでいく。捻りあげた腕を振りはらうと続けてレイドさんの剣が左の脇腹へ食い込んだ
『ぐ、ぬぬうう! 消えろ消えろ消えろ! ”神ヘノ服従”』
「うわ!?」
「きゃあ!?」
「動けない……!?」
ズィクタトリアが放った赤い衝撃波がみんなを襲い、その場にくぎ付けにされる。これが本当の切り札のようで、追撃をすぐにせず肩で息をしていた。
『はあ……はあ……おのれ……ここまでせねばならんとは……まあいい……一人ずつ――』
「だから……させないっていってるでしょうが!!」
『ぐああああああ!? ルーナだと!? なぜ動けるのだ!? 神の力ある言葉を!』
「今の私はエクソリアさんと同義よ、女神の力<クライシスエンド>に私の魔王の血が神であるあんたと同等以上の力を発揮できているのよ!」
ガン! カキィン! ドシュ!
『馬鹿な……馬鹿なぁぁぁぁ! まだだ……まだ……!』
「終わりよズィクタトリア!! この世界から消えろぉぉぉぉぉ!」
パキィィィン……!
『う……ぐ……』
ドサッ……
「はあ……はあ……!」
剣をズィクタトリアの首を貫通させ薙ぎ払うように切り裂く。文字通り首の皮一枚で繋がっているそこから、大量の血があふれ出し前のめりの倒れた。
「ルーナ!」
「あ……レイドさん、動けるようになったのね……」
「ああ、何とかな。ルーナの魔王の力と同じく、これも勇者の力のおかげだろう。大丈夫か? ……だが、やったな」
「うん。これでこの世界は――」
私が安堵していると、神裂の声が響く。
「首を引きちぎれ! まだとどめを刺せていねぇぞ!」
「なんだって……!?」
『ぐ……ぐぐ……し、死ぬ……死んでしまう、神であるこの私が……』
これでも死なないの!? ぐちゃりと嫌な音を立てて首をくっつけるズィクタトリア。襲い掛かってくるかと思ったけど、後ずさりをはじめる。
『く、くく……甘く見ていたのは詫びよう……だが、お前たちの力は見切った。い、今はこの世界を預けておくが私は必ずこの世界を滅ぼすために、帰ってくる……!』
「逃げる気! この……!」
『”破滅の光”! 離せ畜生がぁ!』
「ぎゃん!?」
「レジナ! くう……! まだこんな力を……!」
『……ギリギリだよ。なるほど、神裂がルーナを欲していた理由が今なら分かる。だが、魔王であるお前とて寿命はある。私はお前たちが居なくなった後、ゆっくり滅ぼしてやることにしたよ……』
汚い……! やっぱりここでこいつは倒しておくべきだと、私は近づく術を考える。するとズィクタトリアは水槽から飛び出て倒れていたアイリの近くへ行く。
『さ、さすがの私も腹に据えかねたよ……神裂、お前の大事な子供の一人くらいは始末させてもらうぞ……!』
「チッ……やれるもんならやってみやがれってんだ……」
いつもの悪態をつく神裂だけど、冷や汗をかいているところをみると今度こそ策は無いらしい。今動けるのは私とレイドさんだけ、距離は十メートル、一気に駆け出してアイリを助けられれば……一回きりの大博打。失敗は許されない……!
『……お前たちが一歩でも動けばこいつの頭はざくろうのようになる。水槽で治癒を促していたんだろう? 残念だったな。まあ、私が逃げた後、魂ごと消してやるがな!』
ダメか、これはもう賭けるしかないと足を踏み出そうとしたその時だった。
「……おい、女を盾とは俺みてぇなことをするんだな、神ってやつもよ……!」
ザクン……!
『な!? ぐああああああああ!?』
なんと、気絶していたはずのアントンが背後に回り、アイリの腕を掴んでいたズィクタトリアの腕を切断したのだ。直後、アイリを投げ飛ばし遠くへと離す。そうか、アントンも勇者の力があるから動けるのね!
「返してもらったぜ! うお!?」
『アントォォォン! 貴様のような小物にぃぃぃぃぃぃ!! ならば貴様の命を貰っていく!』
ズィクタトリアは残った腕でアントンの首を掴み持ち上げ、そのまま崩れた壁の方へと走り出した。落とす気!?
「へへ……神にワンパン入れてやったってあの世で自慢してやるぜ……!」
『魂を消されてそんな戯言は言えんようにしてやる……! 死ね!』
「いけない……! <クイックシルバ>!」
「ルーナ!」
重ね掛けの要領で私はさらに速度を上げ――
『んなにぃ!?』
「アントン!」
「うおおお!? ……おいルーナ、てめぇ!」
「みんなをよろしくね!」
私はズィクタトリアに体当たりをし、アントンを掴むと塔の床へ投げ捨てた。体が入れ替わるようになった私はズィクタトリアと共に……落下を始めた。
『馬鹿な!? あんなクズのために死ぬつもりか!?』
眼前に迫るズィクタトリアが驚愕の表情にゆがみ私に問う。
「最初はクズでどうしようもない奴だったけど、人間はやり直しができるのよ。アントンは立派にやり直した。だから、クズなんて言わせない……!」
『は、はははは……人間め……どこまでも……』
「あんたたちが作った人間が、今神を越えるわ!」
『私は死なん……! たとえ地面に叩きつけられたとしても……!』
ズィクタトリアはにやりと笑いそんなことを言う。風で目を開けるのが辛い。トドメはどうすればいいんだろうと考えていると――
<心臓じゃ! 体ごと細切れにしてやれ!>
「チェイシャ!?」
<で、でも、愛の剣の真価が発揮できていないっぴょんよ!?>
<ハッ! 大丈夫さね。女が馬鹿なら、男はもっと馬鹿だってこと>
<耳が痛いよね……>
どういうこと……? チェイシャたちが好き勝手に色々言っていると、上から聞きなれた声が聞こえてきた。
「ルーナぁぁぁぁぁぁ!」
「ええ!? レイドさん!?」
ものすごい勢いでレイドさんが落ちてくるのが見えた! 装備が重いせいか私に追いつき、追い越しそうな勢いだ!
「剣を構えろ!」
「え!? こう!」
直後、レイドさんが追いつき、私の剣を掴むと、ぐんと速度が伸びる。もレイドさんが私を抱きかかえるようにし、剣をズィクタトリアへ向けた。
「お前だけ死なせるわけにいかないだろう?」
「レイドさん……」
『や、やめろ……!? 私は神――』
<いけぇぇぇ!>
<愛の力がマックスだっぴょん!>
「「うわあああああああ!」」
ドズン……
『ぐぶ……』
光り輝く愛の剣がズィクタトリアの心臓を捉えた。細切れにするには振り切るしかないと思っていたけど、その瞬間、ズィクタトリアの体が大きく膨れ上がった。
『あ、ああああああああああ!?』
ぶちゅ!
そして、ズィクタトリアの体ははじけ飛び消滅した。
「今度こそ終わりね……」
「ああ……」
地上まであとどのくらいだろう? まだ見えぬ地上を考えながら、私はレイドさんに話しかける。
「ね。<ドラゴニックアーマー>で何とかならないかな?」
「いや、無理だろう……。この高さだし……いや俺がクッションになればもしかしたら……?」
「それは嫌よ? 私だけが残されてもショックで死んじゃいそう。だったらレイドさんを残すわよ! 魔王は勇者に倒されました、って」
「……馬鹿いうな」
「ごめんなさい……」
それでもかばうように抱きしめてくれるレイドさん。ああ、この人とならと思っていると、陽が昇り始めるのが見えた。
「……綺麗」
「だな。俺達はこの世界を守った……それで、いいか……」
「そう、だね……」
私達はそのまま、意識を失った――
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