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最終部:タワー・オブ・バベル

その397 脱出

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 「……動ける! ルーナ! レイドさん!」

 フレーレが二人が飛び降りた場所へ駆け寄ると、直後眩しい光が目に入り思わず目を瞑る。しばらくして瞼の光が感じられなくなったのでそっと目を開けるが、そこでふたりの姿を発見することはできず、ただ空と雲が広がるばかりだった。

 「う、うう……」

 「泣くな嬢ちゃん。あの光……恐らくズィクタトリアは消えた証。そうだろ?」

 『……ええ。それは間違いない。神の力を持つ者は、この世界では私一人だけになったわ。……残念だけどこの高さでは勇者と魔王といえど……』

 「そんな……!」

 「がうう……」

 「ひゅーん……」

 「きゅん……」

 「きゅふん……」

 いつの間にかやってきたレジナ達も尻尾を落として主人が居ないことに肩を落とす。フルーレが拳を握って何かを言おうとしたところで、ノゾムとユウリが目を覚ます。

 「ぐ……なんだ……と、父さん……か?」

 「クソ親父! 今とどめをって……その姿……親父じゃねぇか」

 「何言ってんだユウリ? まあ、お前らが気絶している間に色々あってな。今、全部終わったぜ」

 腕組みをして難しい顔をする神裂に、やはり拘束が解けたカルエラートが寄ってくる。

 「犠牲は大きかったようだがな。……助からんか」

 「あ、あんた……よくみりゃフレーレもいるじゃねぇか!? え? なんで生きているんだ!?」

 「神裂さんが計画したことで、わたし達は死ななかったんです。おふたりも無事でよかった……アイリさんは……」

 「大丈夫だ、水槽につけていたからそのうち目を覚ます。下の魔物も消え去っているはずだから戻ろうぜ。ルーナとレイドのおかげで世界は救われた、って言いによ」

 「お兄ちゃん……今度はお兄ちゃんがこんなことに……」

 「セイラ……」

 泣き崩れるセイラを抱きかかえるニールセン。そこへクラウスが口を開く。

 「話は後だ、さっさと出ようぜ。転移陣まででも結構あるだろうが」

 「……そうだな、父さん。エレベーターはまだ使えるか?」

 「いや、下ボタンは無いから無理だな。階段を――」

 ゴゴゴゴゴ……

 と、神裂が言おうとしたとき塔が大きく揺れだす。

 「なんだ……?」

 「危ない!」

 「うおお!?」

 ボゴッ! 

 急にユウリが立っていた場所の床に穴が開く。エレベーターを昇ってきたため、フロアは無く空虚な空間が広がっており、一同がごくりと息を飲む。

 「……やろう、死ぬ寸前に何かしやがったか? 急ぐぞ! この塔、恐らく崩壊する!」

 『神裂、私は一度向こうへ戻るわ。みんなをお願いね』

 「仕方ねぇ。消える前に一仕事してやるぜ! いけお前ら!」

 神裂の叫びに全員が頷き、階段へ向かう。アイリは動きが速いカイムが背負っていた。その時、アントンがゲルスの遺体を背負っているのが見え、神裂が言う。

 「ゲルスはもう死んじまった! おいていけ、お前も死ぬぞ!」

 「……こんなところで寝かせておくのはちょっと弟子としてどうかと思ってよ。それにまだ生き帰れるかもしれねえ。責任は自分で取るから気にするな」

 「……」

 神裂はアントンの言うことには反論せず、無言で過ぎ去っていくのを見守り、しんがりを務めた。階段を降り始めた瞬間、塔の揺れが大きくなる。


 ゴゴゴゴゴゴ……


 「せめて転移陣まではもってくれ……!」

 「九十階か、厳しいかもしれませんね……!」

 ニールセンとカイムが毒づきながら階段を下りていく。しかし、九十五階に到着したあたりでカイムの予感が的中する。


 「チッ……!?」

 「フロアが……!」

 ボスがおらず、広々とした九十五階だった場所。
 そこを走っているときに床がどんどん崩れ始め、大穴が空き、戻るに戻れず立ち往生する羽目になってしまった。

 「ここまでか……!?」

 「くそ、折角生き残ったってのによ……! ルーナとレイドに申し訳ねぇぜ!」

 「悪いフレーレ。ウチの親父のせいで……何とかしたいけど……」

 「わたしは大丈夫ですよユウリさん。あの時一度死んだと思えば――」

 ユウリが申し訳ない顔をしてフレーレにそう言い、大丈夫と返すフレーレ。隣ではカルエラートがぶつぶつと大楯を構えて何かつぶやいていた。

 「私の大楯を下にして飛び降りるのはどうだろうか! そして私が下で支えれば……!」

 「この高さは無理ですよ……」

 「焦っているわね……。でも、これ以上は無理かなジャンプしても届きそうにないし」

 「ま、世界は救ったし、それが出来てるだけでも十分じゃない?」

 「チェーリカだけでも……」

 「いいんですよソキウス。わたし達は魔王との戦いできっと死んでいたんです。ここまでこれたのは奇跡みたいなものだったんですよ」

 「さすが、私のパーティメンバーは肝が据わっているわね」

 「えへへ」

 「はあ、仕方ねぇ、死ぬときは一緒ってか。あ、でもリアラにまた会うって約束やぶっちまうなあ」

 「しょうがないよー」

 諦めムードになったメンバーだが、その時突然ラズベが鳴き始めた。

 「きゅふーん! きゅふふーん!」

 「わんわん!」

 「……どうしたシルバ?」

 シルバも鳴きだしノゾムがしゃがんで声をかける。いつもなら噛まれるところだが、必死に吠えるシルバ達が何かを呼んでいるようにも見えた。

 「どうしたんでしょう……あ、もう床が――」

 「くっ……」

 フレーレが言葉を発した瞬間、最後の床が崩れ全員が落下していく。九十四階から下もどんどん崩れており、見る影も無くなっていた。

 「叩きつけられるのが後ならまだいい方か!?」
 
 「セイラさんは私が……!」

 「ちょ、ちょっと!?」

 落下が始まり、みんなが諦めかけていた時、それは起きた!


 <ワォォォォォォン!>

 <ジャァァァァァ!>

 「え?!」

 「きゅふーん♪」

 <待たせたな、我が娘よ。崩壊が始まり出てくることが出来たわ>

 <背に乗れ、我らが運んでやる>

 「でけえ蛇だと!? なんだこいつは!?」

 アントンが冷や汗をかきながら巨大な蛇の背中に落ち、遺体を取り落とさないよう片手で背に掴まる。

 「ラズベちゃんのお母さん……フェンリルさんです!」

 「それと……ヨルムンガンド、だったっけ?」

 <お、覚えていてくれたか! さあ、地上へ送ってやろう!>

 なんと、花畑のフロアで戦ったラズベの母親であるフェンリルと世界をつかさどる蛇、ヨルムンガンドがフレーレたちを背に乗せ、塔の外へと飛び出したのだ。

 「わ……綺麗……」

 「見ろ、塔が!」

 ズゴゴゴゴ……

 「天を目指した人間が建てた塔が神の怒りを買って崩れる、か」

 「なんです?」

 「俺達の世界の神話だ。ま、俺は神に勝ったんだがな? ぎゃはははは! ……ルーナとレイドを探さないとな……」

 「ええ……あ、拠点が見えてきました!」

 「みんな無事だぞ! おーい!」

 カルエラートが大声で手を振ると、地上にいたエリックやウェンディ、ブラウンたちがぎょっとしながら空を仰ぐ。やがて背に乗っているのがフレーレたちだと気づくと笑顔で出迎えてくれた。

 拠点は半壊し、負傷者多数。

 だが、強力な魔物たちは姿を消し世界の脅威が名実ともに返ってきた。

 「それではみなさん、また会いましょう」

 「私は一度育ててくれた村長さんの家に戻るわね。……お父さんもお母さんも……お兄ちゃんも居なくなったけど、あそこは私のもうひとつの故郷だから。でも、必ずまた会いましょうニールセン」

 「はい! お待ちしております! ヴィオーラの騎士たちよ、凱旋だ!」

 オオオオオオ! という声を上げ、ニールセン達は国へと戻る。それは彼らだけではなく……

 「カルエラートお姉ちゃん。王女様が待っているからまた来て」

 「ああ、必ず。レイドとアイディールは居ないが私が会いに行くよ」

 「……二人は残念じゃったのう……」

 ミトの頭を撫でながら笑いかけると、モルトがカルエラートへ言う。

 「いえ、ルーナとレイドの遺体は見当たらなかった。神裂の話だと強風にさらされて別の場所に落ちているかもと。木がクッションになったりしてどこかで生きているかもしれない。私は諦めないつもりだ」

 「……そうじゃの。わしの息子もあんな形だったが生きておった。諦めるには早いな」

 「モルト、ミト、行くぞ」

 「ああ。では皆の者、達者でな! サンドクラッドへ来た際は歓迎するぞ!」

 一団を見送っていると、隣では蒼希の面々も立ち去っていくのが見えた。その中にはカイムはおらず、ユウリと共にフレーレの横に立ち見送った。

 「師匠……」

 フレーレはカイムの肩に手を乗せ微笑むと、今度はビューリックの騎士たちが移動を始め、エリックとウェンディ、イリスが声をかけてくる。

 「……それじゃ僕達も行くよ。ルーナとレイドさんはこっちでも捜索をするから、何かわかったら連絡するよ。アルファの町でいいかい?」

 「お願いします。きっとあの二人は生きていると思います! なんせ勇者と魔王ですから!」

 「そうだな。ルーナは悪運が強いし、ひょっこり顔を出すかもしれないな」

 「アンジェリア王女に言ったら多分めちゃくちゃ必死になってくれるよ!」

 ウェンディとイリスの言葉にフレーレが笑い、エリックが片手をあげて踵を返すと三人は騎士たちに合流し去っていった。

 「……大所帯の人達はみんな行っちゃいましたね。カイムさんは良かったんですか?」

 「……こいつひとりにしておくわけにはいきませんからね」

 「ふん。好きにすればいいさ。僕は行くところもないしフレーレと冒険者もいいかもしれないな。お前にはアイリをやるよ!」
 
 「あ、いいですね! カイムさんもアイリさんとパーティを組みます?」

 「い、いや、俺は……」

 「とりあえず帰ろうぜ……師匠を寺院へ連れて行ってやりてぇ」

 「おう、アントンの言う通りだ! 帰ろうぜ、アルファの町へよ」

 残ったメンバーはアルファの町へ向けて移動を始めた。しかし――

 「……私はここでお別れだ」

 <我等もだな。この世界、我等には生きづらい。カルエラートと話をして、我らは魔王城へ行くことにした>

 <そこならルーナとレイドが戻ってくる可能性があるかもしれんし>

 「なるほど……レジナ達は――」

 「きゅんきゅん!」

 「あれ? シロップだけしかいませんよ!?」

 チェーリカが驚愕の声を上げ、フレーレが見渡すと、そこにはシロップだけがお座りをして尻尾を振っていた。フレーレはレジナ達がふたりを探しに行ったんだと理解し、シロップを抱き上げる。

 自分たちの代わりに、寂しくないようにとシロップは残ってくれたのだと。

 「いつか、必ず――」

 
 崩壊した塔を見ながらフルーレが呟き、それぞれの帰るべき場所へ向けて歩き出す。


 ――そして
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