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第五章 潜入作戦で絶体絶命 <第1話>

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  <第五章 第1話>
 午後五時過ぎ。
 馬車が、停車した。ブルーヒルの正面玄関近くの車道に。
 「三代目ルビー様。演技とはいえ、これから誠に失礼なことをすること、ご容赦ようしゃください」
 「いいのよ、ハンス。思いっきり、ビンタを張ってちょうだい。ひじを上げて、ガードするから、だいじょうぶよ」
 ハンスは、ローランド家の執事の一人だ。
 ローランド家には現在、執事三名と、執事見習い一名がいる。もちろん全員、ローランド孤児院出身だ。
 ハンスは、十年ほど前にローランド孤児院を卒業し、十二歳で執事見習いとなった。
 よって、年齢は、二十二歳前後だ。
 馬車を降りた。二人で。
 二人とも、ロングコートを着ている。
 ルビー・クールは、コートのボタンを全部、留めている。
 現在の彼女は、金髪のウイッグは、着けていない。赤毛のままだ。サングラスも、かけていない。
 ブルーヒルの正面玄関前で、二人が、立ち止まった。
 警備員の服装をしたチンピラが、二名いた。右腰には、拳銃の入ったホルスターを、ぶら下げている。彼らは、正面玄関の両脇に椅子を置き、座っている。
 警備役の一人が、立ち上がった。
 「おまえら、何の用だ?」
 ハンスが、答えた。できるだけ、わるぶって。
 「へい。ここに、いい女を連れてくれば、カネになると聞いたもんで」
 「怖いわ、ヨハン。あたし、こんなところで働くのはイヤよ」
 ヨハンは、ハンスの偽名だ。
 ルビー・クールは、頭の悪い気弱な女という設定だ。
 「おまえは黙ってろ! 少しの辛抱だ!」
 そう怒鳴りつけた。ハンスが、ルビー・クールを。
 警備役のチンピラたちが、ニヤついた。悪そうなみだ。
 「誰に聞いたんだ? その話」
 その問いに、ハンスが答えた。
 「へい。ギュンターの兄貴です」
 さらに、ニヤついた。極悪そうに。警備役のチンピラたちが。
 「ちょっと、待ってろ」
 警備役のチンピラが、玄関ドアを開けた。玄関ホール内にいる警備役に、何事かを、伝えた。よく聞こえなかったが。
 玄関ホール内には、警備役のチンピラが、四名いた。彼らも、椅子に座っている。
 その一人が立ち上がり、屋内のどこかに向かった。
 数分後、ルビー・クールとハンスは、屋内に入ることを許可された。
 ボディ・チェックは、されなかった。男のハンスは、されるだろうと考え、彼は、武器を身につけていなかった。
 ゆるい警備だ。
 廊下を進み、階段を登った。
 控え室らしき大きな部屋に、通された。
 その部屋は、室内の左右の壁際に、多くの鏡が設置されていた。それに、多くの丸椅子が、壁際に並んでいる。
 かつての楽屋がくやだ。ブルーヒルが劇場だった頃、多くの俳優たちが、ここで衣装を着替え、メイクをしたのだろう。
 ルビー・クールとハンスは、入り口ドアから見て、奥の壁際に立った。
 チンピラが三名、入ってきた。ウエイターの服装で、蝶ネクタイを着けている。
 従業員役だ。奴隷オークションの最中、金持ちの客たちに、シャンパンやワインの給仕をする。そのため、ウエイターの服を着ているのだ。
 もっとも彼らは、様々な雑用もする。監禁中の少女たちへの食事の支給などだ。
 彼らが、ネットリと眺めた。ルビー・クールのことを。いやらしい目つきで。
 小声で、話し始めた。彼ら三名が。ニヤつきながら。
 「イイ女じゃねえか」
 「赤毛の女だ」
 「赤毛は淫乱だって聞くぞ」
 そこで、笑いを押し殺した。チンピラ三名が。
 その後、続々とチンピラたちが増加した。
 ルビー・クールを、見に来たのだ。
 赤毛のイイ女が来た、と聞いて。
 チンピラたちの一部は、ルビー・クールを見ると興奮し、仲間を呼びに行った。
 数分後には、チンピラの数は、十名を超えていた。
 ウエイターの服装のチンピラは、ちょうど十名だ。
 ジャケットにノーネクタイのチンピラも、三名いる。
 彼らは、ハイエナの親衛隊だ。拳銃を隠し持っている者も、いるはずだ。
 金髪のせた男が、現れた。極太ごくぶとの黄金のチェーンを、首にかけている。
 黄金のハイエナだ。
 彼は、四名の親衛隊員を引き連れている。
 ルビー・クールが、演技を始めた。
 「いやよ。いや、いや。こんなところで働きたくないわ。ヨハン、あなたのこと、愛してる。お願い、許して」
 ハンスが、右手を高く挙げた。
 「黙って、オレの言うことを聞け!」
 ルビー・クールは、あごを引いた。
 次の瞬間、ハンスが、右手でビンタを張った。
 直前に、ルビー・クールは左ひじを上げ、ガードした。
 ダメージは、なかった。
 だが、悲鳴をあげた。わざと、ふらつきながら。
 そのときだった。
 怒鳴りつけた。ハイエナが。
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