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2 緑の婚約者
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今日のパーティで、お兄様の婚約者が披露される。
「ギルお兄様、あのね、」
お兄様と婚約者の邪魔になりたくない。
だから、もう公爵家には来ない方がいいのかな? そう聞こうとしたのだけど、
「うん?」
私の方を向いて微笑むお兄様の瞳が、あんまりにも綺麗に青く輝いていたから、次の言葉を続けられなくなってしまう。
「ううん、何でもないの」
もう少しだけ。
お兄様が結婚するまでは、毎週のお茶会を続けたい。それくらいなら、婚約者の人も許してくれる?
だって、お兄様にとって、私はただの「妹」なんだから……。
「アリア。少しだけ待っててほしい。婚約したことで、父の許しが出たから……」
お兄様は私に顔を寄せて、内緒話をするようにささやいた。触れそうなほど近い綺麗な顔に、体がかっと熱くなる。
伯父様の許し? 何のこと? 言っていることが全然頭に入ってこない。吐息が耳に触れる。
「……だから、これからもっと一緒にいられるように……」
お兄様から薔薇の香りがする。ううん、これは庭園の薔薇。お兄様からじゃない。でも、あんまりにも甘く香るから、お兄様にくらくらする。
「ギルベルト様! こちらにいらしたのですのね!」
突然、甲高い声が響いて、私達はパッと距離を取った。
緑色のくねくねした髪を揺らしながら、青いドレスの女の人が走ってくる。きっと、お兄様の婚約者になったブリーゼ・ヴィント伯爵令嬢だ。
「皆が探し回ってましたのよ。って、何をしてるんですの!?」
ブリーゼさんは、お兄様と手を繋いだままの私を見て、緑色の目をつりあげた。
「ギルベルト様から離れなさいよ!」
ブリーゼさんが私の腕をつかんだ。そして、無理やりお兄様と引き離される。
「ブリーゼ嬢! 何をするんだ」
お兄様は私をかばうように立ち上がり、ブリーゼさんをにらみつけた。
「浮気なんて、あんまりですわ!」
「何を言ってるんだ!? 彼女は僕の従妹だ! 妹のような存在だ」
「従妹?! この子が? うそよ。だって、従妹は色なしだって言ってたじゃない……。だって、全然子供じゃないわ!」
「アリアは奇跡なんだよ。この年まで、元気に生きてくれている。髪と目も、白ではなく美しい銀色だ。僕の宝物だよ」
「そんな……。色なしは病弱で成長できないはず……」
「アリアは、健康だよ。でも、かわいそうな子なんだ。無色で、魔力なしだからって、苦しんでいる。両親を亡くして寂しい思いをしているんだ。彼女を守れるのは僕しかいない。君が僕と結婚するのなら、契約通り、彼女には優しくしてあげてほしい」
かわいそうな子。
ギルお兄様の言葉に、悲しくなる。私はかわいそうなの? 私が寂しい子だから、お兄様は優しくしてくれるの?
「でも……だって……色なしは、病弱で子供のうちに死ぬっていうから……だから私、承諾したのに」
「なんてひどいことを言うんだ!」
「ち、違うわ! あなたがいけないのよ。婚約発表の時間なのに、私のことを放って、こんな子と二人きりでいるなんて! みんなあなたを探してるのよ!」
「ああ……そんな時間か」
お兄様は顔をしかめてため息をついた。そして、私の頭をなでた。
「ごめん、アリア。もう行かないと。メイドにケーキを持って来させるから、ここでゆっくりして行くといいよ。また、来るからね」
そして、私の頭にキスを落として、パーティ会場に向って行った。
ブリーゼさんは小走りにその後を追いかける。
でも、途中で立ち止まり、振り返って、緑色の目で私をにらみつけた。
彼女の唇が「消えろ」と声を出さずに動いた。
魔力なしの無色の子は、すぐに死んでしまう。
魔力を持たないせいで、体が弱く、子供のうちに儚くなってしまうのだ。
今まで7歳を超えて生きられた子供はいなかった。
でも、私は無色だけど、魔力なしじゃない。だって、糸を染色できたもの。染色不可能の魔物蟹の糸を、鮮やかな薔薇の色に変えることができるのだから。
だから、本当は魔力があるんだと思う。
でも、……。
それが何になるっていうの?
私の髪と目の色は、「色なし」の銀色。セレスト子爵家の娘なら、水の魔力を持つのが当然のことなのに。私は、ただ、魔物蟹の糸に色を付ける魔法が使えるだけ。
恥ずかしくて、そんなことは誰にも言えない。
ポシェットから白い糸を取り出す。
早く全部染めてしまおう。白色なんて、大きらい。
綺麗な薔薇の色に、全ての糸を染めつくそう。
無色なんかじゃない鮮やかな色に、全部変えてやるんだから。
「ギルお兄様、あのね、」
お兄様と婚約者の邪魔になりたくない。
だから、もう公爵家には来ない方がいいのかな? そう聞こうとしたのだけど、
「うん?」
私の方を向いて微笑むお兄様の瞳が、あんまりにも綺麗に青く輝いていたから、次の言葉を続けられなくなってしまう。
「ううん、何でもないの」
もう少しだけ。
お兄様が結婚するまでは、毎週のお茶会を続けたい。それくらいなら、婚約者の人も許してくれる?
だって、お兄様にとって、私はただの「妹」なんだから……。
「アリア。少しだけ待っててほしい。婚約したことで、父の許しが出たから……」
お兄様は私に顔を寄せて、内緒話をするようにささやいた。触れそうなほど近い綺麗な顔に、体がかっと熱くなる。
伯父様の許し? 何のこと? 言っていることが全然頭に入ってこない。吐息が耳に触れる。
「……だから、これからもっと一緒にいられるように……」
お兄様から薔薇の香りがする。ううん、これは庭園の薔薇。お兄様からじゃない。でも、あんまりにも甘く香るから、お兄様にくらくらする。
「ギルベルト様! こちらにいらしたのですのね!」
突然、甲高い声が響いて、私達はパッと距離を取った。
緑色のくねくねした髪を揺らしながら、青いドレスの女の人が走ってくる。きっと、お兄様の婚約者になったブリーゼ・ヴィント伯爵令嬢だ。
「皆が探し回ってましたのよ。って、何をしてるんですの!?」
ブリーゼさんは、お兄様と手を繋いだままの私を見て、緑色の目をつりあげた。
「ギルベルト様から離れなさいよ!」
ブリーゼさんが私の腕をつかんだ。そして、無理やりお兄様と引き離される。
「ブリーゼ嬢! 何をするんだ」
お兄様は私をかばうように立ち上がり、ブリーゼさんをにらみつけた。
「浮気なんて、あんまりですわ!」
「何を言ってるんだ!? 彼女は僕の従妹だ! 妹のような存在だ」
「従妹?! この子が? うそよ。だって、従妹は色なしだって言ってたじゃない……。だって、全然子供じゃないわ!」
「アリアは奇跡なんだよ。この年まで、元気に生きてくれている。髪と目も、白ではなく美しい銀色だ。僕の宝物だよ」
「そんな……。色なしは病弱で成長できないはず……」
「アリアは、健康だよ。でも、かわいそうな子なんだ。無色で、魔力なしだからって、苦しんでいる。両親を亡くして寂しい思いをしているんだ。彼女を守れるのは僕しかいない。君が僕と結婚するのなら、契約通り、彼女には優しくしてあげてほしい」
かわいそうな子。
ギルお兄様の言葉に、悲しくなる。私はかわいそうなの? 私が寂しい子だから、お兄様は優しくしてくれるの?
「でも……だって……色なしは、病弱で子供のうちに死ぬっていうから……だから私、承諾したのに」
「なんてひどいことを言うんだ!」
「ち、違うわ! あなたがいけないのよ。婚約発表の時間なのに、私のことを放って、こんな子と二人きりでいるなんて! みんなあなたを探してるのよ!」
「ああ……そんな時間か」
お兄様は顔をしかめてため息をついた。そして、私の頭をなでた。
「ごめん、アリア。もう行かないと。メイドにケーキを持って来させるから、ここでゆっくりして行くといいよ。また、来るからね」
そして、私の頭にキスを落として、パーティ会場に向って行った。
ブリーゼさんは小走りにその後を追いかける。
でも、途中で立ち止まり、振り返って、緑色の目で私をにらみつけた。
彼女の唇が「消えろ」と声を出さずに動いた。
魔力なしの無色の子は、すぐに死んでしまう。
魔力を持たないせいで、体が弱く、子供のうちに儚くなってしまうのだ。
今まで7歳を超えて生きられた子供はいなかった。
でも、私は無色だけど、魔力なしじゃない。だって、糸を染色できたもの。染色不可能の魔物蟹の糸を、鮮やかな薔薇の色に変えることができるのだから。
だから、本当は魔力があるんだと思う。
でも、……。
それが何になるっていうの?
私の髪と目の色は、「色なし」の銀色。セレスト子爵家の娘なら、水の魔力を持つのが当然のことなのに。私は、ただ、魔物蟹の糸に色を付ける魔法が使えるだけ。
恥ずかしくて、そんなことは誰にも言えない。
ポシェットから白い糸を取り出す。
早く全部染めてしまおう。白色なんて、大きらい。
綺麗な薔薇の色に、全ての糸を染めつくそう。
無色なんかじゃない鮮やかな色に、全部変えてやるんだから。
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