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24 金色の威圧

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「少しは見られるようになったわね」

 ルルーシア様は私をちらっと見て、そう言った。

 サリア先生の授業は順調だった。
 一般知識がないことに初めは眉を顰められたけれど、最近は、覚えが良いと褒められることも多くなった。

「お茶をお入れします」

 紅茶にジャムをたっぷり入れるのが、ルルーシア様のお好みだ。教わったやり方で、温めたカップに紅茶を注ぐ。
 上手くできてるかな?
 ふと、視線を感じて顔をあげると、ルルーシア様が私の髪留めを見ていた。

「黄金の髪飾り。それはどうしたの?」

「リュカ殿下から渡されました。侍女に支給されるものだそうです」

「お兄様が? あはっ。何それ? そんな高級品を侍女に支給するわけないでしょう」

「え?」

 どういうこと? 支給品じゃないの?

「あの、これはお返ししておきます」

 きっと、髪飾りをつけてない私を憐れんだリュカ様が、支給品ってことにしてくださったんだ。気を遣わせてしまったみたい。髪飾りは、お兄様にもらったものをたくさん持ってる。でも、全部青色。ブリーゼさんのせいで、青い物は身に着けにくくなったから。

「別に返さなくてもいいわよ。そんなことしたら、お兄様に失礼よ」

 ぷいと視線をそらして、ルルーシア様は手元の本を読む。表紙には、『魔法学第245巻』と書かれていた。
 245巻目の本? すごいな。1巻から読んだのかな?

 することが何もないので、私も近くの椅子に座って、教本を読むことにする。

『王族と光の魔法』この本には、王族がどれだけ尊い存在なのかが詳しく書かれている。貴重な光の魔法は王族にしか使えないのに、王族はどんどん人数が少なくなっている。大切な王族を守るため、常に王女様の側に控えて、いざという時には身を挺してお守りしろと教育を受けた。魔物がこの国に入ってこないのは、光の魔法のおかげなのだから。

 ちらりとルルーシア様の横顔をのぞき見する。軽くカーブを描いた淡い金の髪が頬にかかっている。

 ルルーシア様には、まだ婚約者がいないそうだけど、どこかの公爵家に降嫁されるのかな? それとも、大公家の誰かに嫁がれるの? 
 王太子様には去年、男の子が二人生まれた。二人とも魔力が多かった。それでルルーシア様には、自由が与えられているって聞いた。でも、王族だから、政略結婚は免れないよね。
 私の視線に気が付いたのか、ルルーシア様が顔をあげた。

「今日の侍女教育は終わったんでしょう? もう帰ったら? 側に人がいると集中できないの」

「はい。すみません」

 ルルーシア様は一人でいるのを好まれるから、やっぱり邪魔だったんだ。私は素直に帰ることにした。



「もう帰るの?」

 部屋から出たとたん、声をかけられた。リュカ様だ。

「送っていくよ。それに、ちょっと頼みもあるから」

 リュカ様は私の手をとって歩き出す。

「殿下、ダメです。私は侍女ですから」

 王子と手をつないで歩くなんて、周囲に見られたらひんしゅく者だ。ほら、すれ違う人が頭を下げた後、私のことをさげずむような視線を送っている。ただでさえ、色なしの私が王宮にいることは、受け入れられないだろうに。

「殿下だなんて冷たい呼び方だな。いつものように名を呼んでよ。それから、」

 リュカ様は私を側に引き寄せる。そして、壁際に寄って頭を下げている王宮の召使たちに向けて、冷たい声をだした。

「彼女は、王女のただ一人の侍女だ。代わりの存在はいない。敬意を払え。これは、命令だ」

 リュカ様の全身から金色の光が漏れだした。つないだ手が一瞬熱くなる。

「っ! ごめんっ! 魔力制御が!……何ともない?」

 あわてた様子で、手を持ち上げられて、確かめるように指で触られる。廊下にいた近衛騎士や侍女たちが、ぐったりと床に座り込んでいるのが見えた。

「良かった。魔力抵抗が高いんだね。そうか。……やっぱり君は色なしじゃないんだね」

 リュカ様がつぶやいた言葉が、小さくて聞き取れなかったので、確認しようとしたら、すぐ近くで金色の瞳が輝いていた。

「じゃあ、行こう。邪魔者もついてこれないようだしね」

 手をぎゅっと握られて、引っ張られるように駆け足で、私は馬車まで連れていかれた。
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