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逢瀬

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智は、月曜日の昼から七時頃までは風俗店に勤務し、土曜日は伊東とデート、日曜日は娘の莉愛とすごすという生活を送るようになった。

なかなかハードではあったが、娘と恋人伊東の存在は智の元気の源となり、充実した毎日を送っていると実感出来た。

智32歳、莉愛9歳、伊東31歳

波瀾万丈の智の人生だが、ニューハーフ生活も既に10年近くが経過し、女として生きることに何の疑問も感じていない。

そして、智にとって、この生活が最高だとは言えないが、考え得る中では最も幸せな生活であり、少しでも長く続けばいいと思っている。



また、伊東自身は、結婚を見据えた交際として智との事を考えており、それを体現したというか、無謀というか、ついにこの日曜日、智だけではなく、莉愛を連れて遊園地デートを決行したのである。


「なんで、伊東先生が一緒に来てるの?」

莉愛は車の後部座席で、隣りの智と運転する伊東に訊いた。

「莉愛ちゃん、一度行きたいって言ってたんだよね?

先生、色々と詳しいから一緒に行って教えてあげようと思ってね」


「ふーん

そうなんだ…

まあ、行きたかったけどね」

莉愛は不思議そうな顔をして、遠くに見える観覧車を見つめた。

智はルームミラー越しに伊東と目を合わせ、苦笑いを浮かべるしかなかった。

こういう事をするのは軽率だとしか言いようがなく、智は当初強く反対したが、伊東の熱意に押されて渋々承諾した。

伊東は結婚を前提に付き合おうと言ってくれているが、現実はそう甘いものではなく、智自身は結婚についてはほとんど期待していなかった。

戸籍上の性別は男
体も胸があって、タマは無く、一見すると女性にしか見えず、ニューハーフとして生きるようになってから、男だと見破った者はいないが…
ペニスは依然として付いており、性別変更など夢のまた夢状態である。

それと、教師という伊東の立場を考えると尚更難しい。
娘の担任であり、自分と付き合うのはたとえ普通の女であったとしても倫理的に問題がある。
それが男となれば…
これが知れれば、伊東は教師をクビになり、智と莉愛も好奇と軽蔑の目を向けられ、ここにはいられなくなる事は必至だ。


そこまでわかっていながら智は伊東の提案を受け入れて、こうして車に同乗して遊園地に向かっている。


智自身、好きになったら一途になってしまうタイプで、あまり相手の言う事を否定したりするタイプではない。

多分ホストなどにハマると大金を貢いでしまうタイプなのではないかと、自分でも思っていた。
それ故に、積極的に智に接する伊東のペースに乗ってしまっている感は否めない。


この事が、近い未来にどのように影響を及ぼすのか、今の時点では、三人とも知る由もなかった。

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