上 下
209 / 500

互助会

しおりを挟む
「信じれんかもしれんが、この辺りでは夜這いの風習が残っておってな。
結婚してようがしてまいが、よその家の者と関係を持つということが当たり前のようにずっと行われてきておる。

今回はワシの順番でな
アンタを抱く事が決まっておった、最初からな。」


耳を疑うような吉川の話に智は驚き、当然の如く拒絶した。

「そんな事をいきなり言われても、お受けする事は出来ません。」



「まあ、そう言うだろうと思ったよ。

じゃあ、少し話を変えよう。

智さん、アンタは何も聞かされてないと思うが、伊東家が持つ畑の現状を知っとるか?」


「えっ、現状‥ですか?」


「ああ、そうじゃ。

昔と違ってな、ワシら農家は普通にやってさえすれば儲かる職業になった。

しかし、伊東家だけは上手くいかず、借金だらけなんじゃ。

そして、もう限界に来ておる。
ワシらの組合は両隣の村と合わせて互助会みたいなものを作っておってな、立ち行かなくなったところに融資して助ける制度がある。

しかし、それでも足らんで、伊東の親父と一番親しかったワシが金を都合して貸してやった。

それでも厳しい状況は変わっておらん。

更なる融資が無ければ、もうもたんじゃろう。
だが組合も銀行も返すアテのない者には絶対に金は出さん。

後はワシが出すか出さんかにかかっておる。」


「でも、なんでそんな事に‥」



「圭三はバカ正直すぎたんだ。

成功するかどうかもわからん有機農業に賭けやがって。

案の定、軌道に乗らずに失敗しちまって、多額の借金背負って死んじまった。」


「えっ‥」

「まあ、ワシもアイツとは昔から仲良かったし、真面目な男だったから、ワシも出来る限りの事はしたんじゃが、死んじまってはなあ。」


「そうだったんですか‥」
 

「光江さん一人では無理だし、畑を売るように言ってたんだが、まさか敦が帰ってきて跡を継ぐとは思ってもみんかった。」


「色々すみません‥」


「多分敦もそこまで自分の家の状況が悪いとは夢にも思っとらんじゃろう。」


「‥」


「しかし、敦もアンタもこんなとんでもない田舎で腰を据えて農業をしようと帰ってきた。

ワシらにとって、アンタらのような若者は宝と言っても過言じゃない。だから、敦とアンタの気持ちに応えて、金を出してやってもええと思うとる。」


「ありがとうございます。」


「弱みにつけ込んで頼むのは不本意なんじゃが、アンタの美貌にワシは完全にマイっちまってな。

どうしても抱きたいと思うとる」


「吉川さん、ワタシ、実は‥」

抱かれる事くらい風俗嬢だった智には低いハードルだったが、やはり話しておかなければならないと、自分の素性を明かす事にした。


しかし、吉川は

「トモさん、ワシはアンタのことはよーく知っておる」

と、はっきりとした口調で言ったのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

お高い魔術師様は、今日も侍女に憎まれ口を叩く。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,002pt お気に入り:124

【全話まとめ】意味が分かると怖い話【解説付き】

ホラー / 連載中 24h.ポイント:89,630pt お気に入り:648

恋心を利用されている夫をそろそろ返してもらいます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:54,236pt お気に入り:1,266

堅物監察官は、転生聖女に振り回される。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,959pt お気に入り:153

夜の帝王の一途な愛

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,868pt お気に入り:86

片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,139pt お気に入り:19

おかしくなったのは、彼女が我が家にやってきてからでした。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:8,546pt お気に入り:3,855

真面目系眼鏡女子は、軽薄騎士の求愛から逃げ出したい。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,832pt お気に入り:246

妹ばかり見ている婚約者はもういりません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:53,998pt お気に入り:6,785

処理中です...