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水入らず

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莉愛を見送った智は、少し急ぎ気味で家に帰ってきた。

今日から由香里が不在で、食事の準備は智がしなければいけないからだった。

農作業がヒマなこの時期、智が家に戻ると、既に敦が帰宅しており、洗濯物を取り込んで綺麗に畳んでいた。


「ただいま。

あら、後でワタシがやるからそこに置いといて」


「いや、何もする事ないし、キミも疲れてるだろう?

今日からしばらく僕と二人だけなんだから、手を抜けばいいよ」


「そういうわけにはいかないわ

ご主人様なんだから」


「恐れ入ります」


敦は笑って答えた。


それから智は食事を作ってテーブルに運んできたのだが、いつもと違って静かすぎる食卓に、二人して少し調子が狂うという感想を漏らした。


「トモ、二人ですごすのっていつ以来だろう?」


「えっ、そうね

いつも莉愛が一緒だったから、付き合ってた頃以来じゃない?」


「なんか新鮮だね」


「うんうん、そう思う」


また、二人で笑ったが、その時間は長く続かなかった。


淳は言葉を発さなくなり、沈黙の時間が始まった。


「あっちゃん、どうしたの?」


「…うん、あ、いや…」


敦は少し躊躇したが、話を始めた。


「なんか、こんなふうにトモちゃんと話をしていたら、本当に別れちゃうのかなあって、なんかワケがわからなくなってきて。」


「そうね。
ワタシも変な感じがするわ。」


「この前さあ、由香里さんに、僕が思ってる事とかキミに対する思いを話したんだ。」


「そうだったの…」


「今さら何を言っても仕方ないんだけど…」


「あっちゃん…

ワタシ、本当にズルい人間なんです。

取り繕うような理由をくっつけて、あなたを由香里さんに託すみたいなお話をしたけど、本当は自分の罪悪感を誤魔化すための方便だったんです。」

「いや、それを言うなら謝るのは僕の方だよ。

この村の変な風習の事をキミに伝えていなかったわけだし、また、その後の事だって、ウチの窮状を何とかしようとして動いてくれたわけだし、それをエサに近付いてきた良二おじさんが悪いんだ。

いや、そういう状況にしてしまった僕の不甲斐なさがそもそもの原因なんだよ。」


「でも、あっちゃんはこんなに借金があるなんて知らなかったわけだし、ワタシが写真誌に出なければ、教師を続けていたはず…」


「いや、遅かれ早かれ、この畑を継いでいたと思うよ。

継ぐ前に破綻していたかもしれないけど。」


「あっちゃん…」


「トモちゃん

僕が言いたいのは、そういうことじゃなくて。

お互いに別々の道を進む事にはなったけど、僕はキミのことが大好きだし、心から感謝してるんだ。
だから、変な遺恨やしこりを残さないようにしたいと思ってる。」


もうダメだった…
智は嗚咽しながら泣き、敦の胸に飛び込んだ。
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