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それぞれの道

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莉愛は寮へ、由香里と恵太は家へと戻る日になった。


「それじゃあ、ご迷惑をおかけしますが…

なるべく早く戻るようにしますので。」

由香里は家の前で伊東家の三人に頭を下げて言った。


「こちらの事は心配しないで下さい。

閑散期ですし」


敦が言うと、智も頷いた。


「由香里さん、こういう話し合いは、期せずして時間がかかってしまうものです。
お互いに納得し合うまでゆっくり話し合って下さい。

かなりパワーを使うと思いますが」


「ええ。
でも、私の気持ちは既に固まっていますので、どんな事があっても揺るぎません。」

由香里は清々しい表情で二人に答えた。


莉愛と恵太は少し離れたところで別れの挨拶を交わしていた。


「莉愛ちゃん
寂しくなるけど、学校生活頑張ってね。

ワタシも結局はここに残る事になっちゃったけど、おじさんとママのお手伝いを頑張るから。」


「うん。
パパと由香里さんをよろしくね。
ひょっとしたら、春休みはママのいる東京に行くかもしれないから。」


「えーっ、こっちに帰らないの?」


「それまでにママが東京に引っ越してたら、の話よ。」


「そうだよね。そりゃトモちゃんのいる方に帰るよね」


「私、伊東莉愛じゃなくて吉岡莉愛だからね。
戸籍上は。」


「あ、そっか。
てか、ワタシがそのうち伊東恵太になるわ。」


「そうなるね、近いうちに。

それじゃあ、恵太
元気でね」


「莉愛ちゃんも。」


莉愛と恵太は再会を誓って別れた。



二組の親子は二台の車を走らせ、国道に出たところで二手に分かれた。




「莉愛がいなくなると寂しくなるわね。」


智は車を運転しながらしみじみと言った。


「でも、春休みにはママ、こっちにはいないんでしょ?」


「うーん
多分そうね」


「私としてはそっちの方が寂しくなるよ
七年も暮らした家なんだもん。」


「ごめんね、莉愛

ワタシのワガママで、結局莉愛にばっかり迷惑かけちゃって。」

智は身勝手な生き方をしてしまう自分に対し、ここにきてようやく反省の弁を述べた。


「ううん。
気にする事ないよ、ママ

ママもいっぱい苦労してきたじゃん
これからはママの好きなように生きて欲しいって思う。

これは私の本心」


「もう、莉愛

運転中なんだから、泣かせないでよ」


智はもう目を真っ赤にして、泣き笑いのような表情を浮かべて言った。


「私、ママもパパも大好きなんだよ。
でも、やっぱりママは特別…

この前も言ったけど、何があってもママの味方だから」


「ありがとう、莉愛
嬉しいわ…」


「パパは好きだけど、由香里さんと結婚したらちょっと家に帰るのは厳しくなるわ。

だから、出来たらでいいんだけど、ママが引っ越すとき、私の荷物も一緒に運んでくれない?」


「わかったわ。
ベッドとか大きなものは、ひょっとしたら恵ちゃんと由香里さんが本格的に引っ越してくるとき、家から持ってくるかもしれないけど…

もし、持ってこない場合は引き続き使わせてあげてもいい?
莉愛のは東京でまた買ってあげるから。」


「うん。その辺は任せるよ

ママが広いお部屋に住む事を期待してる。」


莉愛は笑って言った。
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