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「シーラ。今すぐ起きなさい」

マーガレットの声にゆっくりと目を覚ます。

シーラは二人の姿を目に映すと目をカッと見開き慌ててベットから飛び降りる。

「お、お嬢様」

何故こんな夜遅くにマーガレットとアルマが自分の部屋にいるのか。

二人の顔が険しく何かやらしかしてしまったのかと恐怖で体が小刻みに震える。

「今から聞くことに正直に答えなさい」

「は、はい、お嬢様」

震える声で何とか返事する。

「貴方は公爵家の手紙を盗みましたか」

「え?」

シーラは一瞬何を言われたか理解できなかった。

理解した瞬間体中の穴という穴から汗が噴き出た。

そんなことをすれば処刑されてもおかしくない。

今シーラは自分があらぬ容疑をかけられていることに気づく。

何故自分にそんな疑いがかけられたのかは知らないが、疑いを晴らさなければ死ぬことになる。

「そんなことは誓ってしていません!私が旦那様の手紙を盗むことなど決してあり得ません!本当です!信じてください!」

シーラは床に手をつき頭が床につくくらい下げて必死に違うと訴える。

「(旦那様の、ね)」

クスリと誰にも気づかれないよう笑う。

「そうなのね。今から聞きたいことがあるの。悪いんだけどついてきてくれる?」

「はい」





「二人に聞きたいことがあるの。公爵家の手紙が何処かに消えたの。メイナードは貴方達とヴァイオレットに手紙を出すよう指示したと言っているのだけど、ちゃんと郵便局に持っていった?もしかして盗んだ?」

二人は「そんなことしていません」とマーガレットに訴える。

「では、どうして公爵家の手紙が届いてないか説明してくれる」

「それは……」

二人は顔を見合わせ言うのを躊躇う。

「お前達さっさと言わぬか!今がどういう状況かわかっているのか!」

中々話し始めない二人にメイナードが声を荒げる。

「ヴァイオレットが私が出しとくから任せて欲しい、と言われて任せてしまって」

最後の方はゴニョゴニョと声が小さくなる。

「私もヴァイオレットに任せて欲しいと言われて、それで任せました」

ジョンもシーラも同じことを言う。

「お前達自分の仕事を人に任せたのか!」

「申し訳ありません。お許しください」

「お嬢様。もう二度このようなことは致しません。お許しください」

マーガレットに向かって頭を下げる。

「お嬢様。本当に申し訳ありません」

三人に任せたため手紙が消えたことに申し訳なく思う。

「皆頭を上げて。二人共何回彼女に手紙を任せたの」

「私は三回です」

「私も三回です」

「それは、おかしいわ。さっきメイナードに確認したらジョンには二回しか頼んでないと言っていたわ貴方は何の手紙と勘違いしたのかしら」

頬に手を当てメイナードを向き「そうよね」と確かめると「はい。間違いありません」と答える。

マーガレットはアルマの部屋に行く前に各自に何回ずつ手紙を頼んだのか聞いていたので、ジョンが三回と言うのはおかしい。

自分の犯した罪がバレそうで焦ってしまいヴァイオレットの手紙を一回奪ったのを足して言ってしまったのだ。

ジョンはマーガレットに指摘されて、そこで自分が失言したことに気づく。

「それとシーラ、さっき貴方は旦那様の手紙は盗んではないと言ったわよね。どうしてお父様の手紙が盗まれたと思ったのかしら。二人共説明してくれる?」

マーガレットは二人にニッコリと微笑む。

二人は顔を真っ青にして小刻みに体が震える。

「お、お助けください。お嬢様。もう二度こんなことは致しません。どうかお許しください」

「私も二度しないと誓います。お嬢様。どうか、お許しください」

二人は床に手をつき頭を下げる。

「ねぇ、二人共。私は説明しなさいと言ったのよ。誰が謝罪しろと言ったの」

いつも誰にでも優しいマーガレットはそこにはいない。

声も瞳も冷たい。

そこで、ようやく二人は自分がしでかした事の重大さを思い知った。

初めはただ単純にお金のためだった。

依頼者は公爵家で働く半年分の大金を手紙を渡すたびにくれた。

大金を受け取るたびに自分達も偉くなった気がしてやめるにやめられなかなった。

金さえあれば何でも手に入る。

そう思ったら手紙を渡すくらい問題ないと。

どうせ、いつもの簡素な報告だけだから大したことではない。

そう思ってしまった。

「ねぇ、知ってる?貴方達が盗んだ手紙のせいであの町が今どうなっているかわかっているの?」

中々話さない二人に苛立つ。

それでも、何も言わない二人にため息をつく。

「仕方ないわ。二人を牢屋に連れて行きなさい。いや……お父様のところに連れていくわ。その前にヴァイオレットは今どこにいるの。答えなさい」

最初はヴァイオレットが犯人だとあの部屋をみたときは思ったが、シーラが「旦那様」と言った瞬間気づいた。

ヴァイオレットは最悪の場合この世にはもういないかもしれない。

死人に口無し。

二人は自分達の罪をヴァイオレットにきせようとした。

もし、彼女が生きていれば自分達の罪が明るみにでる。

ヴァイオレットは一度目と二度目の人生で死んではいなかったが、それはマーガレットがリュミエール救済院に行かなかった場合の話だ。

過去が変われば未来も変わる。

「もう一度聞くわ。ヴァイオレットは今どこにいるの」





「急げ!この近くのはずだ!周囲をよく探すのだ!」

マーガレットの問いに「リリアの森の小屋にいます。もう死んでいるかもしれませんが」と呟いた。

マーガレットは急いで護衛に「今すぐそこに行きなさい。必ず見つけるのよ」と命令する。

護衛は数名の騎士を連れ森へと向かい小屋を探す。

あたりは暗く何も見えない。

監禁されたのは昨日の夜。

太陽が登っているときは一目につくので、皆が寝た後にヴァイオレットを小屋まで連れていったのだ。

ヴァイオレットは丸一日監禁されている。

早く見つけなければ手遅れになる。

「小屋だ。あそこに小屋があるぞ」

一人の騎士が小屋を見つけ叫ぶ。

全員その小屋に向かって馬を走らせる。

「いたぞ!まだ生きている!」

一番最初についた騎士が中に入り確認した。

その声に全員がホッとし息を吐き安堵する。

「下で馬車が待っている。彼女を横にさせてやれ。ゆっくり屋敷に戻ろう」

マーガレットが馬車を持っていけと使わせてくれた。

馬で帰るのはきついだろうからと。

普通の貴族なら使用人の為に馬車などは貸さない。

貴族でありながら誰よりも優しい心をもった人、それが騎士達の思うマーガレットだった。

「我々は貴方のような方に仕えることができ本当に幸せです」

ヴァイオレットと共に馬車に乗り込みそう呟く。
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