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落ちた銀の蝶

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シレネはこれからの自分の立場がどうなるか想像がつきその場から一歩も動けなくなる。

マーガレットはグローブを回収しようとシレネに近づく。

せっかくアイリスが作ってくれたのにシレネに投げつけてしまったことを申し訳なく思う。

「返してもらっても」

手を出し手袋を返すよう促す。

シレネは中々渡そうとしなかったが、痺れを切らしたヘリオトロープがグローブを取りマーガレットに渡す。

「ありがとうございます」

「いえ」

二人の態度が気に食わず睨みつける。

「では、私達はこれで。次は決闘の日にお会いしましょう」

二人はシレネの前から立ち去ろうとしたが、ヘリオトロープが立ち止まる。

「そういえば先程貴方は独り占めはよくないとおっしゃいましたが、何故私が貴方方と仲良くならないといけないのですか。私にも選ぶ権利があると思いませんか。私は貴方方のような人とは仲良くなりたいと思っていません。はっきりといって迷惑です」

相当苛立っていたのか口調が強い。

シレネはヘリオトロープの放った言葉が信じられず放心してしまう。

今まで一度も男から拒絶されたことはなかった。

欲しいと思い誘惑すればどんな男もすぐ落ちて自分に好意を寄せてきた。

シレネは自分は美しく特別な存在だと思っていたのでその言葉が信じられず許せなかった。

マーガレットのせいでプライドがズタズタにされたのに、ヘリオトロープの今の一言で築き上げた地位が崩れ落ちていくのを感じた。

だがシレネには言い返す言葉がなく、ただ黙って聞くしかできなかった。

ヘリオトロープは言いたいことを言えてスッキリしたのか「お待たせしました、マーガレット様。行きましょう」とマーガレットをエスコートしながら会場を出て行く。

シレネもこれ以上ここにいれず急いで会場から出て行く。

シレネが会場から出て行く迄の間、貴族達の嘲笑が耳に入ってきて耐えきれず顔を真っ赤にして怒りを露わにする。

貴族達はシレネが出て行った瞬間「彼女は終わった」「社交界のクイーンにはなれなかった」「もうあの派閥は終わった」と散々なことを言いたい放題言われた。

ロベリアもようやく目障りで鬱陶しかったシレネが落ちていき、大笑いして喜びたいのを必死に我慢する。

これで漸く社交界を牛耳ることができると。

例え王妃でも社交界を牛耳るのは容易ではない。

今、社交界は三つの派閥に分かれていた。

王妃派、シレネ派、どちらにもつかない中立派。

だが今の一件でシレネ派は終わった。

後はこのまま社交界を物にできれば王宮を乗っとる計画に移行できる可能性が高くなった。

この計画には障害が多々あるが我が一族の悲願の為断念する訳にはいかない。

一歩前進したことでつい気が緩みそうになり、にやけそうになる顔をなんとか必死に耐えたせいでロベリアの機嫌が最悪だったとパーティーが終わった後、民達の耳にも届くくらい噂された。



「マーガレット様。もうお帰りになりますか」

国王からの命は果たし終え、これ以上ここにいる意味はないからさっさと帰りたくて仕方ない。

「いえ、まだやることが……」

周囲を見渡す。

マーガレットの行動が理解できず首を傾げる。

マーガレットの行動は傍から見れば奇行に近いが、それには訳があった。

シレネが現れたせいでアネモネから目を離してしまった。

そのせいで、いつの間にか会場から居なくなっていることに気づくのが遅れた。

アネモネがこのパーティーで何かしたのは間違いない。

一刻も早く見つけなくてはいけない。

「あの、クラーク様ひとつお願いがあります」

「はい。何でしょうか」

「神聖力で見つけて欲しい人がいるのですができますか」

「会ったことがある人ならできますが、流石に会ったことない人は難しいです。それで見つけて欲しい相手は誰ですか」

「アネモネ・シルバーライスです」

シルバーライス。

シレネの娘か、と一瞬で理解する。

「会ったことがないので難しいです。理由を聞いても」

「理由は帰りながらでもいいでしょうか。今は一刻も早く見つけないといけないのです」

「わかりました。理由は後で聞きます」

「時間がないので二手にわかれましょう」

ヘリオトロープはマーガレットの護衛でここにいるのにそれはできないと断わろとしたが、あまりにも必死に訴えるので神聖力で手のひらサイズの猿の守護霊を作る。

「これは?」

自分の肩に乗った小さな猿を不思議そうな目でみる。

「私の変わりにその者がマーガレット様を護ります。マーガレット様と私の以外には見えないようになっていますので安心してください。見つけ次第連絡してください」

「わかりました」

そう返事すると二人は別れてアネモネを捜し始める。

王宮は広過ぎて暫く捜したが見つからない。

焦りと苛立ちで感情がぐちゃぐちゃになっていく。

早く見つけないと。

その感情に囚われ目の前が真っ暗になりかけたとき、風が頬を撫でた。

風が吹いてきた方を見ると庭が見えた。

そういえば庭は捜していなかったと思い出し急いで外に向かう。

庭と言っても範囲は物凄く広くどこから捜していいか悩む。

とりあえずあまり人気がないところから捜すことにした。

アネモネのことだから人目につかないところを選ぶだろうと。

ドレスが汚れないよう細心の注意をはらいながら移動する。

一番人が来ないところに到着したが誰もいなかった。

ここではなかったかと次のところに移動しようとしたときどこからか声が聞こえてきた。

女の声と男の声が。

女の方はアネモネなのでは、と確認する為声のする方に向かう。

向かっているはずなのに道が複雑で辿りつけない。

仕方ないと、近くに会った木に登りどこにいるか確かめようとドレスのまま登る。

上手く登れたが真っ暗でよく見えない。

後ろも確認しようと振り向くとドレスを踏んでしまい体勢を崩してしまう。

「きゃあ」

しまった。

ドレスの重みで下に体が落ちる。

体勢を立て直したくてもいつも着ている物とは勝手が違いすぎて体が思うように動かない。

地面とぶつかる。

そう思って衝撃に備えて体を固くするが、一向に痛みを感じない。

「大丈夫ですか」

声をかけられ漸く誰かに助けられたのだと気づいた。

目を開け誰なのかと確認する。

マーガレットを助けたのは二度目の人生でアネモネと結婚したルドベキア・エカルトだった。
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