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第八章 二年次
第213話 不意打ち
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学園祭三日目。
この日はペシエラの試合はなく、シルヴァノやペイル、それにオフライトの試合が残っていた。
「ロゼリア、ペシエラ。ここは私だけでいいから、たまには二人で学園祭を見てきたらどう?」
唐突なチェリシアの申し出に、ロゼリアとペシエラは目をぱちくりさせた。
「お姉様、一人で大丈夫ですの?」
ペシエラが心配のあまり、チェリシアを気遣う。だが、チェリシアは笑顔だった。
「うん、大丈夫よ。キャノルさんも居るし、他の職員たちだって居るから」
そう言ったチェリシアは、ペシエラたちに近付いた。
「本音はたまにはゆっくり二人で話してもらいたいだけよ。学園での二人は、ごたついた記憶しかないでしょう?」
どうやらこの提案は、二人の逆行前を思っての事だったらしい。それを聞いたペシエラは、
「お姉様、余計な気遣いは困ります。今の私たちはそんな事はもう気にしていませんから。ね、ロゼリア」
と言ってロゼリアを見る。
「ええ、まったくよ」
ロゼリアも呆れながらチェリシアを見た。
「でも、たまには二人でというのも、悪くはないかもね」
「そうですわね」
二人は余計とは言いながら、別に迷惑とは思っていないようだった。
「では、お姉様。よろしくお願いしますわね」
「ええ、任せて」
チェリシアは笑顔で二人を送り出した。その直後、
「おや、今日はロゼリアは居ないのか」
「か、カーマイル様。どうしてこちらに?」
不意に声がしたので振り向くと、そこにはロゼリアの兄であるカーマイルが立っていた。
「申し訳ございません。ちょうどペシエラと一緒に学園祭を回ってみては、と送り出したところでして。ロゼリア様にご用でしたか?」
チェリシアはおそるおそるカーマイルに確認する。
「いや、私も商会の人間として、出展の様子を確認しにきただけだ。居たら軽く話する程度の用だ。気にしないでくれ」
カーマイルは眉間に手を当てながら、顔を背けたまま答えた。
そういえば、ロゼリアに聞いた話、カーマイルは父親の仕事を継ぐためか、かなり忙しくしているらしい。実の兄妹であるロゼリアも、週に一度顔を合わせられればいい方だったそうだ。学園の方は講義免除を受けており、どうやらマゼンダ領で領地経営の勉強をしているらしいのだ。これは逆行前ともゲーム内容とも相違はなく、カーマイルは変化の影響を受けていないようだった。
「うーむ、友人と一緒というのなら、邪魔するのも悪いな。せっかくだし、商会が何を出品したのか見させてもらおうか」
カーマイルはそう言って、カウンターの中まで入ってきた。
「では、カーマイル様、ご案内致します」
チェリシアはキャノルや職員に客対応を任せて、カーマイルを中まで案内した。
「今回の出し物は、この小型調理窯とそれによって調理されたピザやグラタンなどの販売です」
裏では職員たちがひっきりなしにピザを焼いている。
「トッピングに使っている物は、マゼンダ領やコーラル領の野菜や果物、それに海の幸となります。新しい魔道具の紹介と共に、私たちの領の作物の紹介を兼ねているんです」
チェリシアの説明を聞いたカーマイルは、店の状況を確認している。この日もひっきりなしに客が来ており、売り込みとしては成功している事が窺える。
「君たちの料理は、確かにうまいからな。これだけ繁盛するのは理解できるな」
ピザを食べながら、穏やかな表情で感想を話すカーマイル。その姿に、チェリシアは感動していた。
(ああ、カーマイル様は絵になるわぁ……)
逆行前やゲームでは実妹を陥れるカーマイルだが、今は兄妹の確執もないし、彼を狂わせる人物も居ない。そこに居るのは、仕事や勉強のできるイケメンだった。
チェリシアとカーマイルが談笑をしていると、血相を変えたキャノルが飛び込んできた。
「申し訳ない、チェリシア様」
「ど、どうしたの、キャノル」
カーマイルが居るので、キャノルは呼び捨てになっている。
それはどうでもいい。
慌てた様子にチェリシアは面食らっている。それに構わず、キャノルは辺りを見回した後、チェリシアに耳打ちをする。
「実は、隠蔽魔法を使ったと思われる魔力を感知したんだ」
「えっ、隠蔽魔法?」
「はい。あたいはその魔法が得意なので、他人の使用にも敏感なんです」
キャノルの説明に驚くチェリシア。聞き耳を立てていたカーマイルもそれに反応する。
「それはどっちの方角だい?」
「えっと、武術大会の会場の方で……。って、あっ、あのっ」
キャノルはカーマイルの割り込みに驚いている。しかし、カーマイルは動じない。
「去年もあったそうじゃないか。キャノルと言ったね、すぐに案内してくれ」
「は、はいっ!」
カーマイルはキャノルを連れて店を出ていく。
「ごめんなさい。私もちょっと出なきゃいけなくなっちゃった。リモスさん、ルゼさん、あとはお願い」
「えっ、あっ、はい。お気をつけて」
「畏まりました」
チェリシアも慌てて外へ出ていく。
一体キャノルは、どんな隠蔽を感知したのだろうか。チェリシアは不安に思いながら二人を追いかけた。
この日はペシエラの試合はなく、シルヴァノやペイル、それにオフライトの試合が残っていた。
「ロゼリア、ペシエラ。ここは私だけでいいから、たまには二人で学園祭を見てきたらどう?」
唐突なチェリシアの申し出に、ロゼリアとペシエラは目をぱちくりさせた。
「お姉様、一人で大丈夫ですの?」
ペシエラが心配のあまり、チェリシアを気遣う。だが、チェリシアは笑顔だった。
「うん、大丈夫よ。キャノルさんも居るし、他の職員たちだって居るから」
そう言ったチェリシアは、ペシエラたちに近付いた。
「本音はたまにはゆっくり二人で話してもらいたいだけよ。学園での二人は、ごたついた記憶しかないでしょう?」
どうやらこの提案は、二人の逆行前を思っての事だったらしい。それを聞いたペシエラは、
「お姉様、余計な気遣いは困ります。今の私たちはそんな事はもう気にしていませんから。ね、ロゼリア」
と言ってロゼリアを見る。
「ええ、まったくよ」
ロゼリアも呆れながらチェリシアを見た。
「でも、たまには二人でというのも、悪くはないかもね」
「そうですわね」
二人は余計とは言いながら、別に迷惑とは思っていないようだった。
「では、お姉様。よろしくお願いしますわね」
「ええ、任せて」
チェリシアは笑顔で二人を送り出した。その直後、
「おや、今日はロゼリアは居ないのか」
「か、カーマイル様。どうしてこちらに?」
不意に声がしたので振り向くと、そこにはロゼリアの兄であるカーマイルが立っていた。
「申し訳ございません。ちょうどペシエラと一緒に学園祭を回ってみては、と送り出したところでして。ロゼリア様にご用でしたか?」
チェリシアはおそるおそるカーマイルに確認する。
「いや、私も商会の人間として、出展の様子を確認しにきただけだ。居たら軽く話する程度の用だ。気にしないでくれ」
カーマイルは眉間に手を当てながら、顔を背けたまま答えた。
そういえば、ロゼリアに聞いた話、カーマイルは父親の仕事を継ぐためか、かなり忙しくしているらしい。実の兄妹であるロゼリアも、週に一度顔を合わせられればいい方だったそうだ。学園の方は講義免除を受けており、どうやらマゼンダ領で領地経営の勉強をしているらしいのだ。これは逆行前ともゲーム内容とも相違はなく、カーマイルは変化の影響を受けていないようだった。
「うーむ、友人と一緒というのなら、邪魔するのも悪いな。せっかくだし、商会が何を出品したのか見させてもらおうか」
カーマイルはそう言って、カウンターの中まで入ってきた。
「では、カーマイル様、ご案内致します」
チェリシアはキャノルや職員に客対応を任せて、カーマイルを中まで案内した。
「今回の出し物は、この小型調理窯とそれによって調理されたピザやグラタンなどの販売です」
裏では職員たちがひっきりなしにピザを焼いている。
「トッピングに使っている物は、マゼンダ領やコーラル領の野菜や果物、それに海の幸となります。新しい魔道具の紹介と共に、私たちの領の作物の紹介を兼ねているんです」
チェリシアの説明を聞いたカーマイルは、店の状況を確認している。この日もひっきりなしに客が来ており、売り込みとしては成功している事が窺える。
「君たちの料理は、確かにうまいからな。これだけ繁盛するのは理解できるな」
ピザを食べながら、穏やかな表情で感想を話すカーマイル。その姿に、チェリシアは感動していた。
(ああ、カーマイル様は絵になるわぁ……)
逆行前やゲームでは実妹を陥れるカーマイルだが、今は兄妹の確執もないし、彼を狂わせる人物も居ない。そこに居るのは、仕事や勉強のできるイケメンだった。
チェリシアとカーマイルが談笑をしていると、血相を変えたキャノルが飛び込んできた。
「申し訳ない、チェリシア様」
「ど、どうしたの、キャノル」
カーマイルが居るので、キャノルは呼び捨てになっている。
それはどうでもいい。
慌てた様子にチェリシアは面食らっている。それに構わず、キャノルは辺りを見回した後、チェリシアに耳打ちをする。
「実は、隠蔽魔法を使ったと思われる魔力を感知したんだ」
「えっ、隠蔽魔法?」
「はい。あたいはその魔法が得意なので、他人の使用にも敏感なんです」
キャノルの説明に驚くチェリシア。聞き耳を立てていたカーマイルもそれに反応する。
「それはどっちの方角だい?」
「えっと、武術大会の会場の方で……。って、あっ、あのっ」
キャノルはカーマイルの割り込みに驚いている。しかし、カーマイルは動じない。
「去年もあったそうじゃないか。キャノルと言ったね、すぐに案内してくれ」
「は、はいっ!」
カーマイルはキャノルを連れて店を出ていく。
「ごめんなさい。私もちょっと出なきゃいけなくなっちゃった。リモスさん、ルゼさん、あとはお願い」
「えっ、あっ、はい。お気をつけて」
「畏まりました」
チェリシアも慌てて外へ出ていく。
一体キャノルは、どんな隠蔽を感知したのだろうか。チェリシアは不安に思いながら二人を追いかけた。
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