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第13話

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 朝、屋敷に戻ってきた私はウイル様が使っていた部屋へと入る。
 決して踏み入る事の出来なかった想い人の部屋。
 それでも、確かめたい事があった。

 部屋の構造は私の部屋と変わらない。置いてある物も大差は無かった。
 だが一点。
 ベッドの横の木製テーブルの上に本が置いてある。
 その装丁から日記帳だと分かる。
 いけない、そう思わないでもなかったが、思い切ってそれを開くと……。

「え?」

 中身は白紙だった。
 これは一体?
 不思議に思った私だったが、はっとして、頂いたペンダントを日記帳へとかざしてみる。
 ペンダントは鈍い光を放つと、白紙の上に文字が現れた。

 昔、このような細工の魔術について聞いた覚えがあった。

 現れた文字を読み込んでいく。
 そこには、彼の母の死を始めに、森の中での私の出会いと日々について。

 ウイル様の母上様は、私がこの森を訪れる数日前に毒を飲まされて亡くなったらしい。
 その首謀者が、分家筋のウイル様方を疎んじたラーテンの手によるものだと分かったが、決定的な証拠を掴む事が出来ず、憤りを感じる日々を送っていたらしい。
 幼い頃に父上様を事故で無くした為に天涯孤独の身になってしまわれたウイル様は、一時でも俗世を忘れたくなり、かつて、母上様が父上様とお忍びで来ていたという屋敷を訪れる為にこの森へと足を運ばれた。
 そして私と出会った。
 どこか、亡き母上様の面影を持つという私と出会った事に運命を感じ、共に在りたいと思ったそうだ。
 私との生活で心を癒され、安らぎを得た彼は、生まれて始めての恋を手に入れた。それが私だ。
 あの夜の事もあり、王族としての伝手を使って私の事を詳しく調べる内に、私が憎きラーテンの元婚約者であり、身勝手にこの森へと追放された事を知る。
 義憤に駆られ、再びラーテン打倒を決意した彼は、彼と志を同じくする者達と交流した。
 中には、城に使える兵士も居たのだという。
 権力を傘に身勝手を振るう男故に、あらゆる方面に恨みを持つ者は事欠かない。
 戦力を整えていたある日、ウイル様の元へラーテンからの手紙が届く。
 自分に牙を向ける者達の事を何処からか聞いたラーテンは、降伏を迫った。その返事の為に城へと向かわなければならなかったらしい。
 もしもの事が起きたとしても、戦力の再編のみで派手な行動を起こさないよう同士達に言い聞かせた彼は、城へと発つ。

 そうか。ウイル様は王家の血筋だったのか……。
 あれ程の気品も豪胆さにも納得がいった。
 私にさえ出会わなければ、彼は今も生きていたのだろうか。
 いや、こんな考えは傲慢だろう。

 日記は最後にこう綴られていた。

『もし、これを貴女が見ているならば、俺はやはり死んだのだろう。死人がこのような事を伝えるのは未練であるし、情けないものと捉えるかもしれない。それでも……貴女と出会えてよかった。貴女との出会いと日々をそして、――貴女の全てを、愛しています』

 私は、日記帳を閉じるとそれを胸に抱く。
 


 やっと……私の目から涙が流れ出た。


 ◇◇◇


 それから数年後の事である。
 王家の血を引く者は居なくなり、また、ラタサ家をはじめとする強権派の貴族達も何故か非業の死を遂げていったこの国。
 災いと恐れた大臣達も政治と関わらなくなり、とって変わるように国民が政治の場に躍り出るようになった。

 今では民主主義が幅を利かせている。
 民衆達は、王政時代では叶わなかった権利を手にいれたのだ。

 ――時計の針は確かに進んだ。

 屋敷の窓から、青空の中を雄々しく飛び立つ鳩を見るサラタは、そっと呟いた。



 ――おさらばでございます、……あなた。



 ~fin~
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