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産声

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 異世界の花が咲き誇る季節にアレンと香織の子供が生まれた。黒髪の元気な男の子だった。目の色がアイスブルーの目をしていた。病院で出産をした香織の元に検査のためと沢山の医者が集まってきた。検査をされても問題がなかったので、子供はすぐに戻された。

「お医者様に見られるのはどうしてですか?」
「それは俺の目が光に弱いからじゃないかな」
「そうですか。私は目が弱いから、目が悪かったら私のせいね。」

 話しを聞いていたリリアンが部屋に入ってきて子供を抱いてやってきた。

「2人の子供だから大丈夫よ」
「リリアン、もう退院なの?」

 リリアンは女の子の赤ちゃんを抱っこしている。

「ええ、夫が待っているの。家で2か月水仕事は禁止でねたきりよ。お風呂も入ることを禁止されているわ。寒さは厳禁なの。そういえば今年の角ウサギは9個も尻尾があるそうよ。それも何匹も捕まったんだって。肉付も良くて美味しいの」
「角ウサギで尻尾が多いと美味しいのね」
「母乳の出も良くなるんですって、赤ちゃんにも夫にも飲ませないと。カーリーの世界では飲まないの?栄養があって美味しいから次の子作りのために夫に飲ませるの。こっちの世界の普通よ」

 香織の表情が固まってアレンとリリアンを見ると、そっちの世界と違うのねと気まずい空気になった。病院の先生に聞くと本当らしく、個室の香織が6人部屋を通り過ぎた時。カーテンの仕切りのある日本の病院と違って、こちらの世界にはない。おっぱいを吸っている男性の姿が目に入って、リリアンが言っていたことは本当なのかと驚いた。

「赤ちゃんが吸い終わった母乳を吸うことで乳腺炎にならない。飲み過ぎると過剰に作られて胸が痛くなるので、適度に飲むこと」

 夫婦で医者から説明されて、すぐに理解するアレンと疑問を浮かべる香織。その日からアレンは恥ずかしがる香織の胸を吸いだした。アレンはゴクゴク母乳を飲むと母性本能が芽生えた。

 治癒魔法と10歳若返ることは占い師の人でも出来なかったようで、魔法がない世界だと分かっていても言ったことを思い出して悶えてしまった。病院のベットではやることもなく、アレンが子供を抱きしめてあやしている。
 子供を抱きしめている夫を見て香織は思った。

 異世界に来てよかった。
 過去に色々あったけれど夫と子供がいて愛されている。

 ♢

 子供が10か月になった時に歯が生えだしておっぱいを飲むことをやめてしまった。アレンは相変わらず吸っている。異世界で当たり前のことらしいので受け入れることにした。

「アレン、凄く嬉しそうに飲んでる、ひんっ、うう」

 子供たちを侍女に預けて二人きりになるとアレンは胸を吸うことをねだる。角ウサギのおかげか知らないが沢山母乳が出るのでアレンに飲ませている。こちらの世界に来てから大きくなった乳房は交尾をしながら吸うことが出来る。

「アレン、赤ちゃんできちゃう、んあああああ」

 香織は子宮を子種で満たされて光悦的な表情を浮かべている。出産3か月後、ケガをした侍女に近づいて手を撫でると傷が治っていた。どうやら治癒魔法が使えるようになっていた。病院で確認すると重病者を癒すことが出来たので本物と確信した。

 アレンも同じ時期に使えるようになって、騎士団で腕がなくなった人の腕を元に戻すことが出来た。
 奇跡の力を無償で使っている。生活が犠牲にならない程度に。子供が第一なので長い時間働いていない。

 アレンはすぐに2人目を妊娠したいさせたいが我慢している。
 一人目出産後、アレンは結婚式をしたいと行っていた。奇跡の力を無償で使っている夫婦のために国が結婚式を無償でしてくれるので香織は安堵した。知らない世界で子供を産んで、子供のために財産を残しておけばよかったとこの時思ったからだ。

 用意されたウエディングドレスは水色の生地に金色の刺繍が入った物で運命の番と結婚する時に用意されるものだと聞かされた。結婚式当日、アレンの両親は遠くから息子が結婚するところを見ていた。両親のいない香織に、アレンは嘘をついた。自分の親も親戚も死んでしまったと。
 かつて、義母に苦しんできたので自分の親も近づくべきじゃないとアレンは考えた。他人のふりをして、たまに子供たちを会わせている。

 運命を初めて見た時、両親は泣いていた。腕のなくなった友人の側で、奇跡に感動しているふりをして涙を拭う。

 アレンに何度も運命を悲しませるな、運命はこの世界から逃げたくても逃げられない。何があっても運命の傍にいろとアレンに口酸っぱくして言っていた両親だ。きっといい人だろう。しかし、それでもアレンは死んだことにさせている。

 何事も適度に距離を取っていいときがある。

 アレンと香織の結婚式は少ない人数で行われた。アレンが香織を隠したい気持ちでいっぱいで人目に晒したくなかったからだ。僧侶のふりをして国王陛下や宰相や重鎮たちが来ていた。300年ぶりに来た異世界の運命に感動している。そのことは香織は知らない。呼ばれたリリアンは夫の肉屋の亭主と共に泣いていた。

 世界中で一番幸せな夫婦だねと泣いていた。

 25歳の時から香織は子供を産んでいる。子供がいるとにぎやかでやることも多い。森の中の家は大きく作り変えられて、子供の面倒を見る人が必要だからと従者も増えた。お金のことを聞くと心配ないとアレンに言われた。異世界の事は香織には分からない。

 ただ安心して産んでいいということが分かる。 
 占い師の人は5人目の子供が生まれた時病院にやってきた。アレンは元の世界に香織が帰れることを言うのか警戒した。占い師は元の世界の話を香織としていた。詳しく場所を知っているので、どうしてだろうと聞いたら秘密と言われた。

 来たのは5人目の子供が占いの後継者になるからお祝いに来たと言っていた。今から楽しみにしていると言われて、占い師は立ち去っていく。

 異世界にやってきて10年後35歳の時。もう産めないねと話していた。香織は最近体力の衰えを感じていた。もっと産めたらいいのにねと言って眠った時、夢の中で流れ星が流れる夢を見た。家族に囲まれながら、幸福な夢だった。アレンも同じ夢を見たらしい。

 すると数日後、14歳の姿になった。アレンの姿も若返った。

「カオリ良く似合うよ」

 新しく用意された服を着て二人は抱きしめ合った。長男と年が近くて変な感じだと言われた。35歳のアレンも好きだけれど、14歳のアレンも好きだと香織が言うとアレンも同じように褒める。

 異世界からやってきた香織のことを少しの人しか誰も知らず、カーリーと呼ばれて国に数人しかいない治癒の魔法を夫婦でかけている。
 奇跡の力は子供にも引き継がれることを知ったので、病院はいつ休んでもいいというので子作りをした。異世界だから出来る行動だ。気が付くと年子で産んでいて世話係も雇って面倒見るようになった。

 いつか国から医師不足を解消されることになるだろう。

「ねえ、今年の角ウサギ13個も尻尾が生えているウサギが出たんですって」
「うちの子供も12人目が生まれたけれど、どっちの数が多くなるか競争ね」

 アレンの性欲は強く、香織も若返り子供を産んでも苦労しないので産めなくなるまで頑張ろうということになった。若返ったので、もっとだ。
 何故こんなこと子供を産むようになったのかというと。香織は、この世界に来て数年でこの国の人たちが魔法を使えるところを見た。驚いているとこちらに向かって皆が丁寧にお辞儀をしている。

「異世界の人が子供を産むと精霊たちが祝福しに地上に来るんだ。香織が子供を産んで、精霊たちが地上に祝福をかけてくれたのかもね」
「へ、へえ。治癒魔法を使えるようになったのも、そのため?」
「この世界できちんと育てているか見に来ていると思う。」

 ファンタジーの世界のことを言われて香織は分からない顔をした。自分が産んだ子供が魔法を使えるようになって、香織は異世界に来たんだなと何度目かの実感をした。

 異世界に来なかったら、こんなに子供を産んでなかっただろう。人の目を気にして、産む時期も考えていた。
 アレンと出会わなければ出来なかったことだ。
 占い師の人の言葉を信じて、アレンに出会って良かった。運命を信じてよかった。

 異世界から来た運命の番のカオリとアレンは今日も奇跡の力を使う。町に来られない村人のために2人で馬に乗って巡回する。角ウサギの尻尾がたくさん生えているのでアレンは弓を構えるともう一匹出てきた。角が3本生えている珍しいうさぎで尻尾が16個生えている。

「角ウサギは一夫多妻制なのに2匹寄り添っているね」

 アレンは香織の後頭部にキスをした。愛おしい香織。腕の中にいる香織を抱きしめると苦しかった10年間は記憶のかなたに消え去ってしまった。
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