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第五章 都市国家の聖獣
カトレアの祝福
しおりを挟むアーカムが大祭壇のまえで対超能力者用魔術の氷を身に着けている間、アンナもまた汗を流していた。
クリスト・カトレア城の地下。
古代の剣闘士たちが血を流した修練場に、空を斬っているとは思えない鋭利な響きがあった。
数十年ぶりに剣士の修練に使われていた。
久しくおとずれた強者の剣劇を、修練場は諸手をあげて歓迎する。
「ん」
ひとりビュンビュン剣をふりまわしていると、修練場の端っこにある鎧が動き出した。
鎧はさびた剣を手に取ると、アンナへ斬りかかってくる。
修練場に宿った剣闘士の魂が、血と鋼の共鳴を求めて、目を覚ましたのである。
アンナは「ふーん」と、すこし楽しげにして、鎧の相手をすることにした。
鎧を一体倒すと、今度は別の鎧が動きだした。
アンナはこの時点で10時間ほど鍛錬を積んでいたが、それでも、好戦的に鎧の挑戦を受け続けた。
血の模倣者はナチュラルに戦闘狂なのだ。
次の鎧。次の鎧。次の鎧。
個体がかわるたびに、鎧の動きはだんだんと良くなっていく。
3時間後、実に100体の鎧との組手を終えた後、アンナは流石に息が切れていた。
(鎧たちはみんな剣聖流の使い手……7つ前から四段保有者の動きに近づいて来てる)
今度の鎧の剣士は、精強な圧をまとっていた。
アンナは深く息を吸う。
鋭く踏み込んでくる鎧。
同時に鎧を包む圧層が爆発的に増大した。
瞬間、圧のオーラがぎちっと硬化した。
膨大なオーラすべてが鎧剣士の得物──レイピアへ集約された。
見たことも無い剣気圧の流れに、アンナの戦闘本能が警笛を鳴らす。
深く踏み込む鎧。
割れる地面。
レイピアが勢いよく突きだされる。
アンナは飛び退いて、距離をとって避ける。
だが、レイピアが纏う圧の層は、突き出された勢いのままにぐんっと伸びて来た。
「ッ!」
アンナは慌てて首をふった。
鎧圧の槍が頬をわずかにかすめる。
だが、回避には成功した。
通常、圧は体から離れるほどにコントロールが効かなくなる。
だというのに、鎧の剣士が使った、伸縮自在の一刺しは、修練所の端──実に60m先の壁に突き刺さってようやく止まるほどの射程を誇っていた。
「なるほど。それ、剣聖流・天穿ってわけだね」
レイピアを引っ込め、鎧は伸びきった鎧圧を手元に戻すと、再び引き絞り、アンナに風穴を開けようと、圧の槍を撃ちだした。
──銀狼流剣術二ノ型・押さえ
アンナは突きだされる天穿《あまうが》つ神槍《しんそう》を避け、上から思い切り踏みつける。
ガクンっと鎧の体勢がくずれ、致命的な隙が生まれた。
アンナはそれを逃さず。
すかさず兜をぶったたき、頭を弾き飛ばす。
中身はこれまで同様空っぽだ。
ガシャンっと大きな音をたてて、崩れ、床の上にそれぞれのパーツが散らばった。
「意外と強かったかも」
ふう、っと汗をぬぐうアンナ。
その時だった。
修練場の奥の壁が動きだした。
ゴゴゴゴゴっとズレて、石像があらわれる。
アンナはこの3時間にわたる連戦の経験から、動く鎧かと思い、身構えた。
だが、どうやらそういうことではなかった。
石像は剣を差し出すようにして持っていた
鞘に納められた不思議な威風の剣だ。
アンナは石像の手からその剣を拝借する。
抜剣すると、剣の見事さに、思わず息を呑んだ。
刃渡り90cmの直剣だ。
簡素な装飾が鍔に施されている。
剣身は特別な金属でできているのか、ほんのりと水色に輝いている。
アンナはよく吟味し、内包された魔力の高さと、剣の質の高さから、四等級──伝説級の剣だと判断した。
名が剣身の根元に刻まれており『カトレアの祝福』というらしかった。
「いいの手に拾った」
アンナはご機嫌に、ごく自然に私物化するのであった。
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