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第七章 魔法王国の動乱

キサラギvs絶滅指導者

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 キサラギは高周波ブレードを握り締める。
 絶滅指導者に勝負を挑もうと言うのか。
 無謀すぎる。キサラギが人狼をひとりで制圧するほどの実力者だとは知っている。しかし、それは絶滅指導者をどうにかできるということと同義ではない。
 彼女はわかっていないのだ。絶望を知らない。距離を測れていない。

「きさ、らぎ……にげ、ろ……」
「キサラギはすべてを守ります」

 だめだ、言うことを聞いてくれない。
 俺はドクドク流れる血を氷で止血し、裂けた肺も氷で応急処置を施す。
 命の残り火を繫ぎ、何ができるのかを気だるい頭で考える。

 絶滅指導者はゆっくりとキサラギへ歩み寄る。
 一歩、二歩──そこでブラックコフィンが起動した。

「射撃モード:オン」

 複雑な機構がガチャっと開き、フルオート射撃を行う。
 重たい銃撃音だ。威力に優れた弾、おそらくは8.55mm超粒子徹甲弾。これは魔力装甲に対して優れた攻撃力を持つ。マナニウム装甲、サイコアーマー、鎧圧に理論上の攻撃力を持ち──そして血の魔術による硬化術に対しても例外じゃないはず。

 ごく至近距離からの連続射撃。
 絶滅指導者は目で見て反応し、手をスパパっと動かした。
 銃撃が止む。怪物の手には熱を帯びた弾頭がじゃらじゃたらと握られていた。
 すべて受け止められたのかよ。しかも片手で。

「奇妙な魔道具だ」

 言って手のひらをかえして弾頭を床に捨てる絶滅指導者。
 キサラギは間髪入れずに斬りかかる。
 ブレードの刃に対して腕を水平にし、怪物は前腕で受け止めようとする。
 高周波ブレードは切断対象の原子間結合を低下させる。
 いかに血の硬化だろうと切断できるはず──ガヂンッ!

「ッ!」
「む、なんだこの剣は……?」

 高周波ブレードは硬化術を突破できなかった。
 5cmほど斬りこんではいるが、そこからさきへ進めない。
 ヂヂヂッ! っと猛烈に火花が踊り散っている。
 
 絶滅指導者はもう片方の手のひらで高周波ブレードを掴み取る。
 強力に力をこめたのだろう。ブレードはたやすくへし折られる。

 キサラギは折れたブレードを放り捨て、すぐにブラックコフィンから二本目を抜剣。

「そっちが武器をしまっているのか」

 絶滅指導者は指をぴんっとのばす。
 かすかに赤いきらきらとした極細の繊維のようなものがチラと見えた。
 まずい。吸血鬼の赫糸だ。
 俺は頭を低くして、悪あがきのような回避行動をとる。
 
 次の瞬間には、ブラックコフィンは真っ二つに切断されてしまっていた。

「繊維状の武器と断定。キサラギの装甲では防ぎえない攻撃と判断」

 キサラギは冷静に言い、相棒の死をふりかえることなく斬りかかる。
 絶滅指導者のほうがずっと速い。
 電磁加速を用いてふりぬかれたブレードをサっと避けてしまう。
 空振りしたところへ怪物の拳が放たれる。
 短く、コンパクトに放たれた拳。キサラギの腹をとらえていた。

 と、その時だった。
 真っ赤に輝く一条の光が絶滅指導者へせまったのは。

 俺は極小時間のなかで夜空の瞳で目撃した。
 一条の紅光。それは槍である。
 その発生元にはアンナが立っている。
 顔半分血塗れで片目が開いていない。
 しかし、開いているほうの眼差しにはまだまだ闘志がみなぎっている。
 アンナ・エースカロリは血の模倣者としての力を解放したのだ。
 血脈解放によって解禁された血の奥義。
 赤き光の一本槍は怪物を穿つ一撃。
 すなわちエースカロリの血の奥義:星落としの槍なのである。
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