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第七章 魔法王国の動乱

狩人協会が守るもの

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 アンナの姉……たびたびそんな話はしていた気がするが、まさかこんなところで会うことになるとは。

「あたしはエレナ。エレナ・エースカロリ、よろしく天才アーカムくん」
「よろしくお願いします」

 握手をする。
 力強い握手だ。

「姉さん、霊馬を貸して。アーカムは家族のところにいかないといけない。今行けば間に合うかもしれない」
「へえ、ずいぶんちゃんと喋るようになったんだね、アンナちゃん。お姉ちゃん、うれしいなあ、本当にね」
「……」
「アーカムくんのおかげかなぁ……アンナはあんまり心を開かない子だったんだけど、君はすごく懐いてるみたいだね、本当にね」

 エレナは言って俺の前髪を指でハラっと撫でる撫でる
 アンナは割って入って「いいから、お願い」と、エレナの腕をつかんだ。

「別にあたしはダメなんて言ってないじゃん。あたしはさ、アンナちゃんが大好きだから、できるだけ言う事を聞いてあげたんだけどねぇ。ほら、来たよ、こわーいお兄さんが」

 エレナは言って俺たちの背後を見やる。
 扉を開けて、庭にアヴォンがやってくる。
 
「アヴォン、この子たち泣き声の荒野に行きたいんだって」
「……。どうして行きたい」

 アヴォンの蒼い瞳が見つめて来る。

「家族がいるんです。僕は貴族家の長男で、きっと母か父が戦場に──」
「知ってる。お前が貴族の息子など。なんで戦場に行く」

 淡白な声だ。
 威圧感が含まれているのに気が付かないほど俺は鈍感じゃない。
 
「どうして行ってはいけなんですか。さっき説明したじゃないですか、ドリムナメア聖神国から帰って来たのは家族のためです、そのために長旅をしてきた! あとすこしで届くのに、この馬があれば!」
「戦場に行ってなにをする」
「だから、戦争に参加してるかもしれない家族を救おうと──」

『来るぞ!』

 そこまで言いかけた瞬間、突き刺すような痛みが腹部を襲い、俺の身体はふっとばされていた。

 馬屋につっこまされ泥まみれにされる。
 血を吐きながら、俺はよろよろと立ちあがろうとする。
 アンナが踏み込んで、アヴォンに殴りかかるのが見えた。
 だが、アンナは背後からエレナに強力な手刀を打ち込まれしまった。

「アンナ!」
「しーっ、静かに」

 エレナは唇に指をたて、アンナを肩にかつぐ。

「なんで、こんな……っ!」

 訳がわからない。
 なんでアヴォンに蹴られたんだ。
 
「狩人が人間と戦争をするな」

 言われるがいまいち判然としない。
 と、そこへ庭へ外から人が入ってくる。
 羽の付いた三角帽子をかぶった若い男だ。

「え? なにこれ……どういう状況」
「しーっ、マックス。アヴォン、ブチ切れ」

 マックスと呼ばれたその男は困惑した顔できょろきょろしている。

 クソ、こんなことしてる時間ないのに……っ。
 腹部の痛みがひどすぎて、まともに動けそうにない。
 ただでさえ絶滅指導者に痛めつけられていたのに、今の蹴り、俺を動けなくさせるためか……?

「狩人がその力を使うのは人を救う時と怪物を殺す時だけだ。その分別ができないのなら、力を振るう怪物と何も変わらない」
「あんたは、自分の家族が死にそうになった時、その力を振るわないのか……っ、どうして、邪魔するんですか……っ、ぐっ、ゥゥ」
「戦争にお前が参加してどうする。貴族派に参加している民兵と騎士を殺すのか」
「……それは……必要なら、そうなるかもしれないですね……」
「お前はなにもわかってない。自分の力も、まわりの力も浅はかにすぎる。戦略的破壊攻撃を行える魔術師を戦場に行かせると思うのか。この世界には、人間の世界には、同族同士で殺し合っている時間も、死体を埋めている時間すらない。お前が狩人ならば上官の命令にしたがえ。組織に属する人間が全員身勝手な正義を掲げ、それぞれの大事なもののために命令を無視し、統率を乱せば立ち行かなくなる。言わなくてもわからないか」
「……どうして、そんな……狩人協会は人類を守るギルドでしょう!? 戦争だって間接的に回避するのも仕事だって師匠は言ってた!!」

 勝ってにそれらしいことばかり言いやがって。
 兄弟子だかなんだか知らないが、腹が立ってきた。

「だとしたら、いまこんな何十万人規模の内戦が起こってるのはアンタら狩人協会がテコ入れしなかったからじゃないのかよ!!!」
「……」
「なんとか言えよッ! お前らなら戦争止められたんだろうがッ!!」

 俺は血を吐きながら叫んだ。

「お前は勘違いしてる」
「……?」
「お前の家族も、この国の人間20万人以上も、別に死んだってかまわない」
「……は?」

 なに言ってんだよ、お前……。

「すべては絶滅指導者を確実に葬るためだ。そのためなら、戦争すら容認しよう。人類を20万人が死んで、絶滅指導者が倒せるならそうするべきだ。わからないのか。こんな簡単な命の勘定もできないか」

 アヴォンはごく冷ややかな声で言ってのけた。
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