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第八章 迷宮に潜む者

情報屋

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 アディとふたりダンジョンヒブリアの市場をいく。
 情報屋からアリスが消えたという初心者ダンジョンの情報を買って賭博場へともどる。

 そのあいだ、アディと積もる話のひとつの盛山を片付けていた。
 俺はアディに話をした。アンナという相棒とくぐりぬけた旅と死線の数々を。
 
 バンザイデスで恐るべき怪物と戦い、遠いドリムナメア聖神国へ飛ばされ、そこから幾つもの戦いを経て、ようやく魔法王国へ帰って来たと思ったら内戦で、しかも故郷のすぐ近くが戦場だという波乱の連続であったとドラマ性をまじえて語った。

「死神に呪われてるような旅だな。そんな頻繁に伝説の怪物とぶつかるなんて」

 アディは震えた声でうつむく。
 彼もまた吸血鬼に相対した過去を持っている。
 バンザイデスでの破壊ぶりも見ているだろう。
 その恐ろしさは嫌というほど理解しているはずだ。

「エヴァはどうだったんだ? 戦場へいったんだろう?」
「母様は無事ですよ。危機一髪でしたけど」
「本当か!? よかった!」
「父様は手紙で安否を確認しているのでは?」
「なにを言ってるんだ。エヴァが手紙を寄越さなくなってもう半年は経つんだぞ。安否なんてわかるわけもない」
「? 父様が手紙をかえしていないのでは?」

 おかしな話だ。
 俺がダンジョンヒブリアへ来た理由はアディが手紙の返信をよこさないことがそもそもの原因だったというのに。
 だのにアディはエヴァが手紙を書いていないと言う。
 そんなことありえるのか。
 エヴァは気が狂いそうになるほど心配していたというのに。

『何か作為的なものを感じる。アーカム、公社はすぐそこまで来ている……かもしれない。いわゆる盗聴だ。やつらは家族の一部が逃げたことも知ったのかも……しれない。クルクマへ向かう手紙を運ぶ行商人を捕まえて荷物を検閲し、アディの手紙を改めることでどこに潜んでいるのか理解したのかもしれない……」

 直観の危険すぎるお告げが放たれた。
 
「アーカム、大丈夫か? お前すごい汗だぞ……」
『あるいは狩人が情報が漏洩されるまえに動き、公社と水面下での戦いを繰り広げている……のかもしれない。彼らは思ったよりアディを手厚く守っている……のかもしれない……手紙は怪物派遣公社と狩人協会のあいだで奪い合いが起きているのかも……しれない』
「だったらなんでそのことをエヴァに教えてあげない?」
『エヴァに教えたらどうせ我慢できなくなってダンジョンヒブリアへ来てしまう……かもしれない』
「おまえまじでなんでも知ってんな」
『勘』
「そんなとって付けたように勘って言われても世間は許してくれないんだよ」
「あ、アーカム……おまえ、なにと話してるんだ……どうしちまったんだ……! 正気に戻れ!」

 アディが恐怖の顔で俺を見てきていた。
 しまった。直観と話こんでしまった。

「まあ気にしないで癖みたいなものです」
「辛い旅だったんだな……心を壊してしまうほど追い詰められてたんだな……息子がこんなになるまで頑張ってたのに、俺は……!」

 いらないプレッシャーを父にかけてしまった。
 
「まあ、気にしないでください。本当に僕は大丈夫ですから。そうだ。思ったよりはやく用事も済みましたし、エーラに会いたいんですが」
「ああ、そうだな。あいつはお前が大好きだった。絶対に驚くぞ。いや、驚かないわけがない!」

 俺よりもワクワクした表情になってアディは「こっちだ」と小走りで駆けだした。
 冒険者ギルドの訓練場にて訓練官に指導を受けていると言う話だった。
 
「そう言えばエーラは今日は来ていないな」

 エーラは訓練所にいなかった。
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