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第24話 心穏やかに暗たんなる展望を語る

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 夜間作業はユキが言っていたとおり早く終わった。二十一時前には工具の片付けも済み、技術者達は帰った。現場事務所はユキと佐野だけとなり、それぞれに帰る支度をしている。
「佐野――いや、ケイのおかげで予定よりも早く終われて助かったよ。ありがとな」
 ユキがパソコンの電源を切りながら言う。
「いえ、そんな」
 ケイと呼ばれるとやはりうれしい。佐野の頬は、かあっと熱くなる。
「星崎係長へそう言ったら、もろに不服な顔をされたけどな」
「今は僕があの人のターゲットになっているので、それは当然かと」
「今? 今はって、どういう意味だ」
「ローテーションなんです。期間や犠牲者は星崎の気分次第。だからみんなそっちのほうに気を取られてしまって仕事どころではないんです。御社の高橋部長からのご指摘はそれが理由なんです」
「うちの高橋は去年ぐらいからと言ってたが、そのころから始まったのか」
「いえ、星崎のそれはずっと前からあったんです。けれどもう全員が忍耐の限界を越えてしまい、それが去年あたりから業務や施工のミスというかたちで表に出てしまってるんです」
「そうか。しかも本人は経営陣のお気に入りだから一切のおとがめはなし。ポストを二つも飛び越えての昇進もそれなら楽勝だよな」
「ええ。なので僕達は絶望しながら働いてるんです。こんなご時世だからそう簡単には転職も難しいですし」
「じゃあ、ケイもこのままずっと今の会社にいるつもりか」
「はい。結婚して家庭を持つ予定もありませんし」
 ゲイなので、永遠に。
「だからせいぜい星崎に踏みつけられながら定年を迎えるのかと。いや、もしかしたらその前に心と体を壊してだめになっているかもしれない。現にそうなってしまった社員もいますから」
「ひでえな。で、その『悪の根源』は今ごろラブリーバタフライで豪遊中ってわけか。けど、俺の警告に多少はこたえているだろう」
「お言葉ですが、田上課長の警告なんて同伴出勤してる間にすっかり忘れているでしょう。でも……その報復は明後日、確実に僕へ来ます。どんな手口で来るかは知る由もありませんが」
「――」
 ユキは腕を組み、眉根を寄せる。責任を感じているらしい。
「気にしないでください。今夜の警告があってもなくてもあの男は僕に因縁をつけてきますの
で」
 さあ、泣き言はこの辺にしておこう。これ以上、ユキに失望されたくない。佐野はパソコンの入ったビジネスバッグを手に取る。
「ではお先に失礼します。明日も定時にこちらへ参ります。契約の時間まで精一杯仕事をしますので、よろしくお願い申し上げます」
 ユキに深々と頭を下げ、玄関へと向かう。
そうだ、クリスマスだからコンビニ寄って鶏の唐揚げと缶ビール買っちゃおうかな。長靴を履きながら無理矢理に心を浮き立たせる。そうでもしないとやってられないから――佐野の目にうっすらと苦い涙がにじんだ。
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