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第232話 いろんな意味で恥ずかしい
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「そして残念ながら、会社を辞めてもどこからもお呼びはかかりませんでした」
佐野は肩をすくめる。
「しかも今なお、星崎達の嫌がらせで失業保険関連の書類が送られてきませんし、未払いの給料も踏み倒されたままです。なので生活費を切り詰めて、完全自炊の粗食で腹七分、水光熱費を抑えるために早寝遅起き、昼間は外にいるような厚着をして過ごしています」
実に情けない状況である。けれどユキの説明によって佐野の中で入社辞退の考えは消え去っていたから、もう元勤務先に関してはどうでもよくなっていた。
「そうか……じゃあ、前にコンビニで偶然会った時に聞いた内容のままか」
「はい」
「ひでえな。ちなみに、その時に聞いた話は全てうちの社長へ伝えてある。というのも、今後のためにもケイと古山建設の近況を頭に入れておく必要があるからなんだ」
「……そうですか」
佐野は視線を床に落とし、顔を赤くする。
でも、その所作の理由は決してユキや橋本建設の社長のせいではない。
ユキが社長へ自分のことを報告するのは一向にかまわないし、むしろ気にかけてくれている証拠なのだから、逆にありがたいと思っている。
ただ、いろんな意味で恥ずかしいのだ。
他社から声がかからない己の人望のなさとか、元勤務先のブラック企業ぶりとか、パワハラ上司のいじめの標的となり、最後には大喧嘩して会社を辞めたとか、退職後も失業保険がもらえないようにするという陰湿な嫌がらせが続き、それにともなって就職活動もできずにいたとか――そんなやられっぱなしの自分がみっともないのだ。でも事実だからしょうがない。
「なあ、ケイ」
うつむく佐野へ、ユキが優しく声をかける。
「俺は、ケイがほかの会社に行かなくて、ホッとしているんだぞ」
「……!」
その言葉を聞いた佐野は顔を上げ、ユキを見る。そして今度はうれしくて頬が火照る。
自分でもつくづく節操がないと思うが、これでいいのだ。
佐野は肩をすくめる。
「しかも今なお、星崎達の嫌がらせで失業保険関連の書類が送られてきませんし、未払いの給料も踏み倒されたままです。なので生活費を切り詰めて、完全自炊の粗食で腹七分、水光熱費を抑えるために早寝遅起き、昼間は外にいるような厚着をして過ごしています」
実に情けない状況である。けれどユキの説明によって佐野の中で入社辞退の考えは消え去っていたから、もう元勤務先に関してはどうでもよくなっていた。
「そうか……じゃあ、前にコンビニで偶然会った時に聞いた内容のままか」
「はい」
「ひでえな。ちなみに、その時に聞いた話は全てうちの社長へ伝えてある。というのも、今後のためにもケイと古山建設の近況を頭に入れておく必要があるからなんだ」
「……そうですか」
佐野は視線を床に落とし、顔を赤くする。
でも、その所作の理由は決してユキや橋本建設の社長のせいではない。
ユキが社長へ自分のことを報告するのは一向にかまわないし、むしろ気にかけてくれている証拠なのだから、逆にありがたいと思っている。
ただ、いろんな意味で恥ずかしいのだ。
他社から声がかからない己の人望のなさとか、元勤務先のブラック企業ぶりとか、パワハラ上司のいじめの標的となり、最後には大喧嘩して会社を辞めたとか、退職後も失業保険がもらえないようにするという陰湿な嫌がらせが続き、それにともなって就職活動もできずにいたとか――そんなやられっぱなしの自分がみっともないのだ。でも事実だからしょうがない。
「なあ、ケイ」
うつむく佐野へ、ユキが優しく声をかける。
「俺は、ケイがほかの会社に行かなくて、ホッとしているんだぞ」
「……!」
その言葉を聞いた佐野は顔を上げ、ユキを見る。そして今度はうれしくて頬が火照る。
自分でもつくづく節操がないと思うが、これでいいのだ。
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