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第332話 直球過ぎる言葉に面食らう

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 どうしてユキは、今日まで花壇へ行かなかったのだろうか――
 佐野は不思議に思う。
 あの頃の自分が花壇へ行けないのは当たり前としても、ユキは常連だ。いくら仕事が忙しいとはいえ、ちょっと店に顔を出すくらいの時間は作れるだろうし、経済的な余裕も十分にあるからだ。
「あの……年末以降、こちらへは行っていなかったのですか」
 佐野は慎重に切り出す。
「うん。行ってない。今夜が今年初めての花壇だよ」
 ユキは水割りを飲みながら答える。
「僕が会社を辞めたあと、現場、そんなに忙しかったんですか」
「いや、そうではない。ここに来れなかったのは――仕事が理由じゃないんだ」
 ユキはそこで言葉を止め、佐野へフォークを手渡す。次いで自身も手に取り、それから話を続ける。
「つまり、その……ケイと一緒じゃないと、つまらないからさ」
「……!」
 佐野は、その直球過ぎる言葉に面食らい、フォークを握ったまま赤面し、固まった。
 だが一方のユキは、薄暗い間接照明のカウンター席で横並びに座っていることもあり、佐野の動揺には気づいてない。
「だから俺は、うちの会社へケイが入社できるように段取りして、入社した後もある程度ケイが落ち着くまで花壇へ行かなかったんだ。そしてその間、オーナーは、俺達のこのドタバタした成り行きをずっと見守っていたんだ。もちろん、ゲイバー花壇からではなく、メイド喫茶キャラメル・フェアリーの特別室からな」
「……そうだったんですか」
 佐野の脳裏に、宅急便の配送員が困惑するほどのド派手な模様の紙で梱包された『再就職セット』や、桃色のアイシングで、たどたどしく書かれた祝いの言葉入りのハート形クッキーが去来する。
 改めて順序立てて考えてみれば、これらは全て、キャラメル・フェアリーと、そのオーナーの協力なしでは実現できないことばかりだ。
 こうして佐野は、自分の地味でしょぼい恋路が、意外にも他者を巻き込んでいたことを今さらながらに知ったのであった。

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