悪趣味な罰ゲームが風物詩だったあの頃の話

Q矢(Q.➽)

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12 意外な告白に波立つ心

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週が明けて、月曜日。

1講目は一般教養なので湯巻(健一郎)もこの中に居る筈だ、と橙空は座っている学生達に視線を彷徨わせた。

一番後ろに座っているから捜し易いかと思ったのに、今日に限ってなかなか見つけられない。
何時もは前例辺りにいるのに、と思いながら首を捻る。
でも、自分は湯巻を見つけてどうしたいのだろうか、と橙空は思った。

何故、周といたのかと聞くのか?
周とどういう関係なのかと?
周とあの後何処へ行ったのかと?


ーー何の権利があって?

第一、そんな聞き方をされた湯巻は訝しむだろう。そして、用心して答えてくれないかもしれない。


あの時一緒にいた人誰?
くらいなら湯巻も気軽に答えてくれそうだからそれでいく方が無難だろうか…。


そんな事ばかりを考えている内に講義が終わり、席を立った学生達はぞろぞろと教室を出ていく。それにキョロキョロと視線を走らせる橙空。


「…あ!」

その学生達の流れ中に湯巻を見つけて、橙空は急いで荷物を掴み立ち上がった。





「え?…ああ、あの夜か。
あれ、幼馴染みだよ。」

「幼馴染みって…何時も言ってる、あの?」

友人達と連れ立って廊下を歩いていた湯巻に声をかけて、昼を一緒にとの約束を取り付けた。
話を邪魔されたくないので学食の端っこの席に陣取り、ランチをとりながら、現在 何気無く先週末見かけた時の事を話している。
そしてそんな橙空の問いに、湯巻は事も無げに答えた。
橙空は湯巻との会話の中に度々登場する湯巻の幼馴染みの事を思い返してみた。

大人しくて、シャイで、可愛い…家が近所の、お嬢様…。
いや、お嬢様かどうかは聞いてない。性別すらも聞いてはいない。
ごく僅かな情報からの勝手な憶測に過ぎなかった、と橙空は初めて気づいた。


「お、男…だったんだな。」

「言ってなかったっけ?」

「…うん、多分聞いてなかった。」

それとも聞き逃したのか…。

橙空は思い返してみたが、やはり記憶には無い。
湯巻との交遊は最近始まった事だし、自分にしては興味を持っている相手なので、聞いたら覚えていそうなものだ。しかも幼馴染みなんて、そんな面白いネタ…。


「言って無かったかも。」

湯巻はそう言いながら品良く箸を使っているが、食べているのはカツ丼大盛りで、イメージとのギャップが半端ない。学食で初めて食べたカツ丼にハマったらしく、見る度にそればかり食べているのだが栄養バランスは大丈夫なのか。もっと他も色々試さなくて良いのか。


「イケメンだっただろ?
幼稚園迄一緒でさ。帰国して再会したら、あんなに可愛くなっててびっくりだよ。」

「…かわ?」

hatena?

思わずサラダをつつくフォークを持つ手が止まった。

カツ丼を品良く食しながら、今湯巻は何と言っただろうか。


「小さい頃は俺より小さくてさ、何時も俺について回ってヒヨコかウサギみたいに可愛かったんだけど…。
まさか暫く会わない内にあんなに俺好みに育ってるなんて思わなかった。しかも中身は純粋であの頃のままとか、本当に最高なんだよね。」

ふふ、と笑いながら 普段通り普通にそんな事を言うので
脳がバグりそうになった。
可愛い。俺好み。何その語彙?

あまりの驚きに、橙空はテーブルを挟んだ目の前の湯巻を凝視してしまった。
それに気づいた湯巻が橙空を見る。


「ん?どうしたの?」

「…湯巻って、ゲイ…なんだ?」

橙空はやっとの事で質問を絞り出した。
それに対して、あははと笑って手を振る湯巻。

「違うよ。バイだよ。」

「……。」

「因みにtopだよ。」

「…とっぷ?」

「セックスで挿入する方。
男役?っ言い方で良いのかな?
bottomは経験してみたけど合わなかったんだよね。」

「……。」


あまりに意外過ぎて言葉を失う。
そんな。まさか、こんなに普通で、細身で、ほんわかおっとりしてる湯巻が、タチ専?
まさかそんな…と、今度こそ本当に脳がバグった。

いや、それもあるが…、

「…湯巻の好みって、あの幼馴染みの彼みたいな人って事?」

そりゃ、周はあのルックスだから、黙ってたって愛想がなくたって好かれるだろうが、それはあくまでクールなイケメンだとか、崇拝対象だとか、推したいとか抱かれたいとか、そういう趣旨ではないだろうか。
可愛いなんて感想を持つ人間は少数なのでは…。

なのに湯巻はズバリと言った。


「理想だね。」

「そっ…か…。」

そうか、理想…。

周とあんな分かれ方をした橙空には知り得ない周を、湯巻は知っているのか。


「付き合ってる、のか?」


堪えきれずに橙空は湯巻にそう聞いてしまった。
出来るだけ動揺を隠したつもりだが、声は震えてはいなかっただろうか。
突っ込んで聞き過ぎだと、不審がられるだろうか。

橙空の問いに少し驚いた湯巻だったが、直ぐに表情を和らげた。

「深町には、偏見がないんだな。嬉しいよ。」

「…いや、うん。まあ…色んな奴、いるからさ…。」

「そっか。
俺自身は、聞かれたら隠さないしアウティングも気にしない方だけど、そうじゃない人達もいるからさ。」

「俺は別に、誰がゲイでもバイでも気にしない。」

橙空がそう答えると、湯巻は目元を優しげに細めた。


「今は未だ。お互い離れてた期間があるから、それを埋めたりお互いを知る為の時間って感じかな。

でも直ぐに付き合う事になると思う。 周、俺の事、大好きみたいだからさ。」

曇りの無い笑顔でそう答える湯巻に、目眩がする。

そうか、湯巻は周を好きで、周も湯巻を好きなのか。
2人は相思相愛で、付き合うのは時間の問題でしかないのか。



もう会わせる顔なんか無いのだから関係なんかないのに、橙空の心は波立っていく。








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