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― 第二章・それぞれの成長 ―
第47話 泪
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[南陸第十神国]の、南方領土に在る都市の城内に、ラルとヴォニ―の姿があった。
どちらも、千代たちの計らいによって、侍王の近衛兵になっている。
以前まで拠点にしていた城塞都市とは違って、ここの訓練場は野外に設けられていたが、その広さは倍くらいありそうだ。
彼女らも、改めて、紫蓮たちと一緒に鍛錬に励んでいた。
だが…、ラルは殆ど休もうとせず、次から次へと乱取り稽古をつけてもらっている。
汗だくになると共に、肩で「はぁ、はぁ」と息を切らしながらも、
「まだ、まだまだ、お願いします!」
と、鬼気迫る様子の彼女を、フーリィが、
「いくら何でも、根を詰め過ぎだ。」
「休憩しろ。」
と促す。
「いえ、大丈夫です!」
と、返したラルではあったが、明らかに限界であった。
少し離れた位置でタバコを吸いながら静観していたセルグが、
「ラル。」
「保次とバンヌの事は、お前の所為じゃない。」
「そう自分を責めるな。」
と諭した。
それを受けた彼女が、
「でも…、私が“シーフ”としての素早さを活かせるぐらい、もっと強ければ、二人を失わずにすみました。」
と、俯きながら〝キュッ〟と下唇を噛み締めて、ワナワナと震える。
どうやら、葬儀を終えたあたりから、ラルのなかで後悔が次第に大きく膨らんでしまったようだ。
今にも泣き崩れそうになるのを、どうにか耐えている彼女の右肩に、左手を軽く〝ポン〟と添えたヴォニーが、
「それを言うなら、私も同罪だよ。」
と表情を曇らせた。
千代が、左側から、そっとラルを抱きしめて、
「泣きたければ泣いて良い、溜め込むな。」
と優しく促し、その反対側から抱きしめたヴォニーが、
「私も背負うよ、班長とバンヌの死に、あんたの悲しみを、さ。」
と、告げる。
これに、張りつめていた糸が切れた彼女は、ダガーを模した短い鉄刀を落とし、両手で顔を覆いながら、
「うわああああ――ッ!!」
と大粒の涙を〝ボロボロ〟と零す。
それに呼応したかのように、雨が降り出したのだった…。
あの戦から三週間が経とうしている。
南方の中心都市に、40万ほどの新たな軍勢が到着した。
割と豪華な客間に備え付けられている大きめのソファに、晴清が座っている。
ローテーブルを挟んだ対面のソファには女性が腰掛けていた。
そこに入室してきた清虎が、
「なんじゃ、お前も来たのか、幸。」
と、少し驚いたようだ。
彼女は、晴清の姉であり、政虎の妹である。
夫とは四年前に離縁していた。
「〝父上と晴清が、今後、北上していくのであれば、南方を切り盛りする者が必要であろう〟と、兄上が申しましたので。」
と幸が説明したのである。
「ふむ、そうか。」
と、納得した侍王が、
「子らは?」
と訊ねた。
「親族に会いに、訓練場へと向かいましたよ。」
と、述べたのは、晴清である。
これに、
「ほぉう…、面白くなりそうじゃのぉ。」
と笑みを浮かべる総帥であった―。
どちらも、千代たちの計らいによって、侍王の近衛兵になっている。
以前まで拠点にしていた城塞都市とは違って、ここの訓練場は野外に設けられていたが、その広さは倍くらいありそうだ。
彼女らも、改めて、紫蓮たちと一緒に鍛錬に励んでいた。
だが…、ラルは殆ど休もうとせず、次から次へと乱取り稽古をつけてもらっている。
汗だくになると共に、肩で「はぁ、はぁ」と息を切らしながらも、
「まだ、まだまだ、お願いします!」
と、鬼気迫る様子の彼女を、フーリィが、
「いくら何でも、根を詰め過ぎだ。」
「休憩しろ。」
と促す。
「いえ、大丈夫です!」
と、返したラルではあったが、明らかに限界であった。
少し離れた位置でタバコを吸いながら静観していたセルグが、
「ラル。」
「保次とバンヌの事は、お前の所為じゃない。」
「そう自分を責めるな。」
と諭した。
それを受けた彼女が、
「でも…、私が“シーフ”としての素早さを活かせるぐらい、もっと強ければ、二人を失わずにすみました。」
と、俯きながら〝キュッ〟と下唇を噛み締めて、ワナワナと震える。
どうやら、葬儀を終えたあたりから、ラルのなかで後悔が次第に大きく膨らんでしまったようだ。
今にも泣き崩れそうになるのを、どうにか耐えている彼女の右肩に、左手を軽く〝ポン〟と添えたヴォニーが、
「それを言うなら、私も同罪だよ。」
と表情を曇らせた。
千代が、左側から、そっとラルを抱きしめて、
「泣きたければ泣いて良い、溜め込むな。」
と優しく促し、その反対側から抱きしめたヴォニーが、
「私も背負うよ、班長とバンヌの死に、あんたの悲しみを、さ。」
と、告げる。
これに、張りつめていた糸が切れた彼女は、ダガーを模した短い鉄刀を落とし、両手で顔を覆いながら、
「うわああああ――ッ!!」
と大粒の涙を〝ボロボロ〟と零す。
それに呼応したかのように、雨が降り出したのだった…。
あの戦から三週間が経とうしている。
南方の中心都市に、40万ほどの新たな軍勢が到着した。
割と豪華な客間に備え付けられている大きめのソファに、晴清が座っている。
ローテーブルを挟んだ対面のソファには女性が腰掛けていた。
そこに入室してきた清虎が、
「なんじゃ、お前も来たのか、幸。」
と、少し驚いたようだ。
彼女は、晴清の姉であり、政虎の妹である。
夫とは四年前に離縁していた。
「〝父上と晴清が、今後、北上していくのであれば、南方を切り盛りする者が必要であろう〟と、兄上が申しましたので。」
と幸が説明したのである。
「ふむ、そうか。」
と、納得した侍王が、
「子らは?」
と訊ねた。
「親族に会いに、訓練場へと向かいましたよ。」
と、述べたのは、晴清である。
これに、
「ほぉう…、面白くなりそうじゃのぉ。」
と笑みを浮かべる総帥であった―。
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