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繋いで、心 6

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「無礼物が!!!モンターリュ公爵家に刃向かうつもりか!」

 兵士が言った言葉にテオドールはニヤリと笑う。
「平民が!!首を切られてもいいようだな!」
「そうだなぁ‥‥切ったお前が後悔しないといいな。
 まぁ、切れるなら、だがな?」

 外套とテオドールの黒髪が風に揺れる。
「何の恨みが知らないが、此処は我が国の王妃様の生家である。それを知っての狼藉か?」

 テオドールの瞳が鋭く細められた。
「お前こそ知ってるのかよ。ここは王妃が望んだ家ではない。」

 テオドールは軽やかに地面を蹴った。
 一気に1人の兵士の間合いに入り兵士の剣を叩き落とした。

「俺は曲者だぞ‥‥?剣を落とした時点でお前は死んだも同然だ‥‥。」
「この!!!」
 もう1人の兵士がテオドールに剣を向けて突進してくる。

 だが、それはロスウェルの術に寄って、そのままの姿で動きを止めた。

「残念ながら、1人ではないので、私の相手もして下さいね。」

 ギチギチに縛り上げられる体に兵士は呻き声をあげた。

「おい、これくらいなんともねーよ。過保護だなぁ。
 父上の化身でも憑いてんのか?」

「ふふっ、私はいつもあなた方を守る為に存在するのですよ。」

 ロスウェルが両手を広げギュッと拳を握りしめると、
 2人の兵士が縄で締め上げられた様に身を縮めた。

「さぁ、助けも呼べませんよ。あなた方はここで大人しくしていてくださいね。」


 ガァン!とテオドールは公爵家の門を蹴り開いた。
「さて、いつ異変に気付くんだろうな。」

 広い公爵邸の玄関までの道を颯爽と歩き出した。
 それにロスウェルが続く。
「騎士団はいつやってきますかねぇ。確か、右側への道が訓練場でしたっけ‥あ、まぁ玄関までは気付かないのでは?

 なんせ門番が口を開けませんからね。」

「はははっ、用意周到だな。」


 人様の家を、堂々と闊歩する。
 玄関先の2人の門番達が、近づいて来る外套を羽織った2人の男を確認して冷や汗を流した。

「だっ‥‥誰だ!!どうやってここまで!!

 おい!!騎士団に伝えろ!!!侵入者だ!!!」

「ああ!!待ってろ!!!」
 もう1人が急いで騎士団の訓練場へ向かって走った。

「あぁあぁ、気づかれちった、意外と早かったな。」
「まぁ、これだけ真正面から行けばそうでしょう。
 問題視してないでしょ?」
「まーな!」

 テオドールは何処までも軽やかだった。

 公爵邸の訓練場からはゾロゾロと騎士団が駆けてくる。
 砂埃が立ち上がった。

「ほぉー息巻いてんなー」
「ははっ、歓迎されてますね。」
「へっ、大人しくしてた方が良かったのにな。」


 そう言うと、テオドールは刀一本で騎士団に突っ込んでいった。
「1人でやるつもりですかぁ、ま、大丈夫でしょうけど。

 さて、私は屋敷の方々を眠らせておきましょうか‥。」

 大規模な空間魔術。ロスウェルの最大級の魔術が公爵邸を覆う程の巨大な魔術印が上空に現れた。
「さぁ、良い子も悪い子も眠る時間です。

 まぁ、朝ですけど。」

 ニヤリと笑ったロスウェル。屋敷の中ではカランっと大きな音や、ドサりの人の倒れる音が次々と聞こえる。

 それと同時に騎士団に突っ込んで行ったテオドールのそばでもバタバタと倒れゆく騎士達。
 その中でテオドールは今日も楽しげに水の流れの様に刀を奮い舞っていた。

 多少の時間を要したが、最後の騎士の胴を切り捨てた。


「ふぅ‥‥。結構いたなー。強くはねぇけど疲れたな。」

 汗を手で拭うとテオドールは辺りを見回した。

「おいロスウェル!こっちは終わったぞー!」
「こちらも完了していますよ!いつでもどうぞ!」


 屋敷の者達はみんな夢の中と天へと帰る狭間の者達だ。

 静かになった公爵邸に、テオドールとロスウェルは足を踏み入れた。


 邸の中では、そこら中に人が倒れ込んでいる。
「へっこれはこれで‥‥。」
「血塗れよりマシでしょう?」

「あー‥‥ねぇちょっと、体綺麗にして。汗うざい。」
「全く散々暴れておいてわがままですね。」

 ロスウェルはテオドールに魔術印を向ける。
 それがテオドールの全身を水飛沫をあげて通り過ぎた。
「おお、すげ‥風呂いらねぇじゃん。」
「入って下さい。リリィベル様に嫌われますよ?」
「本気じゃねぇよ。」

 テオドールとロスウェルは、眠った公爵家の使用人たちを避けて歩いた。そしてある一室、王妃が過ごしていた部屋に辿り着いた。

 それは公爵令嬢の部屋というには、質素な部屋だった。
 私物と思われる物は何もなかった。

 ただ唯一、机の引き出しにしまってある。
 切れ端に書いた、レオンの名前‥。
 その名を書く事で悲しみを紛らわせていたのか、
 滲んだ文字だった。

「‥‥‥‥こーゆうのってさ‥‥‥みんな同じだよな‥‥。」
 その紙には触れずにテオドールはじっと見つめて笑みを浮かべた。

 名を呟くだけで強くなれる気持ちと、悲しく切ない気持ちになる。文字にして体に染み込ませる。

 どれほどの想いが、この名前を綴った手に込められていただろう。


「ロスウェルは‥‥王妃の魔術を感じないか?」
「ああ‥‥そうですね‥‥。感じるには感じるんですけど‥‥

 思いつくところだけでもいくつかあるのです。」

「しばらく此処にいて、魔術を使っているということか?」
「その可能性もありますが、隠している物を移動させていたのか‥‥。」

「まぁ、相手は最高位の魔術師だもんな‥‥。

 だが、そもそもどこでそれを知ったんだろうな。」
「そうですね‥私も、ライリーとモンターリュの話を聞くまで知りませんでしたし。彼らはどこでそれを知ったのでしょう‥‥。」

「魔術師は、みんな魔の森にいるんじゃないのか?」
「‥‥そう聞いてますけど、私も曖昧で‥。」
「ハリーも‥そう言ってたな‥。物心ついた時にはお前だけだったと。」


「そうですね‥‥ハリーは私が迎えに行きました。」
「それは、何かを感じるということか?」

ロスウェルは、口を噤んだ。ぐっと何かを堪える様に。

「‥‥これは、話せば長くなるので‥‥また今度にしましょ‥‥。殿下の計画が時間通りに進まなくなりますので。」

 ロスウェルは、そう言うと静かに部屋を出た。

 テオドールは、その後ろ姿に何かを感じながら後を追った。

 王妃の部屋を出て、3階の一際大きなライカンスの私室。
「ここに、痕跡があるのか?」
「そうですね。‥‥極めて強く。」

 ロスウェルは、部屋の扉を開けた。


 豪華で貴重品ばかりの家具。生活感が残るその部屋。
 ロスウェルは急に眉を顰めた。

「ああ‥‥。」
「あ?」

「この部屋事態が痕跡で、先日の様に、私が辿るのは難しそうですね。細かい場所は特定出来そうにありません。」

「なるほど。じゃあ手当たり次第探すしかねぇ訳だ。」
「そのようです。殿下、先程いくつか心当たりがあるっておっしゃってましたよね。」

「あー‥まぁな。っても確信がある訳じゃねぇんだが‥‥。まぁ、とりあえず確認したいのは‥」

 テオドールは、ライカンスの大きなベッドの下を這いつくばって覗いた。

「えっ?嘘でしょ?」

「いや、とりあえずベッドの下は見るべきだろ。男の部屋だしな。」
 テオドールは至って真面目だった。


「そんな訳ないじゃありませんか‥‥。」
「男はベッドの下に見られたくないもん隠しておくって決まりがあんだよ。確認だ確認。」

 膝をパンパンと払ってテオドールは髪を掻き上げた。

「あとはそうだなぁー‥‥。」

 テオドールはベッドのマットレスをグイッと持ち上げた。
「どうだー?なんかねぇかー?」
 ロスウェルに振り返ってそう言ったり

 ロスウェルは、この子供の宝探しの様なテオドールに、少し不安を覚えた。まさかこんな調子で進むのだろうか。
 隠し本棚だとか、魔塔の様な隠し扉とか、珍しいものは見てきただろうに‥‥。

 トボトボとテオドールの持ち上げたマットレスの下を覗き込んだ。

「こんな所にあったら笑いもんですよ。」
「ちげーのか‥‥じゃあ‥‥。」


 テオドールがボスンっもマットレスを元の位置に戻した。
 その弾みで、たくさんの枕のうち二つ程跳ね上がり、ポトリとベッドから転げ落ちた。


「あ‥‥やべ落とし‥‥」
 テオドールがベットに枕を拾って元の位置に置こうとした。


「わお。」

 テオドールは、その枕があったであろう場所を見て驚いた。
 それにロスウェルも続いた。

「わあ、なんて悪趣味な‥‥‥。」

 ロスウェルはげげっと嫌な顔をした。
 だが、テオドールは笑った。

「ほらな!ベットの近くは男の隠し事がいっぱいだぜ。」

 枕のあったベッドフレームに一箇所だけ、正方形に境目があった。一見わからないが、明らかにそこはなにかある。

 バコっとそこを取り外すと、ベッドフレームを取り越し壁にまで穴が空いていた。
 そこを覗き込むと、奥には宝石箱の様なものをロスウェルが確認した。

「これですな‥‥‥‥」


 ぽつりと呟いたロスウェルに、テオドールはニカっと笑った。

「ベッドの周りは男の聖地ってのは本当だろ?」
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