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帰郷 1

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 春奈ちゃんと仕事帰りにお茶を飲みに行った火曜日から、慌ただしく毎日が過ぎて行った。
 毎日先輩が朝、マンションのエントランスまで迎えに来てくれる様になり、一緒に通勤するのは最早当たり前だと言わんばかりに手まで繋がれている。
 木曜日の仕事帰りに、春奈ちゃんの従姉さんの勤務するサロンに連れて行かれて、春奈ちゃんも私も、ヘアカラーとカットモデルを体験した。
 一緒に並んで施術されたので、お互いの担当者さんを交え、四人で色々な話をして、とても有意義な時間だった。

 初めてのヘアカラーは、地毛よりも少し明るい色になり、毛先もかなり梳いてもらった。
 やはり私の髪の毛は今までカラーやパーマ等をした事がなくとても状態がいいとの事で、かなり褒められた。
 そんな髪の毛にカラーでダメージを与えるのは個人的には嫌だと担当の人は言うものの、技術向上の為に本当にすみませんとかなり謝られながら、カラーをしてくれた。
 髪の毛の色が変わるだけで、印象がまるで違う事に驚きを感じた。
 毛先も軽くなり、シャンプーも楽そうだ。
 実際帰宅して教えて貰った簡単なアレンジにも挑戦して練習して翌朝先輩に見せると、似合ってると褒められた。

 そして現在、帰郷の為に先輩と一緒に羽田空港にいる。
 松山行きは第二ターミナルからの方が始発便が早いのと便数の多さで、この会社のパックツアーを予約している。
 先輩は、航空会社の株主優待券を持っているとかで私から予約の便を聞いて同じ便を予約し、カウンターで手続きをしている。
 実家に帰るから宿泊は要らないと言っていた。

 私はあれからさつきに連絡して、先輩と再会して、今度こそ本当に付き合う事になった事を報告した。
 さつきはびっくりして、すぐに無料通話アプリを使って連絡をして来て根掘り葉掘り聞かれ、突然脈絡もなく急に私に謝った。

『私、里美に言ってない事があったの。
 里美が転校した後、先輩に里美の連絡先を教えてって言われたのに、教えなかった。
 あの時、先輩の本当の気持ちなんて知らなかったし、里美の事をあんな風に言うなんて許せなくて……。
 本当にごめんね……。
 あの時に縁が切れたと思ってたけど、再び出会えたなんて、里美と先輩は運命の相手なのかな』

 さつきの言葉に、涙を隠せなかった。
 私もまさか、あの頃先輩の気持ちが私に向いていたなんて思ってもみなかったから、さつきの行為を許せないとは思わない。
 ただ、やはり先輩がはっきりとしてくれていたら、こんなに回り道しなくても良かったのかも知れない。
 先輩が自分の事をヘタレと言っていた事を思い出した。


「悪いな、待たせて」

 航空券購入の手続きが終わって先輩が駆け寄った。

「里美のチケット予約もカウンターで確認して隣の座席にして貰った」

 そう言って、イタズラっ子の様な笑みを浮かべた。

「さて、そろそろ行くか」

 私の手を繋ぐと、一緒に搭乗手続きを済ませ、搭乗口へ向かった。

 * * *

 羽田から松山までは約一時間半のフライトで、松山空港に到着した時には九時を回っていた。
 羽田を発つ前に、さつきに到着予定時刻を連絡しておいたので、多分到着ロビーに迎えに来てくれているだろう。
 先輩も一緒に帰ると伝えているので、多分修二くんも一緒に来る筈だ。
 先輩も、修二くんと何年も会っていないらしく、まさか二人が婚約したなんて思ってもいなかったそうで伝えたら驚いていた。
 飛行機を降りて荷物を受け取り、先輩と一緒に到着ロビーに踏み入ると……。

「里美ー!  先輩!」

 さつきが声を上げる。その隣には、やはり修二くんもいる。
 修二くんは先輩の姿を見て親指を立てると、隣の先輩もニヤリとして修二くんに合図する。
 修二くんが一緒と言うことは、修二くんの車で迎えに来てくれている。

 さつきは、自分の車が軽自動車だから、軽自動車しか運転出来ないと豪語していた。
 だからさつきの車だと大人が四人で狭く感じるので、ある意味良かったのかも知れない。
 修二くんとさつきの後に着いて行き、駐車場へと向かう。
 駐車場には、ステーションワゴンが停まっている。

「里美ちゃんは今回何処のホテル予約したの?」

 先輩と後部座席に乗り込み、足元に荷物を置いてシートベルトを締めた所で修二くんが私に質問した。
 ホテルの名前を告げると、何故そこに? と返された。
 今回私が予約を入れた場所は、JR松山駅の近くにあるビジネスホテルだ。
 祖父が入院している病院へ向かうバス停も駅前にあり、交通の便が良いと言う理由なのだが……。

「直さんと帰って来るなら、道後とかでも良かったんじゃないか?」

 いや、だって付き合う前に予約したんだし。それに第一に、何故先輩と一緒にお泊りの発想なの?

「まあまあ、俺が急遽一緒にくっついて来たんだし、里美を責めるなよ。
 いざとなれば、どうにでもなるさ。なぁ?」

 そう言って同意を求められても、どう返したらいいのかわからない。

「もうっ、里美をイジるのやめて下さいよ。ただでさえ男の人に免疫なくて慣れてないんですから」

 さつきの助け船にホッとする私を見た先輩は、ごめんと謝りながら私の手を握った。

「何時頃まで時間大丈夫? ご両親と合流するんだろう?」

 運転手の修二くんの問いに、私はスマホを見て時間を確認する。現在九時三十分を回ったところだ。

「午後からなんですけど、時間は特に言われてなくて。
 さつきと一緒って伝えてるから、お昼ご飯はみんなで食べて、それからかな……」

「じゃあ、十三時頃までは大丈夫なんだな? 何処でご両親と合流するんだ? 直さんも一緒に行くんですか?」

 そういえば、両親に挨拶するとか言っていた様な……。本気なんだろうか。
 私の不安気な表情を見て、先輩は優しく微笑んだ。
 その表情は、大丈夫だと言っているかの様だ。

「ああ、折角の機会だからご挨拶だけはさせて貰いたいな」

 先輩の言葉に、嬉しい気持ちがこみ上げて来た。

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