冷宮の人形姫

りーさん

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第一章 虐げられた姫

第29話 はなかんむり

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「ティア、今いいかしら?」

 あのお茶会の一件以来、毎日誰かがここに来る。それか招待してくる。
 みんなとお話しするのは、嫌だとは思わないし、断ったら怒られるかもしれないから、招待には応じている。

「そういえば、まだ名乗ってなかったわよね?アマリリス・ナルト・アベリニア。アベリナ帝国の第三皇女よ。私、ずーっと妹が欲しかったの~!」

 そう言って、第三皇女は私に抱きついてくる。

「いもうと、いない?」
「あなたが生まれるまでは私が皇女の中では一番下だったもの。それからは弟しか生まれなかったのよ。だから、妹からマリー姉様って呼ばれるのが夢なのよ」

 アマリリスだからマリー姉様ってことなのかな。なんで間をとっているのかは分からないけど。アマとかリスだと変だからかな?

「ねぇねぇ、一回でいいから、マリー姉様って呼んでくれない?」
「……まりーねえしゃま」

 “さ”がしっかり言えないし、たどたどしいけど。今はこれが限界。

「可愛い~!ティア、外に行きましょ!ハリナ、セリア、仕度してくれる?」
「かしこまりました」
「これがいいでしょうか?」

 ……第五皇子も大変だけど、この第三皇女はもっと大変かも。そして、マリー姉様に連れられて、外に出た。皇女の宮はお互いそれなりに近くにあるみたいで、マリー姉様の宮の庭園に行くことに。ハリナとセリアは用事があるみたいで、ついてこなかった。

 5歳の私でも歩いていけるような距離だった。

「きれいでしょ?庭師が毎日手入れしてくれてるの。……そういえば、ティアのところには庭園はないの?」

 その質問にうなずいた。欲しいとは思わなかったし。あってもなくてもどうでもよかった。でも、この人は違うみたい。

「そんなことだろうと思ったわ。私のところから植え替えましょう?ね?」
「てぃあ、せわれきない」
「ティアは無理してやらなくていいのよ。ハリナかセリアにでもやらせれば。時間があれば私も見に行くし。まぁ、嫌だって言うなら別にいいけど……」
「いや……じゃない」

 欲しいとも思わないけど。でも、それは言わないほうがいい気がして、言わなかった。

「じゃあ、後で苗を送るわ。アルメリアお母様にも頼んでね」
「……あうめいあ?」
「ほら、ディルとエドお兄様の実母よ。お茶会したって私のお母様や他の皇妃様に自慢してたらしいわ」

 お茶会……ってことは、あの人か。人形姫とのお茶会が自慢になるものなの……?嫌な思いをしていなかったならいいけど。

「そうだ。ちょっと待ってて」

 そう言って、少し遠くに行って、しばらくしたら戻ってきた。

「この花きれいでしょ。ティアのきれいな金髪に合うかと思って」

 私の金髪がきれい……?普通の金よりもくすんでいる色合いなのに。いわゆる、ダークブロンドというやつ。少し暗い色合いの金髪。

 持ってきたのは、それとは正反対に明るい色合いのもの。これは、どちらかといえば、マリー姉様の方が似合いそうなのに。

「うん、可愛い」

 そう言って、ニコッと笑った。私の髪に花が似合うなら、マリー姉様の髪にも似合うんじゃないかと思って、そこら辺の花を摘んで、輪っかにしていく。

「何してるの?」

 この国ににはこれがないのかな?そう思いながらも、ちゃくちゃくと作っていって、マリー姉様の頭に乗っけた。

「これ何?」
「はなかんむい」

 作ってたのは、はなかんむり。施設では、はなかんむりを作って年下の子にあげたりもしていたから、その感覚がまだ残っているみたい。

「はなかんむい……?はなかんむい……はなかんむり?」

 初めて聞く言葉のはずなのに、私の言葉を正しく聞き取ってくれた。その言葉にうなずくと、「嬉しい!」と言ってくれた。

「ありがとう!これでローラに自慢返しできるわ!」

 自慢返し……?アルメリア皇妃様も自慢していたみたいだし……自慢するのが流行ってるのかな?そして、ローラってローランドだよね?ローランドは何を自慢したんだろう。

「そうだ。近いうちにフローお姉様が会いたいって言ってたけど、いつなら空いてるかしら?」
「いちゅも、ひま」

 何もやることがないから。最近は遊びに来る人の相手になっていたけど。

「じゃあ、そう伝えておくわ。それで、ティア。はなかんむりってやつの作り方教えてくれない?お母様に作ってあげたいから!」
「いいよ」

 できるだけ丁寧に教えた。すごくつたない言葉だけど、ちゃんと理解してくれていたみたいで、30分くらいかかったけど、完成した。

「どうかしら?」
「れきてう」

 自分でも何を言っているのか分からない。できてるって言ったつもりなんだけど……分かってるかな?

「できてるとかじゃなくて……可愛いかなって……」

 小さい声でそんなことを言った。可愛いなんて感情はまだない。はなかんむりだって、私の髪に似合うんなら、マリー姉様も似合うんじゃないかと思って作っただけで、似合っているのかも分からない。
 でも、似合わないとは思わないから、似合っているのかもしれない。

「そ、そうだわ!ティアの分も作ってあげる!」

 そう言って、さっきよりも少し早くはなかんむりを作った。さっきくれた花と、その他に赤い花も使われている。

「はい、お礼」
「あいあと」

 とりあえず、ありがとうと言ってみたけど……間違ってたかな?

「どういたしまして。さぁ、お母様に渡したいから、もう帰りましょうか」
「うん」

 そして、シトリン宮に歩いて帰る。帰りに、マリー姉様が「またね」と言って去っていった。また来るつもりなのかな?そういえば、苗を届けるとか言っていたような気がする。

 次は誰が来るんだろう。そう思いながら、自分の部屋に戻った。
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