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第一章 虐げられた姫
第45話 皇族の本質
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膝の上で眠ったフィレンティアをベッドの上に寝かせる。
「お前達が何かしただろう。何をした」
先ほどから様子を伺うように見ていた光に問いかける。
「ナニモ」
「ボクラ、シラナイ」
「そんな嘘が通用すると思ってるのか」
しらをきる精霊に久々にいらついた。何も知らないなら、なぜずっと見ているのか。自分の存在を知る者を嫌う傾向にある精霊は、見える者には寄ってこない。
だが、例外というのも存在する。精霊が見える存在でありながら、精霊に好かれる者もいる。その逆もあるが。
「もう一度聞く。フィレンティアに何をした?」
「マリョク、アヤツレナクシタダケ」
「マリョクギレ、オコラナイタメ」
残滓がなかなか無くならないのは、それが理由か。意図的に残されているなら、無くなるわけがない。
「お前達の魔力で話せなくなっているのが分からないのか」
「ソレ、チガウ」
「ハナサナイ、フィレンティアノイシ」
彼女の意志と聞いて、すやすやと寝ている彼女を見る。
彼女の意志で話さない?でも、彼女は一度話している。それをなぜ話さなくなるんだ。誰かに何か吹き込まれたか?そんな情報は入ってきていないが……
「一度話しているのに、また話さないことがあるのか?」
「シラナイ」
「ベツノイシ……カモシレナイ。デモ、ボクラジャナイ」
別の意志……それも不可解だ。今回狙われたのはローランド。彼女は巻き込まれていただけだ。たとえ狙っていたとしても、当たってないなら意味はないだろう。
「ワレラハ、マホウガ、ツヨクナラナイヨウニ、シテルダケ」
「ツヨクシタラ、アツサ、カンジルヨウニ、シタダケ」
強くならないようにしてるだけということは、弱くすることならできるということだろう。弱くするのは可能ならば、弱体化をかければまた話すかもしれない。
あまりかけすぎても、反動が大きくなるから、あまりやろうとは思わないが。それに、私はあまり微調整は得意ではない。下手したら傷つける可能性もある。
そういう微調整は、フェレスが得意だ。だが、フェレスは、泉に行ったきり帰ってきてない。
「フェレスは何してるんだ?」
「ジョウホウ、サグリニ、リンゴクイッタ」
……連れていかれたの間違いじゃないか?あのめんどくさがりのあいつが自分から進んで行くとは思えない。だからといって、実力的に無理やり連れていかれることもない。何かしら理由があって仕方なくついていったというのが自然だ。
「側に誰がいる?」
精霊は意識すればお互いの五感を共有できる。あいつの側に一体はいるだろう。
「アイツジャナイカ?」
「ソウダ。フェレスノヘヤ、ヒソンデタヤツ」
そんな奴がいたのか。フェレスはそういうことは話さないから知らなかったな。それにしても、こんなに何度も侵入を許すなら、騎士達を再編成させる必要がある。命が惜しくないものばかりがここにいるとは思わなかったが、もう少しまともにさせなければならない。
「不法入国するような奴の側にいるのはなぜだ」
「ジョウホウ、ヨコナガシ、シテル」
「テキイハ、カンジナイ」
騎士が国を裏切るなんてことがあるのか。裏切ったら、追われてもおかしくないだろうに。この国でも、裏切り者は生かしていない。全員始末している。あの国もおそらくそうだろう。考えが近いような奴が多いから。
私とトリリウムは父親に似て生まれながらの皇族だ。情なんて持てず、滅多に感情を表に出さない。作り笑いなどはできるが、心から笑うことなどない。
そのため、害する者に一切の情けをかけない。そこは他の皇族も似たようなものだ。自分、または自分にとって必要な、大切だと思う存在を傷つけられると、徹底的に叩きのめす。そういう本質だ。
でも、その必要だと思うものや、大切だと思うものができることは滅多にない。
皇族の血が混じっている者も同じような本質を持つ者が多い。
そのため、感情を表に出せないことにはそこまで驚きはしなかった。他の兄弟も同じだろう。
魔法で作られた皇族。それが今の彼女だ。お茶会で会ったときも、家族に対して何の感情も持たない。ただの人間としてしか見ていないことは分かった。
兄や姉としての認識はしていただろう。だが、それだけだ。肩書きでしか認識していない。それは、皇族の本質でもある。情が持てないので、自分も周りも駒のようにしか見えていない。自分の望むように動かす人形でしかない。一応、家族として他の人間よりは大切に感じるだろうが。
それだけでしかなかったが、フィレンティアは少し特別かもしれない。皇族らしく、人にそこまで興味を持っていなかった弟妹達が、名前を呼ばれただけで自慢してくるようになった。聞いている側としてはあまりにも回数が多く長いため、うんざりしていたが。
だが、それを聞いて人を惹きつける何かを持っているのかもしれないとは思った。だからと言って、わざわざ会いたいとは感じなかったが。
だが、ローランドが大事そうに抱えて飛びながら入ってきたときは、その状況よりも、抱えられている彼女の方が気になった。魔法以外に興味を示さなかったローランドを変えた彼女が気になったからかもしれない。理由は分からなかった。
普段は、利益がないようなことは行わないが、なぜか一週間くらいならと言っていた。なぜか放っておけない。そういう存在になっていた。視てみたが、ルメリナのように精神干渉の魔法は使っていないようだった。
そもそも、そんな魔法が使えていたなら、あんな扱いは受けていないか。
……よく分からない妹だ。
「お前達が何かしただろう。何をした」
先ほどから様子を伺うように見ていた光に問いかける。
「ナニモ」
「ボクラ、シラナイ」
「そんな嘘が通用すると思ってるのか」
しらをきる精霊に久々にいらついた。何も知らないなら、なぜずっと見ているのか。自分の存在を知る者を嫌う傾向にある精霊は、見える者には寄ってこない。
だが、例外というのも存在する。精霊が見える存在でありながら、精霊に好かれる者もいる。その逆もあるが。
「もう一度聞く。フィレンティアに何をした?」
「マリョク、アヤツレナクシタダケ」
「マリョクギレ、オコラナイタメ」
残滓がなかなか無くならないのは、それが理由か。意図的に残されているなら、無くなるわけがない。
「お前達の魔力で話せなくなっているのが分からないのか」
「ソレ、チガウ」
「ハナサナイ、フィレンティアノイシ」
彼女の意志と聞いて、すやすやと寝ている彼女を見る。
彼女の意志で話さない?でも、彼女は一度話している。それをなぜ話さなくなるんだ。誰かに何か吹き込まれたか?そんな情報は入ってきていないが……
「一度話しているのに、また話さないことがあるのか?」
「シラナイ」
「ベツノイシ……カモシレナイ。デモ、ボクラジャナイ」
別の意志……それも不可解だ。今回狙われたのはローランド。彼女は巻き込まれていただけだ。たとえ狙っていたとしても、当たってないなら意味はないだろう。
「ワレラハ、マホウガ、ツヨクナラナイヨウニ、シテルダケ」
「ツヨクシタラ、アツサ、カンジルヨウニ、シタダケ」
強くならないようにしてるだけということは、弱くすることならできるということだろう。弱くするのは可能ならば、弱体化をかければまた話すかもしれない。
あまりかけすぎても、反動が大きくなるから、あまりやろうとは思わないが。それに、私はあまり微調整は得意ではない。下手したら傷つける可能性もある。
そういう微調整は、フェレスが得意だ。だが、フェレスは、泉に行ったきり帰ってきてない。
「フェレスは何してるんだ?」
「ジョウホウ、サグリニ、リンゴクイッタ」
……連れていかれたの間違いじゃないか?あのめんどくさがりのあいつが自分から進んで行くとは思えない。だからといって、実力的に無理やり連れていかれることもない。何かしら理由があって仕方なくついていったというのが自然だ。
「側に誰がいる?」
精霊は意識すればお互いの五感を共有できる。あいつの側に一体はいるだろう。
「アイツジャナイカ?」
「ソウダ。フェレスノヘヤ、ヒソンデタヤツ」
そんな奴がいたのか。フェレスはそういうことは話さないから知らなかったな。それにしても、こんなに何度も侵入を許すなら、騎士達を再編成させる必要がある。命が惜しくないものばかりがここにいるとは思わなかったが、もう少しまともにさせなければならない。
「不法入国するような奴の側にいるのはなぜだ」
「ジョウホウ、ヨコナガシ、シテル」
「テキイハ、カンジナイ」
騎士が国を裏切るなんてことがあるのか。裏切ったら、追われてもおかしくないだろうに。この国でも、裏切り者は生かしていない。全員始末している。あの国もおそらくそうだろう。考えが近いような奴が多いから。
私とトリリウムは父親に似て生まれながらの皇族だ。情なんて持てず、滅多に感情を表に出さない。作り笑いなどはできるが、心から笑うことなどない。
そのため、害する者に一切の情けをかけない。そこは他の皇族も似たようなものだ。自分、または自分にとって必要な、大切だと思う存在を傷つけられると、徹底的に叩きのめす。そういう本質だ。
でも、その必要だと思うものや、大切だと思うものができることは滅多にない。
皇族の血が混じっている者も同じような本質を持つ者が多い。
そのため、感情を表に出せないことにはそこまで驚きはしなかった。他の兄弟も同じだろう。
魔法で作られた皇族。それが今の彼女だ。お茶会で会ったときも、家族に対して何の感情も持たない。ただの人間としてしか見ていないことは分かった。
兄や姉としての認識はしていただろう。だが、それだけだ。肩書きでしか認識していない。それは、皇族の本質でもある。情が持てないので、自分も周りも駒のようにしか見えていない。自分の望むように動かす人形でしかない。一応、家族として他の人間よりは大切に感じるだろうが。
それだけでしかなかったが、フィレンティアは少し特別かもしれない。皇族らしく、人にそこまで興味を持っていなかった弟妹達が、名前を呼ばれただけで自慢してくるようになった。聞いている側としてはあまりにも回数が多く長いため、うんざりしていたが。
だが、それを聞いて人を惹きつける何かを持っているのかもしれないとは思った。だからと言って、わざわざ会いたいとは感じなかったが。
だが、ローランドが大事そうに抱えて飛びながら入ってきたときは、その状況よりも、抱えられている彼女の方が気になった。魔法以外に興味を示さなかったローランドを変えた彼女が気になったからかもしれない。理由は分からなかった。
普段は、利益がないようなことは行わないが、なぜか一週間くらいならと言っていた。なぜか放っておけない。そういう存在になっていた。視てみたが、ルメリナのように精神干渉の魔法は使っていないようだった。
そもそも、そんな魔法が使えていたなら、あんな扱いは受けていないか。
……よく分からない妹だ。
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