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第二章 愛される末っ子姫
第9話 お姫様なお姉様
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この人が……トリリウムお姉様?
「わたくしのことは好きに呼ぶと良いですわ。皆と同じが良いのであれば、トリー姉様と呼ぶと良いでしょう」
「は、はい……トリーねえさま」
なんか、今までの姉様や兄様とは違う。他の姉様たちは、ぐいぐい来る感じだったけど、このトリー姉様は、距離を保っている感じ。
「それで、何か用ですの?」
「ひとの……いるところに、と……」
他の姉様たちと違って、少し話しにくい。お話とかでよく見る、気位が高いお姫様みたいだ。姉様はお姫様なんだけど。
「それでしたら、ローランドとアマリリスの方に向かうとよろしいですわ。案内いたします」
「あ、あの!」
普通に話しかけようとしただけなのに、声が裏返ってしまった。
姉様は、気にすることもなく、こちらを振り向いて話しかけてくる。
「なんですの?」
「ね、ねえさまと……もうちょっとだけ……」
「……わたくしといても、楽しくないですわよ。子どもの相手は苦手ですし……」
「だいじょうぶ、です……」
「承知しましたわ」
トリー姉様はそう言うと、急に腕を振り上げる。その瞬間、ふわっと浮遊感を感じた。
これは、ローランド兄様がよく使っている魔法だ。魔法で私を持ち上げると、トリー姉様の胸元に運ばれる。
そして、ぴったりとそこに収まった。
「では、わたくしのお気に入りの場所にでも行きましょうか。セリアは、ハリナとローランドとアマリリスに、フィレンティアはわたくしとともにいることをお伝えなさい」
「かしこまりました」
「では、しっかり捕まって、口を開かないようになさい」
私は、言われたように、姉様にしっかりと掴まって、口をつぐむ。
思わず、目も瞑ってしまう。
しばらくすると、「目をお開けなさい」という声が聞こえてきたので、目を開けた。
「……ここは?」
気づいたら、まったく見覚えのない場所にいた。
そこは、建物からは離れている、草原のような場所。
「わたくしが一人になりたいときに来るの。第一皇女というものは、恵まれていても、枷もたくさんあるもの」
「…………」
先ほどまでとは全然違う雰囲気だ。静かに微笑んでいる姉様は、ローランド兄様と似ている。
「どうしましたの?」
「トリーねえさま……ローランドにいさまににてる」
「それは、彼とわたくしの母親は同じだからだと思いますわ。似ているのは当然でしょうね。ですが、わたくしはあそこまで魔法バカではありませんわ」
ローランド兄様って、魔法バカなんだ。そういえば、魔法以外に興味を示したことはないって、フェリクス兄様が言っていたような気がする。
「……アベリナの皇族は、普通の人間とは違いますわ」
「……?」
「普通の人間は、当たり前のように喜怒哀楽がある。些細なことで喜んで、些細なことで悲しんで、些細なことで怒り出す。ですが、わたくしたちは違いますわ。感情の起伏が静かなのです。いえ、ほとんど動かないと言ったほうが良いでしょう」
ということは、アベリナ帝国の皇族は、感情を表に出せないということなの?でも、ローランド兄様やマリー姉様は、よく私を見て笑っているのだけど……
「ですが、あなたが現れてから変わりましたわ。アベリナの皇族は、感情を知らぬ代わりに、縁を大切にいたしますわ。あなたを見て、皇族の本能が強いものほど、あなたに“可哀想”という思いを強く抱いたはずですわ」
「……なら、ねえさまも?」
「いいえ。わたくしがあなたに初めて会ったときには、あなたは話していましたし、身なりもまともになっておりましたもの。そのような感情は動かされませんでしたわ」
「……そうですか」
……あれ?なんだか、胸がチクッとする。なんなんだろう。この感じ。
「それじゃあ、わたしにやさしくしてくれたのは、そのほんのうのようなもの……なんですか?」
「それだけなら、自分と同じくらいの存在になってしまったら、放っておくはずですわ。それでもあなたは大事にされている。愛されているのは間違いありませんわ」
「あい……されている?」
「ええ。さて、そろそろやかましい二人が来る頃ですわね。わたくしは失礼いたしますわ」
姉様は、そう言ってふっと消えてしまった。これは……転移?なのかな。
トリー姉様は、不思議な感じがする。ふっと現れて、ふっと消えた。
「ティア!」
「ローランドにいさま」
走ってきたのは、ローランド兄様だった。その後ろに、マリー姉様もいる。
「あれ?トリー姉様と一緒にいたんじゃないの?」
「いなくなった」
「また転移されたのね……。お姉様らしいといえばお姉様らしいわ」
私のいなくなっただけで、マリー姉様は理解してくれる。そう思うと、胸が暖かいような感じがする。
最近の私は変だ。胸が痛くなったり、暖かくなっている。
「さて、サファイア宮に行こうか?」
「何を言ってるの!?私のダイヤモンド宮よ!」
「姉様の宮よりも、僕のほうが近いから!」
私の家はシトリン宮なんだけど……。でも、このままだと、どちらかには行くことになりそう。
そのまま、言い争いを続けて、結局ダイヤモンド宮になった。
マリー姉様、強いな。
ーーーーーーーーーーーーーー
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「は、はい……トリーねえさま」
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「それで、何か用ですの?」
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「あ、あの!」
普通に話しかけようとしただけなのに、声が裏返ってしまった。
姉様は、気にすることもなく、こちらを振り向いて話しかけてくる。
「なんですの?」
「ね、ねえさまと……もうちょっとだけ……」
「……わたくしといても、楽しくないですわよ。子どもの相手は苦手ですし……」
「だいじょうぶ、です……」
「承知しましたわ」
トリー姉様はそう言うと、急に腕を振り上げる。その瞬間、ふわっと浮遊感を感じた。
これは、ローランド兄様がよく使っている魔法だ。魔法で私を持ち上げると、トリー姉様の胸元に運ばれる。
そして、ぴったりとそこに収まった。
「では、わたくしのお気に入りの場所にでも行きましょうか。セリアは、ハリナとローランドとアマリリスに、フィレンティアはわたくしとともにいることをお伝えなさい」
「かしこまりました」
「では、しっかり捕まって、口を開かないようになさい」
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「どうしましたの?」
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「……なら、ねえさまも?」
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「あい……されている?」
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「ティア!」
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走ってきたのは、ローランド兄様だった。その後ろに、マリー姉様もいる。
「あれ?トリー姉様と一緒にいたんじゃないの?」
「いなくなった」
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私のいなくなっただけで、マリー姉様は理解してくれる。そう思うと、胸が暖かいような感じがする。
最近の私は変だ。胸が痛くなったり、暖かくなっている。
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