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第一章 伯爵家の次男
2 アルケルイス
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話が長くなるだろうからと、一体どこから用意したのかわからない椅子に、梨央は腰かけた。
そのとき、何もない空間からお茶が用意される。一口飲んでみると、結構おいしい紅茶だった。
(ここでも味覚ってあるんだ……)
いろいろツッコミどころはあるだろうに、梨央はそんなことしか考えなかった。
そんな梨央に、アルゲナーツも呆れた視線しか向けていない。
アルゲナーツは向かい側の椅子に腰かけると、本題を話し出す。
「まず、僕の管理している世界……正確には星だね。それは、アルケルイスって言うんだ。そして、魔法があるということは話したでしょ?」
「うん。それで?」
もうすでにめんどくさそうな感じがして、逃げ出したかったけど、一度聞くと言った手前、逃げることはしなかった。
「問題は魔法のほうなんだ。アルケルイスには、酸素とか窒素の他に、魔素っていうのがある。それを体に取り込むことで魔法が使えるんだけど……」
「だけど……なに?」
「魔法を使った後もね、魔法を構築する魔力の一部が魔素に戻るんだ」
「それが何か問題でも?」
話に聞いただけでは、魔素が少なからずリサイクルという形になっていて、そこまで問題があるようには思えなかった。
そんな梨央の楽天的な考えを読み取ったアルゲナーツは、ぷくっと頬を膨らませる。
「大ありなんだよ!何度も言うけど、そこには魔法があるから、みんなが自分の器の限り魔法を使おうとする。そして、その魔法を使ったときの一部が魔素となるんだけど、これってリサイクルできるわけじゃないの!」
アルゲナーツが、大声で梨央を責めてくるが、梨央はとくに気に止めることもなく、アルゲナーツに質問を続ける。
「じゃあ、どうなるの?」
まったくアルゲナーツの凄みに怯みもしない梨央に、アルゲナーツも落ち着きを取り戻して、先ほどと同じトーンで答える。
「その魔素はね、溜まりに溜まってその魔素の力で迷宮になったりする。でも、これ自体はそこまで問題はないし、むしろ溜まった魔素が消化するからありがたいんだけど、それでも追いつかずに魔素が飽和状態になると、ちょーっとヤバいことになるんだよね……」
「ヤバいことって?」
「世界の崩壊が始まってしまう可能性がある」
「なんでそうなるの?」
さっきまで魔素がどうこうという話だったのに、いきなり世界規模の話になって、梨央は真顔でツッコミを入れる。
アルゲナーツは、梨央のあまりの無表情に少し動揺したが、詳細を話す。
「詳しく説明すると長くなっちゃうから省略するけど、その魔素によって生まれてしまった凶悪な魔物に世界を構築している精霊が悪影響を受けてしまって、世界のバランスが崩れちゃうんだ」
「なんで精霊が世界を構築しているの?」
「精霊たちが自然の化身だからというのもあるんだけど、汚染された魔素を魔法が使える魔素にする。いわば空気清浄機みたいな役割もあるんだ」
「へぇ~。それじゃあ、精霊がいないと魔法が使えないんだ」
梨央が納得したようにそう言うと、アルゲナーツは、はぁとため息をつく。
「そうなんだよね……いろいろバランスが難しいんだよ。自然の化身でもある精霊たちを増やしすぎると自然の影響が強すぎて災害ばかりが起こってしまうし、少なすぎると魔素が飽和状態になっちゃうしで……どうしたもんかとずっと頭を悩ませてたんだけど、僕はあることを思いついたんだ!」
「……なに?」
嫌な予感がぷんぷんと匂っていたが、梨央はおそるおそる聞いてみた。
「精霊だと困るんなら、他の生物で似たような性質を持つ子をアルケルイスに送ればいいんじゃないかってね!」
「それが僕ってこと?」
違っててくれ。
梨央は心の中でそう思ったが、アルゲナーツは笑顔で頷く。
「そうそう!なかなかそういう性質を持つ人っていなくってね~。いろんな星を渡って、やっと一人目として君を見つけたんだ!」
「ふーん……」
やっぱりめんどくさいことだったと感じて、梨央は逃げ出したい思いが強くなった。
それを察したアルゲナーツが提案してくる。
「でも、何年もかけて探した存在だから、なるべく君にはアルケルイスに行ってほしいんだ!君がその世界で快適に過ごすためなら、僕ができる範囲でなんとかするからさ!」
快適に過ごすという言葉に反応した梨央は、アルゲナーツに質問する。
「できる範囲ってたとえば?」
「世界のバランスを崩しかけないレベルは無理だけど、生まれとか、容姿とか、それこそチートとかもできちゃうよ?君に早くに死なれたら困っちゃうしね」
「じゃあ、僕がのんびり過ごしたいって言えばできるの?」
梨央が少し期待するような目で見るが、アルゲナーツはう~んと頭を悩ませる。
「そんな曖昧な表現だと、齟齬が生まれかねないからな~。具体的にはどんな感じ?」
「自分のペースでやりたいことを自由にやれる暮らしってこと」
「あぁ、それならぜんぜんできるよ?」
「そうなの?積極的に魔素を回収したりとかはしないよ?」
梨央はアルゲナーツに疑いの視線を向ける。
アルゲナーツは、そんな梨央の考えを一蹴りした。
「頭の隅っこにでも留めておいてくれればいいから。それに、君がそこで過ごすだけで、少しは回収できるしね。もちろん、意識してやったほうが回収率はいいんだけど。お願いしている立場だし、無理して回収してこいとは言わないよ。君がアルケルイスに行ってくれるだけでこっちは助かるからさ」
梨央は、最初とはうってかわって、悩みだしていた。
自分の思うがままに暮らしたいという理想はあった。ちょっと危険でも、異世界でそれが叶うというならば、結構魅力的なことではないだろうか。
それに、わざわざ回収しようとしなくてはいいというし。もしかしたら、アルゲナーツなりの妥協かもしれないが。
梨央は少し悩んでから、結論を出す。
「じゃあ、のんびり暮らしのついでくらいの感覚でいいなら、行ってもいいよ?」
あくまでもついでだけど、と心の中で付け足した。
この話に乗ったのは、あくまでものんびり暮らしができそうだからで、その頼みごとに使命感が沸いてきたとか、そんな理由では決してない。
だから、やっぱり?とか、まぁ、仕方ないねとか、そんな反応が返ってくるかと思ったが、アルゲナーツは目を輝かせた。
「本当!?いいの!?」
梨央なりの妥協を示すと、アルゲナーツはすぐに反応を示す。
これだけ見ると、梨央には手のかかる弟の相手をしている気分だった。梨央は一人っ子なので、弟を見たことはないが。
「弟ってね~。僕は君より何倍も年上だよ?」
「年上ってどれくらい?」
どう見ても自分よりも年下にしか見えないというのに。
でも、神さまとか言っていたから、見た目は幼くても実は高齢ということもあるのかなと梨央がのほほんと考えているとーー
「一万から数えるのはやめちゃったよ」
アルゲナーツのその言葉に、梨央は飲んでいた紅茶を吹き出した。
「一万まで数えたの!?」
「突っ込むところそこじゃないよね!?」
てっきり、そんなに生きてるのかという反応が返ってくると思っていたアルゲナーツは、思わずツッコミを返してしまう。
(なんか、この子相手は調子狂うなぁ……)
呼ばないほうが正解だったかもしれないと思いながら、アルゲナーツは紅茶を一口飲んだ。
そのとき、何もない空間からお茶が用意される。一口飲んでみると、結構おいしい紅茶だった。
(ここでも味覚ってあるんだ……)
いろいろツッコミどころはあるだろうに、梨央はそんなことしか考えなかった。
そんな梨央に、アルゲナーツも呆れた視線しか向けていない。
アルゲナーツは向かい側の椅子に腰かけると、本題を話し出す。
「まず、僕の管理している世界……正確には星だね。それは、アルケルイスって言うんだ。そして、魔法があるということは話したでしょ?」
「うん。それで?」
もうすでにめんどくさそうな感じがして、逃げ出したかったけど、一度聞くと言った手前、逃げることはしなかった。
「問題は魔法のほうなんだ。アルケルイスには、酸素とか窒素の他に、魔素っていうのがある。それを体に取り込むことで魔法が使えるんだけど……」
「だけど……なに?」
「魔法を使った後もね、魔法を構築する魔力の一部が魔素に戻るんだ」
「それが何か問題でも?」
話に聞いただけでは、魔素が少なからずリサイクルという形になっていて、そこまで問題があるようには思えなかった。
そんな梨央の楽天的な考えを読み取ったアルゲナーツは、ぷくっと頬を膨らませる。
「大ありなんだよ!何度も言うけど、そこには魔法があるから、みんなが自分の器の限り魔法を使おうとする。そして、その魔法を使ったときの一部が魔素となるんだけど、これってリサイクルできるわけじゃないの!」
アルゲナーツが、大声で梨央を責めてくるが、梨央はとくに気に止めることもなく、アルゲナーツに質問を続ける。
「じゃあ、どうなるの?」
まったくアルゲナーツの凄みに怯みもしない梨央に、アルゲナーツも落ち着きを取り戻して、先ほどと同じトーンで答える。
「その魔素はね、溜まりに溜まってその魔素の力で迷宮になったりする。でも、これ自体はそこまで問題はないし、むしろ溜まった魔素が消化するからありがたいんだけど、それでも追いつかずに魔素が飽和状態になると、ちょーっとヤバいことになるんだよね……」
「ヤバいことって?」
「世界の崩壊が始まってしまう可能性がある」
「なんでそうなるの?」
さっきまで魔素がどうこうという話だったのに、いきなり世界規模の話になって、梨央は真顔でツッコミを入れる。
アルゲナーツは、梨央のあまりの無表情に少し動揺したが、詳細を話す。
「詳しく説明すると長くなっちゃうから省略するけど、その魔素によって生まれてしまった凶悪な魔物に世界を構築している精霊が悪影響を受けてしまって、世界のバランスが崩れちゃうんだ」
「なんで精霊が世界を構築しているの?」
「精霊たちが自然の化身だからというのもあるんだけど、汚染された魔素を魔法が使える魔素にする。いわば空気清浄機みたいな役割もあるんだ」
「へぇ~。それじゃあ、精霊がいないと魔法が使えないんだ」
梨央が納得したようにそう言うと、アルゲナーツは、はぁとため息をつく。
「そうなんだよね……いろいろバランスが難しいんだよ。自然の化身でもある精霊たちを増やしすぎると自然の影響が強すぎて災害ばかりが起こってしまうし、少なすぎると魔素が飽和状態になっちゃうしで……どうしたもんかとずっと頭を悩ませてたんだけど、僕はあることを思いついたんだ!」
「……なに?」
嫌な予感がぷんぷんと匂っていたが、梨央はおそるおそる聞いてみた。
「精霊だと困るんなら、他の生物で似たような性質を持つ子をアルケルイスに送ればいいんじゃないかってね!」
「それが僕ってこと?」
違っててくれ。
梨央は心の中でそう思ったが、アルゲナーツは笑顔で頷く。
「そうそう!なかなかそういう性質を持つ人っていなくってね~。いろんな星を渡って、やっと一人目として君を見つけたんだ!」
「ふーん……」
やっぱりめんどくさいことだったと感じて、梨央は逃げ出したい思いが強くなった。
それを察したアルゲナーツが提案してくる。
「でも、何年もかけて探した存在だから、なるべく君にはアルケルイスに行ってほしいんだ!君がその世界で快適に過ごすためなら、僕ができる範囲でなんとかするからさ!」
快適に過ごすという言葉に反応した梨央は、アルゲナーツに質問する。
「できる範囲ってたとえば?」
「世界のバランスを崩しかけないレベルは無理だけど、生まれとか、容姿とか、それこそチートとかもできちゃうよ?君に早くに死なれたら困っちゃうしね」
「じゃあ、僕がのんびり過ごしたいって言えばできるの?」
梨央が少し期待するような目で見るが、アルゲナーツはう~んと頭を悩ませる。
「そんな曖昧な表現だと、齟齬が生まれかねないからな~。具体的にはどんな感じ?」
「自分のペースでやりたいことを自由にやれる暮らしってこと」
「あぁ、それならぜんぜんできるよ?」
「そうなの?積極的に魔素を回収したりとかはしないよ?」
梨央はアルゲナーツに疑いの視線を向ける。
アルゲナーツは、そんな梨央の考えを一蹴りした。
「頭の隅っこにでも留めておいてくれればいいから。それに、君がそこで過ごすだけで、少しは回収できるしね。もちろん、意識してやったほうが回収率はいいんだけど。お願いしている立場だし、無理して回収してこいとは言わないよ。君がアルケルイスに行ってくれるだけでこっちは助かるからさ」
梨央は、最初とはうってかわって、悩みだしていた。
自分の思うがままに暮らしたいという理想はあった。ちょっと危険でも、異世界でそれが叶うというならば、結構魅力的なことではないだろうか。
それに、わざわざ回収しようとしなくてはいいというし。もしかしたら、アルゲナーツなりの妥協かもしれないが。
梨央は少し悩んでから、結論を出す。
「じゃあ、のんびり暮らしのついでくらいの感覚でいいなら、行ってもいいよ?」
あくまでもついでだけど、と心の中で付け足した。
この話に乗ったのは、あくまでものんびり暮らしができそうだからで、その頼みごとに使命感が沸いてきたとか、そんな理由では決してない。
だから、やっぱり?とか、まぁ、仕方ないねとか、そんな反応が返ってくるかと思ったが、アルゲナーツは目を輝かせた。
「本当!?いいの!?」
梨央なりの妥協を示すと、アルゲナーツはすぐに反応を示す。
これだけ見ると、梨央には手のかかる弟の相手をしている気分だった。梨央は一人っ子なので、弟を見たことはないが。
「弟ってね~。僕は君より何倍も年上だよ?」
「年上ってどれくらい?」
どう見ても自分よりも年下にしか見えないというのに。
でも、神さまとか言っていたから、見た目は幼くても実は高齢ということもあるのかなと梨央がのほほんと考えているとーー
「一万から数えるのはやめちゃったよ」
アルゲナーツのその言葉に、梨央は飲んでいた紅茶を吹き出した。
「一万まで数えたの!?」
「突っ込むところそこじゃないよね!?」
てっきり、そんなに生きてるのかという反応が返ってくると思っていたアルゲナーツは、思わずツッコミを返してしまう。
(なんか、この子相手は調子狂うなぁ……)
呼ばないほうが正解だったかもしれないと思いながら、アルゲナーツは紅茶を一口飲んだ。
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