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第一章 伯爵家の次男

1 マイペースな少年

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 舞田まいた梨央りお。こいつ以上にマイペースなやつはいないと同級生たちに言われるくらいのマイペースな少年だ。
 マイペースという名の、自分勝手なだけではないかとも言われている。

「おーい、梨央!」

 後ろから声をかけられて、梨央は振り返る。

「なに?蓮」

 話しかけてきたのは、たちばなれん
 梨央の数少ない友達だった。

「お前、宿題のプリント忘れていったぞ」
「ああ、やっぱり?入れた覚えなかったんだよね」
「いや、思ったなら取りに来いよ!」

 梨央の呟きに、蓮が鋭いツッコミを入れる。
 梨央は、プリントをクリアファイルに挟みながら、答える。

「朝早くに来てやればいいかなって。たいした量じゃないし」
「それは宿題の意味がないだろ……。そんなんだから自分勝手とか言われるんだぞ?」

 蓮が呆れたようにそう言うと、梨央はふっふっふと笑いだす。

「「それは僕には褒め言葉」……だろ?」

 梨央とピッタリ息を合わせるように、一言一句同じことを蓮は言った。
 梨央は、そんな蓮に笑いながら言う。

「よくわかってるじゃん」
「でもなぁ……そんなんだから俺以外にお前にまともに話しかける奴がいないんじゃないか」
「別に友だちがほしいわけでもないしね。僕には蓮がいればそれでいいよ」
「ま、本人がいいならいいんだけどさ……」

 蓮としては、もうちょっと梨央には空気を読んで行動してほしいと思っているのだが、梨央はそんなことができるキャラではないのは、蓮が一番知っている。
 本人からしてみれば、これでも気を遣っているほうらしいが、蓮にはまったくそうは見えない。

「それじゃ、プリントありがと!じゃあね!」

 梨央は蓮に手を振って、家に向かって歩きだす。
 蓮は、本来ならば逆方向に家があるはずなので、道を引き返すはずだ。だからこそ、ここで別れようとしたのだが……

「あっ!梨央、足元!」

 蓮がこちらを向いてそんなことを言うので、梨央は足下を見る。
 すると、そこには黒い円形の何かがあった。

「なんだこれ?」

 そう呟いたとき、梨央はその円形のものに吸い込まれるように落ちていってしまった。
 蓮の声が聞こえたような気がしたが、はっきりとは聞き取れなかった。
 しばらく落ち続けて、地面らしきものに思いっきりぶつかる。

「あいたたた……。どこだ、ここ?」

 梨央は周りをキョロキョロと見渡す。そこは、続く限り真っ白な空間。

「頭でも打ったのかな……」
「いや、ちがうよ?」

 梨央のすぐそばでそんな声が聞こえた。
 梨央が声のするほうを見ると、梨央よりも一回り年下と思われる少年がいる。

「……誰?」
「僕はアルゲナーツ。一応、神ってやつだよ」
「そうなんだ。それで、どこなのここ?」
「いや、神なんだよ!?もうちょっと驚きなよ!」

 アルゲナーツが今まで会ってきた人間は、表情に出さなかったとしても、自分が神だと名乗れば、嘘だーと馬鹿にするか、ものすごく驚くかのどちらかだったのに、梨央はどうでも良さそうな目で見てくる。
 自分が選んだ存在ではあるけど、ちょっと拍子抜けしてしまった。

「僕、神さまとかあまり信じないんだよね。それに、仮に神さまだったとしても、ほんとにいるんだと思うだけだよ。で、ここはどこなの?」
「あのねぇ……まぁ、いいや。ここは心象空間……とでも言えばいいかな。君の心の中っていうのが一番近いかも」
「そう。で、なんで僕はここにいるのかな?」

 結構すごいことを言ったと思うが、梨央はそんなことはどうでもよさそうに話を進めてきた。
 今までの人間とはぜんぜん違う梨央に、アルゲナーツも戸惑いを隠せない。

「……君に話があって僕が呼んだんだ。君には、僕が管理している世界に行ってもらいたくてね。そこは、剣と魔法の異世界でーー」
「えぇ……やだよ」
「あれ?喜ばないの!?」

 アルゲナーツがこういうことを提案したら、特に若い人はかなり喜んでいた。
 特に、剣と魔法の異世界というところを説明したら。

「だって、剣と魔法の世界ってことは、地球よりも危険がいっぱいあるんでしょ?それに、そういう世界って大抵、身分差があるよね。身分で縛られる世界に送られたら、やりたいこともできなくなっちゃうかもしれないし、日本のほうが治安はいいだろうし、別に今の生活が嫌だっていうわけでもないしーー」
「ま、待って!わかった!わかったから!」

 このままずっと話し続けそうだった莉央を、アルゲナーツが慌てて止める。

「それで、どうなの?」
「う、う~ん……確かに、日本よりは危険かもしれないけど……」
「ほら。じゃあ、帰りたいから帰してよ」
「ま、待って!せめて話だけでも聞いてほしいんだ!」

 ここで梨央に帰られたら困るアルゲナーツは、神の威厳などどこへやらというくらいに梨央に泣きついた。

「はぁ……わかったよ」

 梨央は、めんどくさいので早く帰りたかったけど、自分よりも年下に見えるアルゲナーツが泣いていると、さすがに良心が咎めたため、ため息をつきながらも了承した。
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