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第一章 伯爵家の次男
5 ロウェルトの氷姫
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アイリーシアの元でお菓子を味わったリオンティールは、本題を突きつけた。
「それで、何か用があるから僕を呼んだのでしょう?母上」
いつもは母にはため口だが、今回は敬語で接する。
そんなリオンティールに、アイリーシアもお菓子を楽しむ女性から、ロウェルト伯爵夫人に切り替えた。
「ええ。詳しくはアルトルートさまからお話しされるでしょうけど、あなたに王家から招待状が届いているわ。正式な形で」
「えっ!?なんで僕に?それに、王家って誰から……」
「ロッテ……じゃなくて、王妃殿下よ。今度の王子殿下の誕生会にあなたを招待したいみたい」
王妃とアイリーシャは学生時代からの友人で、今もよく二人きりでお茶会をするほどの仲だった。
なので、王妃が友人の息子である自分を知っていることはおかしくない。
おかしなことではないのだが、なぜそれでリオンティールが呼ばれることになるのかがわからない。
「なんでそんなことになったのですか……?」
リオンティールがアイリーシアをじっと見ると、アイリーシャは苦笑いする。
「私のかわいい息子自慢してたら、ロッテが会いたいって……」
ボソッと呟くアイリーシャに、リオンティールは冷淡な表情を向ける。
「……めんどくさいです」
特に母に文句を言うことはせずに、それだけ呟いた。
伯爵家に生まれたのだから、社交界に出ることは覚悟していた。
でも、もう少し先の話だと思っていたのだ。少なくとも、学園に入ってからだろうと。
リオンティールは、お世辞にも社交的とは言いがたい。マイペースなリオンティールは、周りに合わせるのが苦手だ。周りに気遣って笑顔を振り撒いたり、相手に合わせてダンスをしたりなど、リオンティールにとっては鬼の難易度である。
「せめて、お茶会くらいからがよかったんですけど……」
「じゃあ、王妃殿下のお茶会に一緒に来る?それでもいいわよ?」
そう提案されて、リオンティールはその様子をイメージする。
王妃と母が仲良く話をして、自分はぼっちを貫いている様子が容易に想像できてしまった。
「いや……頑張って勉強しておきます」
本当は断りたいが、自分は伯爵家。断れるはずもないので、とりあえず気持ちを整えておくことに決めた。
ここの両親は、大事な用件はよほどでない限り直前に話したりすることはないので、まだ先の話のはずだからだ。
「まぁ、用件はこれくらいですけど、純粋にお茶を楽しみたいというのもあったんですよ?」
「姉上と楽しめばよいのでは?」
こういうのは女性同士のほうが盛り上がりやすいものなのだ。
それに、リオンティールはあまりこういう場は得意ではない。
それなのに、アイリーシアはなぜかリオンティールを呼んでいる。
「だって、アリアはあなたにしか笑顔を振り撒かないんですもの。社交界や学園ではロウェルトの氷姫なんて呼ばれているのに」
「そうなのですか?」
今はアリアーティスがいないからとか、そんな理由ではないことは予想していたものの、予想外の返答にリオンティールは首をかしげる。
リオンティールの記憶には、いつも微笑んでくれる優しい姉の記憶しかないので、氷のようと例えられても、まったく想像ができない。
(氷姫……か)
◇◇◇
お茶会を終えた後も、先ほどの母の発言が気になったリオンティールは、家の使用人たちに聞いてみることにした。
意外と、使用人たちも社交界の情勢には詳しいほうだからだ。
使用人のネットワークは、意外と恐ろしいもので、どこから仕入れたんだという話も混じっていたりする。
「いえ、そのような通称は知りませんが、確かにそう呼ばれてもおかしくありませんね」
「私は聞いたことがありますわ。メルティス侯爵家のお嬢さまがそのようなことを言ったりしていたとか……」
「アリアーティスさまが笑みを浮かべるときは、リオンティールさまと一緒にいるか、リオンティールさまのお話をされているときだけですものね。そのような通称が広まっていてもおかしくないというか、言われても仕方ないというか……」
姉のことを聞いてみたら、そんな返答が返ってきた。
そして、使用人たちは姉のことで仲間同士で雑談を始める。
「表情だけでなく、態度も結構冷たいですわよね」
「そうそう。私がお茶を持っていったときなんて、『そこに置いておいて』って私の目すらも見ずに返してきたもの」
「逆に、リオンティールさまと交流した直後などは機嫌がいいわよね」
「あっ、それわかります!私が洗濯物を落としちゃったとき、『大丈夫?』って言いながら一緒に拾ってくださったもの!前は無視されたのに……。後で聞いてみたら、リオンティールさまとお話しされた後で上機嫌だったとか……」
「へぇ~……そうなんだ」
リオンティールは、脳裏にブラコンという字が横切ったような気がした。
そして、ブンブンと首を振る。
(いやいや、ないない。多分、家族を大切にしているだけだ。大抵の貴族は、使用人にはあくまでも雇い主として接するんだから)
現実逃避にしか思えない考えを展開し、うんうんとうなずく。
リオンティールは、世辞にもかまってほしいタイプではない。放っておいて欲しいタイプだ。
それなのに、もし姉がアレなのだとすれば、リオンティールにとっては悪夢そのものなのである。
アレは、気に入っているものを放っておいてはくれないどころか、隙あらば構いに行く存在だからだ。
そんなリオンティールを、さらに落胆させる言葉があった。
「あっ、でも、ベルトナンドさまもどっこいどっこいじゃない?」
「いやいや、アリアーティスさまのほうが……」
「確かに、アリアーティスさまのほうがわかりやすいけど、気持ちの大きさはベルトナンドさまのほうが大きいわよ!」
なぜか、アリアーティス派閥とベルトナンド派閥ができあがっているが、リオンティールはそんなことを気にする暇はなかった。
リオンティールのときは当たり前のように受け入れていたものだが、梨央のフィルターがかかると、とたんに背中に悪寒が走る。
リオンティールとしては、愛情を持ってくれるのは嬉しいという思いだが、梨央としては不服だった。そして、僅かばかりに梨央の思いのほうに比重が大きい。
そして、そんな兄姉たちは、学園が終われば帰ってくる。
リオンティールは、会いたくない。帰ってきてほしくないと思ったが、同じ家に住む家族である以上、それは叶わない。
(あまり会わないことを祈るしかないか……)
リオンティールは、心の中でため息をついた。
「それで、何か用があるから僕を呼んだのでしょう?母上」
いつもは母にはため口だが、今回は敬語で接する。
そんなリオンティールに、アイリーシアもお菓子を楽しむ女性から、ロウェルト伯爵夫人に切り替えた。
「ええ。詳しくはアルトルートさまからお話しされるでしょうけど、あなたに王家から招待状が届いているわ。正式な形で」
「えっ!?なんで僕に?それに、王家って誰から……」
「ロッテ……じゃなくて、王妃殿下よ。今度の王子殿下の誕生会にあなたを招待したいみたい」
王妃とアイリーシャは学生時代からの友人で、今もよく二人きりでお茶会をするほどの仲だった。
なので、王妃が友人の息子である自分を知っていることはおかしくない。
おかしなことではないのだが、なぜそれでリオンティールが呼ばれることになるのかがわからない。
「なんでそんなことになったのですか……?」
リオンティールがアイリーシアをじっと見ると、アイリーシャは苦笑いする。
「私のかわいい息子自慢してたら、ロッテが会いたいって……」
ボソッと呟くアイリーシャに、リオンティールは冷淡な表情を向ける。
「……めんどくさいです」
特に母に文句を言うことはせずに、それだけ呟いた。
伯爵家に生まれたのだから、社交界に出ることは覚悟していた。
でも、もう少し先の話だと思っていたのだ。少なくとも、学園に入ってからだろうと。
リオンティールは、お世辞にも社交的とは言いがたい。マイペースなリオンティールは、周りに合わせるのが苦手だ。周りに気遣って笑顔を振り撒いたり、相手に合わせてダンスをしたりなど、リオンティールにとっては鬼の難易度である。
「せめて、お茶会くらいからがよかったんですけど……」
「じゃあ、王妃殿下のお茶会に一緒に来る?それでもいいわよ?」
そう提案されて、リオンティールはその様子をイメージする。
王妃と母が仲良く話をして、自分はぼっちを貫いている様子が容易に想像できてしまった。
「いや……頑張って勉強しておきます」
本当は断りたいが、自分は伯爵家。断れるはずもないので、とりあえず気持ちを整えておくことに決めた。
ここの両親は、大事な用件はよほどでない限り直前に話したりすることはないので、まだ先の話のはずだからだ。
「まぁ、用件はこれくらいですけど、純粋にお茶を楽しみたいというのもあったんですよ?」
「姉上と楽しめばよいのでは?」
こういうのは女性同士のほうが盛り上がりやすいものなのだ。
それに、リオンティールはあまりこういう場は得意ではない。
それなのに、アイリーシアはなぜかリオンティールを呼んでいる。
「だって、アリアはあなたにしか笑顔を振り撒かないんですもの。社交界や学園ではロウェルトの氷姫なんて呼ばれているのに」
「そうなのですか?」
今はアリアーティスがいないからとか、そんな理由ではないことは予想していたものの、予想外の返答にリオンティールは首をかしげる。
リオンティールの記憶には、いつも微笑んでくれる優しい姉の記憶しかないので、氷のようと例えられても、まったく想像ができない。
(氷姫……か)
◇◇◇
お茶会を終えた後も、先ほどの母の発言が気になったリオンティールは、家の使用人たちに聞いてみることにした。
意外と、使用人たちも社交界の情勢には詳しいほうだからだ。
使用人のネットワークは、意外と恐ろしいもので、どこから仕入れたんだという話も混じっていたりする。
「いえ、そのような通称は知りませんが、確かにそう呼ばれてもおかしくありませんね」
「私は聞いたことがありますわ。メルティス侯爵家のお嬢さまがそのようなことを言ったりしていたとか……」
「アリアーティスさまが笑みを浮かべるときは、リオンティールさまと一緒にいるか、リオンティールさまのお話をされているときだけですものね。そのような通称が広まっていてもおかしくないというか、言われても仕方ないというか……」
姉のことを聞いてみたら、そんな返答が返ってきた。
そして、使用人たちは姉のことで仲間同士で雑談を始める。
「表情だけでなく、態度も結構冷たいですわよね」
「そうそう。私がお茶を持っていったときなんて、『そこに置いておいて』って私の目すらも見ずに返してきたもの」
「逆に、リオンティールさまと交流した直後などは機嫌がいいわよね」
「あっ、それわかります!私が洗濯物を落としちゃったとき、『大丈夫?』って言いながら一緒に拾ってくださったもの!前は無視されたのに……。後で聞いてみたら、リオンティールさまとお話しされた後で上機嫌だったとか……」
「へぇ~……そうなんだ」
リオンティールは、脳裏にブラコンという字が横切ったような気がした。
そして、ブンブンと首を振る。
(いやいや、ないない。多分、家族を大切にしているだけだ。大抵の貴族は、使用人にはあくまでも雇い主として接するんだから)
現実逃避にしか思えない考えを展開し、うんうんとうなずく。
リオンティールは、世辞にもかまってほしいタイプではない。放っておいて欲しいタイプだ。
それなのに、もし姉がアレなのだとすれば、リオンティールにとっては悪夢そのものなのである。
アレは、気に入っているものを放っておいてはくれないどころか、隙あらば構いに行く存在だからだ。
そんなリオンティールを、さらに落胆させる言葉があった。
「あっ、でも、ベルトナンドさまもどっこいどっこいじゃない?」
「いやいや、アリアーティスさまのほうが……」
「確かに、アリアーティスさまのほうがわかりやすいけど、気持ちの大きさはベルトナンドさまのほうが大きいわよ!」
なぜか、アリアーティス派閥とベルトナンド派閥ができあがっているが、リオンティールはそんなことを気にする暇はなかった。
リオンティールのときは当たり前のように受け入れていたものだが、梨央のフィルターがかかると、とたんに背中に悪寒が走る。
リオンティールとしては、愛情を持ってくれるのは嬉しいという思いだが、梨央としては不服だった。そして、僅かばかりに梨央の思いのほうに比重が大きい。
そして、そんな兄姉たちは、学園が終われば帰ってくる。
リオンティールは、会いたくない。帰ってきてほしくないと思ったが、同じ家に住む家族である以上、それは叶わない。
(あまり会わないことを祈るしかないか……)
リオンティールは、心の中でため息をついた。
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