手加減を教えてください!

りーさん

文字の大きさ
2 / 29
第一章 最強の少年

2 アノリカルの採取依頼

しおりを挟む
 翌日、ルイスは再びギルドに訪ねる。ルイスがギルドに入ると、いつものようにそこにいる冒険者たちがひそひそと話す。
 ルイスに聞こえないようにしているのかもしれないが、耳のいいルイスには、はっきりと聞こえている。

「今日も来たみたいだぞ」
「あいつなら毎日来てるだろ。魔物を殺せねぇから、何日も街を離れるような依頼なんて受けられねぇよ」
「今日は何やるんだろうな」

 わざわざ相手をする必要はないと、ルイスは彼らのことは無視している。
 ダグラスがいる方に向かおうとしたところで、ルイスの前に誰かが立つ。それは、女性だった。自分の養母と同じくらいの年だ。

(おじさんの前に並ぶなんて珍しいな~)

 ダグラスは、少し見た目が厳ついせいか、あまり人が並ぶことはない。
 もちろん、ルイスはダグラスが優しいのは知っているし、ダグラスはいつもこっそりと強い魔物の討伐依頼を受けさせてくれるので、ルイスはダグラスがいればダグラスのところに並んでいる。
 しばらく待つと、前に並んだ人が離れていったので、ルイスは前に出る。

「おっ。今日も来たか」
「ダグラスおじさん。今日は何かある?」
「う~ん……特に討伐とかはねぇな。だがな、良い依頼が入ってきたんだ。これをやってみたらどうだ?」

 ダグラスが見せてきたのは、アノリカルの採取依頼と書かれたものだった。
 それは、等級制限なしの依頼だったため、ルイスが受けても問題はなかった。
 冒険者のランクは、1~10級まである。その上もあるにはあるのだが、ほとんどいないので、多くの冒険者は1級を目指している。
 毎日、きちんと採取依頼や街の雑用をこなしているルイスは、9級には上がっているものの、そこで止まってしまっている。
 8級からは、魔物の討伐ができなくてはいけないからだ。
 そんなルイスは、ダグラスがいない時は、8級以上の等級制限のある依頼は受けられない。
 そのために、等級制限のない依頼は、ある程度把握していたのだが……まったく聞いたこともない素材の名前に、ルイスは首をかしげる。

「アノリカルって何?」
「花の一種だ。解毒薬の材料になったり、一部の鎮痛剤や解熱剤の効能を強めることができるから、需要は大いにあるんだが、なにぶん、採取量が少なくてな」
「そんなに珍しいの?」

 もしそうなら、そこらを探したところで見つかるとは思えないし、見つかったとしても、討伐依頼の代わりになるとは思えない。
 でも、こんな形の植物は、見たことがあるような気がした。

「いや、植物自体は、珍しいってわけじゃない。そこらに生えてるが、花が珍しいんだ」
「なんで?」
「その花は開花するのに条件があってな。大気中の魔力……つまりは魔素だな。それを取り込むことで花を咲かせるんだが、魔素だけじゃあ、咲かせるのに百年かかるんだ。それで、翌日にはもう枯れてる」
「百年!?明日に枯れるの!?」

 ルイスは、思わず大きな声を出してしまう。
 周りがなんだなんだと騒ぎ出してしまい、ルイスは顔を赤くして俯いた。
 ダグラスは、はぁとため息をつきつつも言葉を続ける。

「だが、これはあくまでも魔素だけを取り込んだ場合だ。人為的となれば、話は変わってくる」
「人間が、魔力をその花に注ぐってこと……?」
「そうだ。つっても、かなりの量が必要だから、簡単にできたら苦労はしねぇんだが、お前なら話は別だからな」
「あっ、そうか。僕って、魔力量も多いもんね」

 ルイスはあまりしっかりとは自覚していないが、養父母からそう言われているので、そうなんだと自負している。

「だから、蕾を見つけたら、注いで咲かせてみろ。うまく行けば、依頼が出ているんだから何の遠慮もなく買い取れるし、等級制限はないから、お前が受けても批判されない」
「確かにいいかも……!」

 こっそりと強い魔物の討伐を受けさせてもらうのに抵抗を感じつつあったルイスは、その依頼に魅力を感じた。
 これなら、何の後ろめたさもない。

「……でも、運んでる間に枯れたりしない?」
「それは大丈夫だ。一歩でも街の外に出れば、そこらに生えてるし、一度茎から切り取れば、魔力を取り込むことはできないから、一週間は持つ」

 それはよかったとほっとした時、「まぁ、お前がたっぷり注がなきゃな」と笑いながら言うダグラスに苛立つ。
 それは、魔力の加減ができないという、ルイスのコンプレックスに触れる言葉だった。

「しないよそんなこと!」
「じゃあ、受けるか?」
「うん!行ってくる!すぐにたくさんの花を持ってきてやるんだからー!」

 ルイスは、絶対に見返してやると、息巻きながらギルドを出ていく。

「おお、行ってこい」

 ダグラスがルイスを見送ると、出入り口から目をそらす。その瞬間、目つきが冷たくなる。その視界には、ある冒険者たちの姿が映っていた。
 ルイスが大声を出したので、他の冒険者たちにもその声は聞こえていた。

「またルイスが大口叩いて出ていきやがった」
「いつもできねぇ癖にな」

 冒険者たちは、クスクスと笑っている。嫌な笑いだ。
 ダグラスが軽く挑発して、ルイスが大口を叩き、結果、それが実行できないというのは、ギルドではもはや定番のようになっていた。
 それを作ってしまったのは、自分ということはダグラスも理解しているが、聞いていて気分のいいものではない。目の前の奴らは、ルイスの苦労を欠片も知らないのだ。そんな奴らがルイスを笑う権利も道理もない。
 ダグラスは、その冒険者たちのところに近づき、テーブルを思いっきり叩く。
 ダグラスの拳は、木でできたテーブルを簡単に破壊した。

「ここは酒場なんかじゃねぇ。無駄話しかしねぇんなら帰れ」

 覇気を込めて伝えると、その冒険者たちは、慌てて外に出ていく。
 ルイスを笑って見下すような冒険者は、大抵はああいう小物だ。自分が弱いことを自覚しているから、自分よりも弱そうな奴を見下して、優越感に浸る。
 ルイスを弱そうと思っている時点で、その者たちに見る目がないのは確実だ。本当の実力者は、本能的にルイスの潜在能力に気づき警戒するからだ。
 たとえ気づかなかったとしても、見た目で侮りはしない。見た目で侮るような冒険者は、長く続かないからだ。

「ダグラスさぁ~ん。いくら怒っていても、机は壊さないでくださいよぉ~!」

 遠くのほうから、のんびりとした口調で叱責が飛んでくる。
 それは、受付嬢の一人のアニエスだった。その身に纏っている雰囲気から、冒険者たちから人気があるが、ダグラスは苦手な分類に入る。
 
「すまんな、アニエス。俺の給料から引いておく」
「それは当然のことですよぉ~。にしても、ダグラスさんって、よくわからないですね~」
「あん?何がだ」
「ルイスくんのことですよぉ~。ダグラスさん、いつもルイスくんのこと馬鹿にするようにからかってるのに、ああいうのには怒るじゃないですかぁ。言葉と行動が噛み合ってませんよぉ?」

 それは、ダグラスもよくわかっている。自分が矛盾した言動をしていることは。
 だが、それは不器用なダグラスなりに、ルイスを思ってのことだ。

「ああでも言わなきゃ、あいつはやる気にならないからな」

 素材を残せなくても気にするなと、口にするのは簡単だ。ダグラスだって、落ち込んでいるルイスを見たら、そう言ってやりたいと思っている。
 だが、その言葉は、ルイスを慰めることはできるかもしれないが、問題を先送りにしているだけだ。
 ルイスは、自分自身で力を制御できなくてはいけない。できないままなのは許されないのだ。
 だからこそ、ダグラスは甘い言葉はかけない。その結果、嫌われたり憎まれたりしても、構わないと思っている。

「それってーー」
「ほら、さっさと仕事に戻るぞ」

 アニエスの言葉を遮り、ダグラスはギルドの奥のほうへと行ってしまった。

(やっぱり、ルイスくんには何かあるんですかねぇ~……)

 そう思いながらも、ダグラスに聞くことはせず、アニエスも仕事に戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...