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第二章 赤い月と少年の秘密
21 領主の次男
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このお話から、『異世界でもマイペースにいきます』とリンクします。
今回のように、時間軸が同じで、それぞれの視点となる場合は、同時公開します。
ーーーーーーーー
依頼を終えて、ルイスは、依頼の達成報告のために、ギルドに向かおうとしている。
歩いている最中、ルイスは、レナに殴られた頭を抑えていた。
(あんなに強く殴らなくても……)
自分が悪いことをしたのも事実だし、騒いでしまったのも事実だが、頭を抑えたくなるほどに殴らなくてもいいと思ってしまう。
ルイスは、頭も頑丈なため、滅多なことでは痛みを感じたりしないが、レナの拳はそれなりに威力があり、ルイスでも痛みを感じてしまう。
「……うん?」
ルイスは、ふとしたとき、街の違和感に気づいた。
普段なら、街の人たちが道を埋めるように歩いているのに、今日は中央が空いている。
街の人たちは、道の端を通っていて、まるで道を空けているようだった。
ルイスは、とりあえず道の端に寄りながらも、何かあるのかと辺りを見てみる。
すると、遠くのほうに、馬車が見えた。
それは、普通の大人から見れば、豆粒くらいの大きさであったが、ルイスには、馬車の形がはっきりと見えていた。
馬車が通るから道を空けていたのかと疑問が解けたルイスは、道の端を歩きながら、再びギルドに足を進める。
その時、後ろからルイスを呼ぶ声がする。
「ルイス~!待つのです~!」
「レナさん!?」
ルイスが振り返ると、レナが自分のほうに走ってきていた。
ルイスが思わず足を止めてしまうと、レナはすぐにルイスに追いついてきた。
「レ、レナさん……じゃなくて……レナお姉ちゃん……なのです……」
ゼェゼェと息切れしながらも、ルイスの呼び方を訂正してくる。
「なんですか?レナお姉ちゃん」
ルイスが呼び方を直しながらそう言うと、レナは、いつもとは違い、真剣な表情をルイスに向けた。
「ルイス、緊急なのです。レナもギルドに行くのですよ」
「えっ!?なんで……」
「師匠の代理なのです!師匠は研究で忙しいです」
「マルスさんの……?」
マルスがいろいろと研究をしているのは知っているし、掃除の依頼という形で家に行ったときに、研究に協力したりもしていたので、研究に忙しかったりするのは、何もおかしなことではない。
だが、わざわざ冒険者ギルドに行かなければならないような研究をしているようには思えなかった。
「急がないといけないのです!早く行くのですよ!」
「は、はいーーうん?」
ルイスは、ふいに魔物の気配を感じた。
以前のレッドウルフなどとは違うような感じがするが、距離からして、街の中に入ってきているのは間違いない。
「ルイス?どうしたのです?」
ルイスの様子に、レナは首をかしげる。
ルイスは、少し悩んだが、レナに話すことにした。
「魔物の気配を感じて。数匹いるんですけど、どれも違う魔物で同じ魔物の気配は感じないんです」
「むぅ~……それは妙なのです。でも、言われてみればそんな感じがするのです」
ルイスほど敏感ではないが、レナもなんとなく魔物の気配を感じとることができた。
そのレナから見ても、魔物の気配は異様な気配だった。
「敵意は感じないんですけど……大丈夫ですかね?」
「不安なら確かめてみるのです!」
レナはそう言って、魔物の気配がするほうに走り出す。
「あっ、待ってよ!」
レナの後を追うように、ルイスも走り出す。
普段から冒険者としてそれなりに鍛えているルイスだったが、レナの駿足にはなかなか追いつけない。むしろ、距離がどんどん開いているような気もする。
レナの後を追えば、必然的に魔物にも近づくことになるので、より鮮明に感じ取れた。
(もしかして……あの馬車の中?)
ルイスは、正面に見えた馬車に注目する。
まだはっきりとした位置まではわからないが、気配を感じる方角に、魔物の姿は見当たらない。
道は開けているので、魔物が姿を隠せるとは思えなかった。隠せるとしたら、正面の馬車だけだ。
レナも同じように感じ取ったのか、馬車のほうに突撃していく。
「そこの馬車ー!止まれー!なのですー!」
レナが真正面から突っ込んできたからか、御者も慌てたように馬車を止めた。
遠目から見ていたルイスでもわかるくらいの急停車だったので、中の人は無事かと心配してしまう。
馬車に合わせるように、レナもピタッと動きを止めた。
「いきなり何なんだ!」
御者は、レナに怒鳴る。
それは、決して、響くほど大きな声と言うわけでないが、目や耳がいいルイスには、遠くでも聞こえていて、はっきりと見えていた。
レナは、悪びれもなく、御者のほうを睨み付ける。
「そっちこそなんなのです?その中に何を入れてるですか!」
「別に、変なものは入れていないわ」
馬車の中から、美しい女性が降りてくる。
ルイスの養母よりは若そうに見えた。
雰囲気だけで、この人は貴族だと、ルイスは気づいた。
急がないとと、ルイスは走るスピードをあげる。
「だ、誰なのです?」
レナは不審者を見る目でそう言った。
「それはこちらのセリフよ。あなたこそ、私たちの馬車の前に立つなんて、何様のつもりなの?」
女性がそう言うのとほぼ同時に、もう一つの馬車から二人の男と、もう一人の女性が降りてくる。
あの人たちも、貴族だとルイスは感じた。おそらくは、家族なんだろう。
「それは……」
魔物の気配を感じたからと言おうとしたが、なぜか口から言葉が出ない。
なんとなく、それを言ってはいけないような気がした。
それは、レナの本能が、危険を知らせているようなものだった。
「私たちは、理由を聞いているだけだ。馬車が急に止まって、こちらは怪我をするところだったのだからな」
「あなたたちは、怪我なんてしなさそうな気がするのです……」
レナは、三人を上から下までざっと見て、無意識にそう言ってしまった。
レナの性格では、隠し事がうまくできる性格ではなく、思ったことはすべて正直に言ってしまう。
「確かに、今回はなかったかもしれないけど、私たちも怪我くらいはするわよ。それ以前に、あなたが危ないじゃない」
「でも、全員、匂いが強者の匂いなのです。戦場でも、最後まで一人で立っているタイプなのです。それに、レナは平気なのですよ。当たりそうになったら避けられるのですから」
「この人たちと一緒にしないでくれ。アリアと父上と母上はそうかもしれないが、私はそうでもないんだから」
レナの肩に手を置きながら、若々しい男のほうがこそこそとレナに話す。
だが、その声は、全員にはっきりと聞こえていた。
「お兄さまが一番の化け物です」
「わたくしのほうこそ、一緒にされたくないわ」
「家族で一番の非情な奴が何を言う」
全員が男の言葉を否定した。
男は不満そうな顔をするが、事実なのか言い返すことはしない。
「姉上」
さらに、もう一つの声がする。それは、ルイスと同年代くらいの少年の声だ。
一人の女性が振り向くと、顔がぎょっとする。
「リオン!?馬車にいなさいって言ったじゃない!」
レナは、逆にその大きな声にびくんと体を震わせてしまう。
「ラクがちょっと気になることを言ったので……」
少年はそう言って、腕に抱えている魔物を見せる。
それを見た瞬間、レナの目はキラキラと輝いた。
「スレイクスなのです!珍しいです!」
レナは、興奮したまま少年の抱えているスレイクスに近づこうとするが、男たちに止められてしまう。
だが、逆に少年のほうが興味を示して近づいてきた。
「えっと、スレイクスのこと知ってるの?」
「当然なのです!レナは魔物に詳しいのですよ!」
「そ、そうなんだ」
レナの詰め寄りに、少年が戸惑っているところに、やっとルイスが合流した。
「レナさーん!まずは謝りましょうよー!」
遠くからも会話が聞こえていたルイスは、まだ謝っていないことを知っているため、謝るように促す。
「レナさんじゃなくてレナお姉ちゃんなのです!」
レナは、ルイスの言葉に従うことはなく、呼び方を注意してきた。
ルイスは、代わりに謝ることにして、貴族らしき一行に頭を下げる。
「レナさんが迷惑をかけてすみません。僕の不用意な発言のせいで、馬車の前に飛び出してしまって……」
「だから、レナさんじゃなくてレナお姉ちゃんなのです!」
「不用意な発言って、どういうのかしら?」
「う~んと……」
貴族たちも、レナの言葉を無視しだして、ルイスのほうに聞いてくる。
ルイスは、口をつぐむ。
魔物の気配を感じたので、なんて言えないからだ。スレイクスがいる時点で、それは間違っていなかったのだが、なんで魔物の気配がわかるのかと聞かれれば、答えようがなかったし、養父母やダグラスからも口止めされていた。
どう言おうと思案していたとき、ルイスは視線が気になり、そちらのほうに目を向ける。
すると、先ほどリオンと呼ばれていた少年と目があった。
「あの……僕に何か?」
なにも話さないのも、と思ったルイスは、おそるおそる聞いてみるが、相手は何も言わない。
何か間違えたかと、ルイスが焦りそうになったその時。
「いや……子どもにしてはずいぶんとしっかりしてるなぁって」
相手からは、こう返事が返ってきた。
ルイスは、少しほっとして、返事を返す。
「母さんたちが、礼儀とかはいろいろ教えてくれたので」
「へぇ~」
「無駄話はそれくらいにして。今は、この子が飛び出した理由であるあなたの発言について聞いているのだから」
ルイスは、今しがたほっとしたばかりなのに、まだ心臓の鼓動が早くなる。
どう言おうと思っていたとき、「何かありましたか」と、ルイスの知っている声が聞こえた。
「ダグラスおじさん!」
ルイスが呼びかけると、ダグラスはぎょっとしたようにルイスのほうを見て、すぐさまルイスたちの側にかけよった。
そして、ルイスとレナの襟を掴み、持ち上げる。
ルイスとレナくらいに小柄であれば、ダグラスは楽々と持ち上げることができた。
「今度は何をやらかした?」
小声でルイスの耳元で叱責する。
すでに、ルイスが何かをやらかした前提だ。
「ただ、魔物の気配がしたからって言ったら、レナさんが変に反応して、馬車が通るのを邪魔してしまって……」
「魔物が街に入ったら警戒するのは当然なのです!あと、レナさんじゃなくて、レナお姉さんなのですよ!」
ルイスは申し訳なさそうに、レナは逆ギレのように、小声でそう言った。
ダグラスは、はぁとため息をつく。
そして、ルイスたちを降ろし、貴族たちのほうを向いた。
そして、その人たちに頭を下げる。
「馬車が珍しくて近づいてしまったそうです。彼は目がいいので、遠くからでも馬車が来ているのにいち早く気づき、それを彼女に言ってしまったそうです。私からも注意しておきますし、彼らの保護者にも注意しておくように伝えておきますので、どうかご容赦を」
「あら、そうだったの?素直に言ってくれれば、怒らなかったのに」
女性は、レナに言い聞かせるように言う。
レナは、ふんとそっぽを向いてしまう。
(表向きでも謝ったらいいのに……)
ルイスはそう思ったが、口にしたらもっと面倒なことになりそうな予感がしたので、口にすることはなかった。
「怪我がなかったから構わない。だが、私たちは先の屋敷に用があるのだ。通してもらえるか」
「……わかったのです」
屈強な男が優しく諭すと、レナも素直に道の端に寄った。
(レナさんの扱いをわかってるなぁ……)
感心しながら、ルイスも道の端に寄る。
そのとき、一番小柄な男の子と目があった。
その子がにこりと微笑んできたので、ルイスも笑みを返した。
「結局、あの人たちはなんだったのかなぁ……」
ルイスは、去っていく馬車を見ながら、ボソッと呟いたものの、そのままギルドのほうに向かった。
「ちょっと!レナを置いていくんじゃないのです~!」
レナのことは、完全に記憶の外に放り投げながら。
今回のように、時間軸が同じで、それぞれの視点となる場合は、同時公開します。
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依頼を終えて、ルイスは、依頼の達成報告のために、ギルドに向かおうとしている。
歩いている最中、ルイスは、レナに殴られた頭を抑えていた。
(あんなに強く殴らなくても……)
自分が悪いことをしたのも事実だし、騒いでしまったのも事実だが、頭を抑えたくなるほどに殴らなくてもいいと思ってしまう。
ルイスは、頭も頑丈なため、滅多なことでは痛みを感じたりしないが、レナの拳はそれなりに威力があり、ルイスでも痛みを感じてしまう。
「……うん?」
ルイスは、ふとしたとき、街の違和感に気づいた。
普段なら、街の人たちが道を埋めるように歩いているのに、今日は中央が空いている。
街の人たちは、道の端を通っていて、まるで道を空けているようだった。
ルイスは、とりあえず道の端に寄りながらも、何かあるのかと辺りを見てみる。
すると、遠くのほうに、馬車が見えた。
それは、普通の大人から見れば、豆粒くらいの大きさであったが、ルイスには、馬車の形がはっきりと見えていた。
馬車が通るから道を空けていたのかと疑問が解けたルイスは、道の端を歩きながら、再びギルドに足を進める。
その時、後ろからルイスを呼ぶ声がする。
「ルイス~!待つのです~!」
「レナさん!?」
ルイスが振り返ると、レナが自分のほうに走ってきていた。
ルイスが思わず足を止めてしまうと、レナはすぐにルイスに追いついてきた。
「レ、レナさん……じゃなくて……レナお姉ちゃん……なのです……」
ゼェゼェと息切れしながらも、ルイスの呼び方を訂正してくる。
「なんですか?レナお姉ちゃん」
ルイスが呼び方を直しながらそう言うと、レナは、いつもとは違い、真剣な表情をルイスに向けた。
「ルイス、緊急なのです。レナもギルドに行くのですよ」
「えっ!?なんで……」
「師匠の代理なのです!師匠は研究で忙しいです」
「マルスさんの……?」
マルスがいろいろと研究をしているのは知っているし、掃除の依頼という形で家に行ったときに、研究に協力したりもしていたので、研究に忙しかったりするのは、何もおかしなことではない。
だが、わざわざ冒険者ギルドに行かなければならないような研究をしているようには思えなかった。
「急がないといけないのです!早く行くのですよ!」
「は、はいーーうん?」
ルイスは、ふいに魔物の気配を感じた。
以前のレッドウルフなどとは違うような感じがするが、距離からして、街の中に入ってきているのは間違いない。
「ルイス?どうしたのです?」
ルイスの様子に、レナは首をかしげる。
ルイスは、少し悩んだが、レナに話すことにした。
「魔物の気配を感じて。数匹いるんですけど、どれも違う魔物で同じ魔物の気配は感じないんです」
「むぅ~……それは妙なのです。でも、言われてみればそんな感じがするのです」
ルイスほど敏感ではないが、レナもなんとなく魔物の気配を感じとることができた。
そのレナから見ても、魔物の気配は異様な気配だった。
「敵意は感じないんですけど……大丈夫ですかね?」
「不安なら確かめてみるのです!」
レナはそう言って、魔物の気配がするほうに走り出す。
「あっ、待ってよ!」
レナの後を追うように、ルイスも走り出す。
普段から冒険者としてそれなりに鍛えているルイスだったが、レナの駿足にはなかなか追いつけない。むしろ、距離がどんどん開いているような気もする。
レナの後を追えば、必然的に魔物にも近づくことになるので、より鮮明に感じ取れた。
(もしかして……あの馬車の中?)
ルイスは、正面に見えた馬車に注目する。
まだはっきりとした位置まではわからないが、気配を感じる方角に、魔物の姿は見当たらない。
道は開けているので、魔物が姿を隠せるとは思えなかった。隠せるとしたら、正面の馬車だけだ。
レナも同じように感じ取ったのか、馬車のほうに突撃していく。
「そこの馬車ー!止まれー!なのですー!」
レナが真正面から突っ込んできたからか、御者も慌てたように馬車を止めた。
遠目から見ていたルイスでもわかるくらいの急停車だったので、中の人は無事かと心配してしまう。
馬車に合わせるように、レナもピタッと動きを止めた。
「いきなり何なんだ!」
御者は、レナに怒鳴る。
それは、決して、響くほど大きな声と言うわけでないが、目や耳がいいルイスには、遠くでも聞こえていて、はっきりと見えていた。
レナは、悪びれもなく、御者のほうを睨み付ける。
「そっちこそなんなのです?その中に何を入れてるですか!」
「別に、変なものは入れていないわ」
馬車の中から、美しい女性が降りてくる。
ルイスの養母よりは若そうに見えた。
雰囲気だけで、この人は貴族だと、ルイスは気づいた。
急がないとと、ルイスは走るスピードをあげる。
「だ、誰なのです?」
レナは不審者を見る目でそう言った。
「それはこちらのセリフよ。あなたこそ、私たちの馬車の前に立つなんて、何様のつもりなの?」
女性がそう言うのとほぼ同時に、もう一つの馬車から二人の男と、もう一人の女性が降りてくる。
あの人たちも、貴族だとルイスは感じた。おそらくは、家族なんだろう。
「それは……」
魔物の気配を感じたからと言おうとしたが、なぜか口から言葉が出ない。
なんとなく、それを言ってはいけないような気がした。
それは、レナの本能が、危険を知らせているようなものだった。
「私たちは、理由を聞いているだけだ。馬車が急に止まって、こちらは怪我をするところだったのだからな」
「あなたたちは、怪我なんてしなさそうな気がするのです……」
レナは、三人を上から下までざっと見て、無意識にそう言ってしまった。
レナの性格では、隠し事がうまくできる性格ではなく、思ったことはすべて正直に言ってしまう。
「確かに、今回はなかったかもしれないけど、私たちも怪我くらいはするわよ。それ以前に、あなたが危ないじゃない」
「でも、全員、匂いが強者の匂いなのです。戦場でも、最後まで一人で立っているタイプなのです。それに、レナは平気なのですよ。当たりそうになったら避けられるのですから」
「この人たちと一緒にしないでくれ。アリアと父上と母上はそうかもしれないが、私はそうでもないんだから」
レナの肩に手を置きながら、若々しい男のほうがこそこそとレナに話す。
だが、その声は、全員にはっきりと聞こえていた。
「お兄さまが一番の化け物です」
「わたくしのほうこそ、一緒にされたくないわ」
「家族で一番の非情な奴が何を言う」
全員が男の言葉を否定した。
男は不満そうな顔をするが、事実なのか言い返すことはしない。
「姉上」
さらに、もう一つの声がする。それは、ルイスと同年代くらいの少年の声だ。
一人の女性が振り向くと、顔がぎょっとする。
「リオン!?馬車にいなさいって言ったじゃない!」
レナは、逆にその大きな声にびくんと体を震わせてしまう。
「ラクがちょっと気になることを言ったので……」
少年はそう言って、腕に抱えている魔物を見せる。
それを見た瞬間、レナの目はキラキラと輝いた。
「スレイクスなのです!珍しいです!」
レナは、興奮したまま少年の抱えているスレイクスに近づこうとするが、男たちに止められてしまう。
だが、逆に少年のほうが興味を示して近づいてきた。
「えっと、スレイクスのこと知ってるの?」
「当然なのです!レナは魔物に詳しいのですよ!」
「そ、そうなんだ」
レナの詰め寄りに、少年が戸惑っているところに、やっとルイスが合流した。
「レナさーん!まずは謝りましょうよー!」
遠くからも会話が聞こえていたルイスは、まだ謝っていないことを知っているため、謝るように促す。
「レナさんじゃなくてレナお姉ちゃんなのです!」
レナは、ルイスの言葉に従うことはなく、呼び方を注意してきた。
ルイスは、代わりに謝ることにして、貴族らしき一行に頭を下げる。
「レナさんが迷惑をかけてすみません。僕の不用意な発言のせいで、馬車の前に飛び出してしまって……」
「だから、レナさんじゃなくてレナお姉ちゃんなのです!」
「不用意な発言って、どういうのかしら?」
「う~んと……」
貴族たちも、レナの言葉を無視しだして、ルイスのほうに聞いてくる。
ルイスは、口をつぐむ。
魔物の気配を感じたので、なんて言えないからだ。スレイクスがいる時点で、それは間違っていなかったのだが、なんで魔物の気配がわかるのかと聞かれれば、答えようがなかったし、養父母やダグラスからも口止めされていた。
どう言おうと思案していたとき、ルイスは視線が気になり、そちらのほうに目を向ける。
すると、先ほどリオンと呼ばれていた少年と目があった。
「あの……僕に何か?」
なにも話さないのも、と思ったルイスは、おそるおそる聞いてみるが、相手は何も言わない。
何か間違えたかと、ルイスが焦りそうになったその時。
「いや……子どもにしてはずいぶんとしっかりしてるなぁって」
相手からは、こう返事が返ってきた。
ルイスは、少しほっとして、返事を返す。
「母さんたちが、礼儀とかはいろいろ教えてくれたので」
「へぇ~」
「無駄話はそれくらいにして。今は、この子が飛び出した理由であるあなたの発言について聞いているのだから」
ルイスは、今しがたほっとしたばかりなのに、まだ心臓の鼓動が早くなる。
どう言おうと思っていたとき、「何かありましたか」と、ルイスの知っている声が聞こえた。
「ダグラスおじさん!」
ルイスが呼びかけると、ダグラスはぎょっとしたようにルイスのほうを見て、すぐさまルイスたちの側にかけよった。
そして、ルイスとレナの襟を掴み、持ち上げる。
ルイスとレナくらいに小柄であれば、ダグラスは楽々と持ち上げることができた。
「今度は何をやらかした?」
小声でルイスの耳元で叱責する。
すでに、ルイスが何かをやらかした前提だ。
「ただ、魔物の気配がしたからって言ったら、レナさんが変に反応して、馬車が通るのを邪魔してしまって……」
「魔物が街に入ったら警戒するのは当然なのです!あと、レナさんじゃなくて、レナお姉さんなのですよ!」
ルイスは申し訳なさそうに、レナは逆ギレのように、小声でそう言った。
ダグラスは、はぁとため息をつく。
そして、ルイスたちを降ろし、貴族たちのほうを向いた。
そして、その人たちに頭を下げる。
「馬車が珍しくて近づいてしまったそうです。彼は目がいいので、遠くからでも馬車が来ているのにいち早く気づき、それを彼女に言ってしまったそうです。私からも注意しておきますし、彼らの保護者にも注意しておくように伝えておきますので、どうかご容赦を」
「あら、そうだったの?素直に言ってくれれば、怒らなかったのに」
女性は、レナに言い聞かせるように言う。
レナは、ふんとそっぽを向いてしまう。
(表向きでも謝ったらいいのに……)
ルイスはそう思ったが、口にしたらもっと面倒なことになりそうな予感がしたので、口にすることはなかった。
「怪我がなかったから構わない。だが、私たちは先の屋敷に用があるのだ。通してもらえるか」
「……わかったのです」
屈強な男が優しく諭すと、レナも素直に道の端に寄った。
(レナさんの扱いをわかってるなぁ……)
感心しながら、ルイスも道の端に寄る。
そのとき、一番小柄な男の子と目があった。
その子がにこりと微笑んできたので、ルイスも笑みを返した。
「結局、あの人たちはなんだったのかなぁ……」
ルイスは、去っていく馬車を見ながら、ボソッと呟いたものの、そのままギルドのほうに向かった。
「ちょっと!レナを置いていくんじゃないのです~!」
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崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
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