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第一章 悪役王女になりまして
22. そんなことは一言も言ってないけど?
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これで、サティレス侯爵はあまり賢くないことが証明されたことになる。
本当に腹黒い者なら、こんなお粗末な誘導には引っかからない。それこそ、危ない橋を渡らなければ。
「それって、私がお兄さまに反逆の罪を着せようとしたってやつかしら?そんな方法があるなら、逆に教えてほしいですわね」
アルフォンスがどんな方面にも優れている文武両道なのは、常識と言っても過言ではないくらい有名な話だ。そんなアルフォンスを騙せる方法なんて、常人には思いつかないだろう。
エルルーアはもちろんのこと、彩花もアルフォンスには口で勝つのは難しい。それなのに、騙すなんてできるわけないだろと伝える。
だが、この聞き方だと、方法があればやっていると言っているようなものだった。
「それは私めにもわかりません。ですが、部屋にずっとおられたのであれば、方法などいくらでもあるのでは?」
「私はお兄さまに部屋にいろと言われたから、部屋にいただけですわよ?」
それの何がおかしいの?と言外にたずねる。エルルーアはアルフォンスの命に従っていただけだから、問題ないだろ?と言っている。
それだけなら、彩花の言うとおり、何の問題もない。それは、そこが女子禁制の男子寮でなければの話だ。
「それならば、自分の部屋におられても良かったのでは?なぜわざわざアルフォンス殿下のお部屋に?」
「私だって帰ろうとしたけど、お兄さまが帰してくれなかったんだもの……」
目線をそらし、指で頬をかきながら、仕方ないじゃないと言外につけ足すように、彩花はそう言った。
彩花はむしろ、早く部屋から出ようとしていた。それを、なんだかんだ理由をつけられて、部屋に留まるように言われていたのだ。
毒を盛られたから、一人にするのは危険だった。理由としては、そんな義務感のようなものだが、周りにいる貴族は当然そんな理由は知らない。
そのため、自分が学園のルールを破ってまで、妹と一緒にいようとしたということになる。つまり、エルルーアと一緒にいたかったのではと思われている。
そうなると、先ほどまでの状況が変わってくる。誰一人味方がいなかった王女が、王子が味方だったように思われる。
そんな状況になれば、不利になるのは侯爵の方だ。たとえ、本当にエルルーアがアルフォンスに反逆の罪を着せようとしたとしても、アルフォンスがそんなことはしていないと言ってしまえば、証人はいなくなる。
彩花が狙っているのはそこだ。証人はアルフォンス以外にいないので、証拠を突きつけるには、向こうに口を滑らしてもらうしかない。
「そうでしたか。それならば、王女殿下を責めるのは筋違いというものですね」
(これくらいじゃあ、話さないか)
それならばと、彩花は次の作戦に移行する。別に通用しなかったからって、焦るようなことはしない。アドリブなんて、子役をしていたころにはよくあることだったから。
「侯爵に過ぎないあなたが王女の私を責める?そんな資格がいつからあったのかしら?」
「言い間違えました。意見するなどおこがましいですね」
「意見する?あなたが?あなたにそんな資格なんて存在しませんわ。あんなことしといて、よくのうのうと私の前に立てたと褒められる権利はありますがね」
エルルーアの言葉に、周りがざわめきだす。侯爵が、何かしらエルルーアの怒りに触れるようなことをしでかしたと思っているからだ。
だが、サティレス侯爵は慌てることもせずに、エルルーアに言い返す。
「私が王女殿下の機嫌を損ねていたのなら、謝罪いたします。申し訳ございません。差し支えなければ、何が不快だったのかお教えくださいますか?」
「あら、そんなこともわからないなんて、とんだ間抜けがいたものですわ。それとも、あなたじゃないのかしら?私の食事にラエスを入れたのは」
ラエス。それが、毒性のあるものということは、この場にいる全員が理解した。そして、全員が侯爵を怪訝な目で見る。たった一人を除いて。
(あいつ、何を言い出してるんだ!?)
アルフォンスだけは、エルルーアの方を怪訝な目で見ている。
アルフォンスは、エルルーアの認識は、馬鹿な王女としか思っていなかったが、今は、本当は賢いが馬鹿なふりをしていた王女に変わっている。
それなので、おそらく何かしらの考えがあるのであろうことはわかっているが、この場で毒を盛られましたと公言するのは、明らかに異常だった。
王家は、弱点をさらさないために、毒が盛られても、隠しておくものだ。なので、秘密裏に調べるのが常。アルフォンスもそうしていた。それを、エルルーアは堂々と言いきった。
毒だとはっきり言ったわけではないが、この場にいる9割は毒だと思っていることには間違いない。
「明らかに味がおかしかったから良かったものの、すべて含んでいたら危なかったですわ。お兄さまが調べてくださってますが、まだ見つかっておりませんの。それなら、私もがんばって探してみようと思ったのですわ」
それで、一番怪しいのがお前だったと笑いながら伝える。当然、副音声はその場にいる全員が理解しているだろう。彩花も、それはわかっている。
「そうでしたか。それでも、疑われるのは心外です」
「そうみたいですわね。あなたが一番あり得そうだったものですので……」
ここで普通は謝るところだが、王女として高いプライドを持っていたエルルーアはもちろん謝罪なんてしたことがないので、直接頭を下げることはしなかった。だが、少し気弱な様を演じる。
「いくらお飲み物にラエスが混入していたとはいえ、それだけで疑われるなど……確かに、ラエスは我が領が一番の栽培量を誇っていますが」
侯爵は、わざとらしく、ため息をつきながらそう言った。
それを聞いて、彩花は心の中でガッツポーズをする。
そして、アルフォンスに目配せした。
「今のお聞きになりました?お兄さま」
「……えっ?」
急にアルフォンスに話題をふったエルルーアに、侯爵は少し戸惑っている。
「サティレス侯爵。エルルーアは食事にラエスが入っていたと言っただけだ。混入していたのが、飲み物とは一言も言っていない」
アルフォンスの指摘に、サティレス侯爵は顔が青くなっていく。
(油断したわね。語るに落ちるって、このことを言うんでしょうね)
一度、お前が怪しいと言って、実は違いましたなんてことになれば、油断して、話してくれるかもしれないと思ったこの作戦だったが、これはうまくいった。
食事と言っておけば、紅茶とか、そういうワードを滑らしてくれるかもしれない。そのために、ご法度だとはわかっているが、自分が毒を盛られたことを公言した。
「お兄さま達の言った通りでしたわね。あなたが犯人だなんて」
「……エルルーア。お前はもう下がれ。追って連絡する」
国王にそう言われたら、彩花は従わざるを得ない。
今もこんな誘導なんてしておいて、これ以上エルルーアと違う行動をしたら、エルルーアの像が、ひびどころか、粉々に壊れるだろう。
それはまだ早い。少しずつ変えていくのが、時間はかかるが、リスクが少ない。
「わかりましたわ。お部屋でお待ちしておりますわね」
ニコッと微笑みかけて、エルルーアは謁見の間を後にした。
本当に腹黒い者なら、こんなお粗末な誘導には引っかからない。それこそ、危ない橋を渡らなければ。
「それって、私がお兄さまに反逆の罪を着せようとしたってやつかしら?そんな方法があるなら、逆に教えてほしいですわね」
アルフォンスがどんな方面にも優れている文武両道なのは、常識と言っても過言ではないくらい有名な話だ。そんなアルフォンスを騙せる方法なんて、常人には思いつかないだろう。
エルルーアはもちろんのこと、彩花もアルフォンスには口で勝つのは難しい。それなのに、騙すなんてできるわけないだろと伝える。
だが、この聞き方だと、方法があればやっていると言っているようなものだった。
「それは私めにもわかりません。ですが、部屋にずっとおられたのであれば、方法などいくらでもあるのでは?」
「私はお兄さまに部屋にいろと言われたから、部屋にいただけですわよ?」
それの何がおかしいの?と言外にたずねる。エルルーアはアルフォンスの命に従っていただけだから、問題ないだろ?と言っている。
それだけなら、彩花の言うとおり、何の問題もない。それは、そこが女子禁制の男子寮でなければの話だ。
「それならば、自分の部屋におられても良かったのでは?なぜわざわざアルフォンス殿下のお部屋に?」
「私だって帰ろうとしたけど、お兄さまが帰してくれなかったんだもの……」
目線をそらし、指で頬をかきながら、仕方ないじゃないと言外につけ足すように、彩花はそう言った。
彩花はむしろ、早く部屋から出ようとしていた。それを、なんだかんだ理由をつけられて、部屋に留まるように言われていたのだ。
毒を盛られたから、一人にするのは危険だった。理由としては、そんな義務感のようなものだが、周りにいる貴族は当然そんな理由は知らない。
そのため、自分が学園のルールを破ってまで、妹と一緒にいようとしたということになる。つまり、エルルーアと一緒にいたかったのではと思われている。
そうなると、先ほどまでの状況が変わってくる。誰一人味方がいなかった王女が、王子が味方だったように思われる。
そんな状況になれば、不利になるのは侯爵の方だ。たとえ、本当にエルルーアがアルフォンスに反逆の罪を着せようとしたとしても、アルフォンスがそんなことはしていないと言ってしまえば、証人はいなくなる。
彩花が狙っているのはそこだ。証人はアルフォンス以外にいないので、証拠を突きつけるには、向こうに口を滑らしてもらうしかない。
「そうでしたか。それならば、王女殿下を責めるのは筋違いというものですね」
(これくらいじゃあ、話さないか)
それならばと、彩花は次の作戦に移行する。別に通用しなかったからって、焦るようなことはしない。アドリブなんて、子役をしていたころにはよくあることだったから。
「侯爵に過ぎないあなたが王女の私を責める?そんな資格がいつからあったのかしら?」
「言い間違えました。意見するなどおこがましいですね」
「意見する?あなたが?あなたにそんな資格なんて存在しませんわ。あんなことしといて、よくのうのうと私の前に立てたと褒められる権利はありますがね」
エルルーアの言葉に、周りがざわめきだす。侯爵が、何かしらエルルーアの怒りに触れるようなことをしでかしたと思っているからだ。
だが、サティレス侯爵は慌てることもせずに、エルルーアに言い返す。
「私が王女殿下の機嫌を損ねていたのなら、謝罪いたします。申し訳ございません。差し支えなければ、何が不快だったのかお教えくださいますか?」
「あら、そんなこともわからないなんて、とんだ間抜けがいたものですわ。それとも、あなたじゃないのかしら?私の食事にラエスを入れたのは」
ラエス。それが、毒性のあるものということは、この場にいる全員が理解した。そして、全員が侯爵を怪訝な目で見る。たった一人を除いて。
(あいつ、何を言い出してるんだ!?)
アルフォンスだけは、エルルーアの方を怪訝な目で見ている。
アルフォンスは、エルルーアの認識は、馬鹿な王女としか思っていなかったが、今は、本当は賢いが馬鹿なふりをしていた王女に変わっている。
それなので、おそらく何かしらの考えがあるのであろうことはわかっているが、この場で毒を盛られましたと公言するのは、明らかに異常だった。
王家は、弱点をさらさないために、毒が盛られても、隠しておくものだ。なので、秘密裏に調べるのが常。アルフォンスもそうしていた。それを、エルルーアは堂々と言いきった。
毒だとはっきり言ったわけではないが、この場にいる9割は毒だと思っていることには間違いない。
「明らかに味がおかしかったから良かったものの、すべて含んでいたら危なかったですわ。お兄さまが調べてくださってますが、まだ見つかっておりませんの。それなら、私もがんばって探してみようと思ったのですわ」
それで、一番怪しいのがお前だったと笑いながら伝える。当然、副音声はその場にいる全員が理解しているだろう。彩花も、それはわかっている。
「そうでしたか。それでも、疑われるのは心外です」
「そうみたいですわね。あなたが一番あり得そうだったものですので……」
ここで普通は謝るところだが、王女として高いプライドを持っていたエルルーアはもちろん謝罪なんてしたことがないので、直接頭を下げることはしなかった。だが、少し気弱な様を演じる。
「いくらお飲み物にラエスが混入していたとはいえ、それだけで疑われるなど……確かに、ラエスは我が領が一番の栽培量を誇っていますが」
侯爵は、わざとらしく、ため息をつきながらそう言った。
それを聞いて、彩花は心の中でガッツポーズをする。
そして、アルフォンスに目配せした。
「今のお聞きになりました?お兄さま」
「……えっ?」
急にアルフォンスに話題をふったエルルーアに、侯爵は少し戸惑っている。
「サティレス侯爵。エルルーアは食事にラエスが入っていたと言っただけだ。混入していたのが、飲み物とは一言も言っていない」
アルフォンスの指摘に、サティレス侯爵は顔が青くなっていく。
(油断したわね。語るに落ちるって、このことを言うんでしょうね)
一度、お前が怪しいと言って、実は違いましたなんてことになれば、油断して、話してくれるかもしれないと思ったこの作戦だったが、これはうまくいった。
食事と言っておけば、紅茶とか、そういうワードを滑らしてくれるかもしれない。そのために、ご法度だとはわかっているが、自分が毒を盛られたことを公言した。
「お兄さま達の言った通りでしたわね。あなたが犯人だなんて」
「……エルルーア。お前はもう下がれ。追って連絡する」
国王にそう言われたら、彩花は従わざるを得ない。
今もこんな誘導なんてしておいて、これ以上エルルーアと違う行動をしたら、エルルーアの像が、ひびどころか、粉々に壊れるだろう。
それはまだ早い。少しずつ変えていくのが、時間はかかるが、リスクが少ない。
「わかりましたわ。お部屋でお待ちしておりますわね」
ニコッと微笑みかけて、エルルーアは謁見の間を後にした。
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