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馬を射よ

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 王妃と側室たちは毎朝朝礼を行う。

 現在は第二夫人から第四夫人までの三人の側室がいるが、本日は出産間近の第三夫人は欠席していた。

「紹介するわ。カーネギー伯爵のご令嬢のマーガレットとマリアンヌよ。二人とも、ご挨拶なさい」

 マーガレットとマリアンヌは王妃の後ろに控えていたが、少し前に出てお辞儀をした。

 側室たちは何が始まったのかをすぐに察した。

「王妃様、王都中で噂のあのロンメルク子爵の美容療法を始められたのでしょうか?」

 第二夫人のフローラが単刀直入に切り出した。

「あら? 耳が早いのね。その通りよ」

「王妃様の次は、私たちも美容療法を受けられるのでしょうか?」

 次に一番若い第四夫人のアリスが発言した。

「さあ、どうかしら。私が決められることではないわ。でも、あなたは若くて綺麗だから必要ないのではなくて?」

「私は歳が若いだけで、お姉様方ほど美しくはございませんわ」

「まあ、謙遜するなんて、あなたらしくなくてよ。ロンメルク子爵はお忙しいみたいなの。私のようなお婆さんを優先して施術して下さるの。無理を言ってはいけないわ」

 側室二人は口をつぐんだ。王妃は美容療法を独り占めするつもりだ。王妃に掛け合っても不興を買うだけだろう。ロンメルク子爵に直接交渉するか、マーガレットかマリアンヌに接触するしかない。

「すでに輝くばかりにお美しい王妃様が、どのようにお変わりになるのか楽しみですわ」

 第二夫人はこの場は引き下がるべきと判断し、第四夫人にもそっと目配せした。

「うふふ、私も楽しみなの。今日の朝会は終わりにします。良き一日を」

「「良き一日を」」

 側室二人が退室した後、王妃はマーガレットとマリアンヌに囁いた。

「側室はきっとあなたたちに接触してくるわ。対応は任せるわよ」

「「はい……」」

「さあ、朝の施術に行くわよ。着替えるから、先に行ってて。もう美容効果が出始めているの。本当にすごいわね」

 マーガレットとマリアンヌは、王妃の退室を見送った後、すぐに二人で礼拝堂へと向かった。

「お姉様、側室の方々にはどのように対応すべきでしょうか」

「キャス様に相談しましょう。王妃様もきっとその時間を下さったのよ。急ぎましょう」

***

 俺が「鳳凰の間」で女神様と今後のことについて話していると、マーガレットとマリアンヌの二人が、慌てた様子で部屋に入って来た。

 俺は今朝の出来事を二人から聞いた。

「やはりそう来たか。問題ない。対応策は考えてある。いつでもいいから、側室のお二方をお連れしていいよ」

「お兄様、大丈夫なのですか?」

「ああ、安心していい。それより、王妃様には気に入ってもらえそうか?」

「分かりません……」

「キャス様、マリは気に入っていただいてますわ。お気に召さない場合は、すでに後宮から追い出されておりますもの。王妃様は、マリの運動後のマッサージにとてもご満足のご様子でした」

 実はマリには女神の涙の入ったマッサージオイルを渡してある。肩凝りのツボは人によって微妙に異なるが、このオイルはツボに集まるようになっているため、正確にツボを指圧することができるのだ。

「マリ、『将を射んと欲すればまず馬を射よ』って言うだろう? 頑張れよ」

「初めて聞く言葉ですが、意味は分かりました。頑張ります」

 前世の方の諺だったようだ。最近どっちかよく分からない時がある。気をつけよう。
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