上 下
6 / 91
第一章 異世界召喚

王との謁見

しおりを挟む
 レンとエリコは王と謁見していた。

「お主たち二人は我が人類の救世主である。褒美は思うままに与えよう。一刻も早く魔王を打ち倒してもらいたい」

 王と王妃が上座に座っており、玉座に真っ直ぐと伸びる絨毯の左右に臣下が勢揃いしている。

 臣下の列の王に近い二人は王子だと紹介されていたが、そんなにイケメンではなかった。エリコのテンションは若干下がり気味だ。それを知ってか、王子の一人が両手でパンパンと二回音を鳴らすと、室内に男女それぞれ十人が入室して来た。

 レンが女性たちを前にして若干照れている。エリコは目が怖いぐらい男たちをガン見している。

「タツノさん、あれ」

「うん、何なのかしら、赤黒いわね」

 俺たちには植物以外の生物は普通の色合いに見えるが、それ以外は全て赤黒く見える。あの二十人は人ではないことは確かだ。

 この国は明らかにレンとエリコを利用している。

「大変だわ、レンに早く知らせてあげないと」

「すぐに何か起きることはないだろう。一人になる機会を待とう」

「ありがとう。なかむらくんがいなかったら、私とっくに捕まっていたかもね。こいつら、悪いやつよね」

「俺たち平和ボケしているはずだから、これからも慎重に行こう」

 タツノさんは頷いた。

 今晩は城で歓迎の宴があり、魔王討伐には明日出発するようだ。随分と強行日程だが、レンやエリコは当たり前のように承諾していた。

「何だか素直過ぎないか、あいつら」

「ええ、おかしいわね。レンはかなり自己主張が強いはずなんだけど、別人のようだわ」

 自己主張が強い、ねえ。要するにわがままなんじゃないか。

「エリコは本能剥き出しの感じだな。何か魔法でもかけられているのか?」

 ようやく二人はそれぞれの部屋に案内され、小休止するようだ。タツノさんを一人にするのは心配だったが、レンと二人にしてあげた方がいいと思って、俺はレンの部屋に入らないでいた。

「何しているのよ、一緒に来るのよ」

「いいのか?」

「正直、心細いのよ、一緒に来て」

「分かった」

 俺たちはドアを通過した。レンはベッドに座ってニヤけていた。

「いやあ、女の子たち可愛かったなあ。勇者だもんな、遂に来たな、俺の時代がっ」

 すげえ独り言だな。い、いかん、タツノさんがブチ切れそうだ。でも、いいか。放っておこう。

 パチーン。

 レンがいきなりビンタされてびっくりして、辺りをキョロキョロしている。

 勇者だからビンタで済んでいるんだと思う。さっきの魔物との戦いの感じからすると、普通の人間だったら、歯が全部折れていると思う。

 ここで問題が発生した。予定していた筆談が出来ない。壁に文字を書こうとしたのだが、それができないのだ。

 まず、物を持つことが出来ない。すり抜けてしまう。おかしい、本堂の扉は開けることが出来たのに何故だ? 壁に傷をつけることも出来ない。

 途方に暮れてしまっているタツノさんに俺は声をかけた。

「タツノさん、レンの背中に指で文字を書くのはどう?」

「そ、そうね、やってみる!」

 タツノさんは目を輝かせているが、俺は多分レンは逃げだすだろうと予想した。

 タツノさんがレンの後ろに行き、背中に指で文字を書こうとするが、レンはどうやら最初に指が触れたときしか感触がないようだ。

 そういえば竹藪で魔物を攻撃したときも、殴る蹴るは出来たが、掴むことは出来なかった。俺たちは生物対して打突しか出来ないようだ。

 タツノさんもそれに気づいたらしく、指でトントンしながら、文字を書き始めた。

 真っ青な顔をしているレンは予想通りの行動に出た。

「ぎゃああああ、出たあっ」

と叫んで、一目散に部屋を飛び出したのだ。

「何でこうなるのよっ」

 俺は悔しがっているタツノさんをなだめて、いっしょに部屋を出た。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について

恋愛 / 完結 24h.ポイント:369pt お気に入り:2,243

悪役令嬢の生産ライフ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:376pt お気に入り:5,535

最初に私を蔑ろにしたのは殿下の方でしょう?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,516pt お気に入り:1,958

【完結】追憶と未来の恋模様〜記憶が戻ったら番外編〜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:885

私、いらない子ですか。だったら死んでもいいですか。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:294

伯爵令嬢は執事に狙われている

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,053pt お気に入り:457

おかしくなったのは、彼女が我が家にやってきてからでした。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,882pt お気に入り:3,851

処理中です...