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「おはよう!宝利君。」

 清々しい朝の挨拶だ。通学路ならばどこそこででも見ることができる普通の光景…

「ちょっと…!?楓?何?どうしたの?」

 清々しいはずの挨拶の声を聞いた途端、グッと顰めた楓矢の顔を話しながら覗き込んでいたみそえが声を上げる。
 
 そう……友達だったら何でもない、なんとも思わない挨拶だ。

「あれ?聞こえなかったかな?宝利君、おはよう!」

 爽やかな声がぴったりくる様なハリのある声で、声の主である山手は楓矢の肩に手を置いて顔を覗き込んできた。

「おま……!?」

 どんな顔して、2回目の告白をしてきた相手に接しようかと、目が冴えてしまった暗い部屋で二度寝もできずに考えあぐねて
やっと少し距離を取ろうと思い至った楓矢の垣根を山手はひょいっと越えてきた。

 とりあえず、覗き込み続けているみそえに、自分の態度がおかしな事を指摘される前に、なんとか、山手におう、と挨拶してみる。


(こんな奴だった?)


 もっと、山手は何というか大人しいと言うか控えめな…決して奥手ではないと言うことは体験済みなのだが、学校では自分からあれこれと前に出てくる事など今まで皆無だったのに…


 今朝のこいつは……


「あれ?山手君?何かいい事でもあったの?今日すっごい機嫌良さげ~」

 同じクラスでもないみそえでさえ普段の山手の雰囲気の違いを感じ取っている。その位には山手の態度に変化がある。

「そう?そう見えるかな?実は少し、いや、凄く良いことがあってね…嬉しくて、眠れないくらいだった…!」

「わぉ!何だろ?楓、気になるねぇ?山手君草食系っぽいのに、今ならぐいぐい女の子に迫れそうなくらいテンション高くない?」

「え…やだなぁ。そんな風に見えてる?」

「うん!元々山手君顔もいいもんね!今だったらみんな断らないんじゃない?」

「え?そう?そうか……でも、僕一人でいいんだけどな?」

「やっだ!その外見でそんなに一途って!モテる要素しかないじゃんね?楓もそう思うでしょ?」

「…………」


 誰に……一人ってさ………
 山手…それ以上言うなよ……?


 必死に笑顔を作ろうと試みていても、自分でも引き攣っているのを嫌でも自覚してしまう。


「へぇ~~なんだか、急に仲良しじゃない?」


 つい、数日前までは普通のクラスメイトだった。まさかこんなに山手がグイグイくる性格とは思いもせず、為されるがままに流されている楓矢の後ろから、今日もいつもの様にのんびりとダルそうについて来ていた蒼梧がそんな事を投げかけてくる。


「はぁ!?何言ってんだよ!蒼梧!」

「ん~?見たまんま?違うの?」

「く……っ!」


 ここで違う、ときっぱりはっきり言い切ってしまえば山手の気持ちをしっかり断るきっかけくらいにはなるのかも知れない。

 さっきから不思議そうに見つめてくるみそえといつもよりも急に距離を縮めて来た山手に挟まれながら、バッサリとそう切り捨てるわけにもいかず…


「仲良きことは良きことだよね?桐谷君?」


 山手は後ろを見ながらそんな事を言い出す始末。


「ま、そうだけどさ。俺としては何で楓との距離が縮まってるのかが気になるけど?」


(蒼梧~!聞くなよ~~)


 妙に勘がいい蒼梧の事。昨日何かあったかと変な誤解をされたら一生揶揄われる!


「もう、良いって…お許しが出たんだよ。」

 
 ニッコリと、ここ最近では1番と言えるほどの爽やかな笑顔の山手は蒼梧にそう返した。


 いい笑顔じゃん…山手~~!


「お許しねぇ~~?」

 
 何かを勘ぐる様な蒼梧の声色は、見ていなかっただろうに今までの山手とのアレコレを全部知られた様な変な錯覚に陥る。


「そうだ!ちょっと山手君に確認したいことがあったんだよ!ほら、この間の…あ、ごめん、みそえ、蒼梧!先に行ってて!」


 これ以上!何かを口走る前にこいつらから引き剥がす!!




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