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第四章

告白 

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 生徒会の仕事を終え、迎えの馬車に乗り込んですぐ、エリザベートはルークに声をかけた。

「ねえルーク」
「はい、エリザベート様」
「その……やっぱり、知りたくなってしまったのだけれど」
「え、と……何をでしょうか?」
「ルチア嬢に、何を言われたか」
「あ……ええと」

 ルークは少し驚き、戸惑ったようだったが、すぐに表情を戻した。

「私が奴隷で、エリザベート様に買われた事を言われました。心配していると」
「心配ですって?」
「はい。大変だろうとか、いいように使われているんだろうとか。違うと言っても勝手に決めつけてきて……すごく不愉快でした。それに、何を言っても自分に都合の良い様に解釈するのがすごく腹立たしくて……自分は何も悪くないような言い方もしていたし……もう、顔を合わせたくありません」

 その言葉にエリザベートはホッとし、安堵の表情を浮かべた。

「そう……良かった」
「あのぅ……良かった、とは?」
「彼女と話した男性は彼女の事を好きになってしまう事が多いから、ちょっと心配だったのよ。良かったわ、ルークがルチア嬢の事を好きにならなくて」
「エリザベート様……」
「フフッ、まあ、大丈夫だとは思っていたけれど……ルーク?」

 ルークが暗い表情をしているのに気づき、エリザベートは声をかけた。

「どうかした?」
「……エリザベート様は、私の事を疑ってらっしゃったのですか?」
「え?」

 ルークが、苦し気な表情で言う。

「私が、あの女を好きにならなくて良かったと仰ったじゃないですか」
「ああ、ええ、まあ……」

 ギュッと眉を寄せて悲しそうな顔をするルークに、エリザベートは慌てた。

「いえ、別に、貴方を疑っていたというわけではないのよ? ただ、彼女はすごくモテるから……ほら、レオンハルト様もオスカー様も彼女に夢中だし、ディラン様も……今はそうではないとはいえ、エドワード様やテオール様だって彼女の事が好きだったと思うし、他の男子生徒も……それで、ちょっと心配しただけよ。だって、人の心は変わるものだし」
「私の心は変わりません!」

 ルークが、叫ぶように言った。

「私はエリザベート様以外の方を大切に思う事など絶対にありません! そう誓いました!」
「ええそうね、ごめんなさい。わたくしが不安に思ったせいで、貴方を傷つけてしまって」

(だって、ルチアはこの世界のヒロインだもの。ルークも攻略対象かもしれないし、そもそも攻略対象以外の男性もルチアの事を好きになっているじゃない。だから心配になってしまったのよ。でもそんな事情、ルークには言えないけれど……)

「ルークがわたくしを裏切るだとか、疑ったわけではないわ。ただ……それでも、心配になってしまったのよ。これまでの事があるから。長い間婚約者だったレオンハルト様に簡単に裏切られたし、幼い頃から仲が良かったディラン様やエドワード様にも疑われたりしたから」
「僕は! 僕は決してそんな事しません! エリザベート様に救っていただき、こんなに良くして頂いているのに、そんなっ」
「そうね、ええ、わかっているわ。ごめんなさい」
「……っ!」

 泣きそうな顔をするルーク。

「僕はっ、エリザベート様に謝って欲しいわけじゃなくて……」

(ああ、失敗した。ルークは最近デリケートな感じなのに、不用意な事を言ってしまったわ)

「僕は……僕はっ」
「ええ」

 こういう時は、しっかり話を聞いてあげるのがいいだろうと、エリザベートは相槌を打った。

「僕は、エリザベート様が好きなんです!」
「ありがとう、わたくしもルークが好きよ」
「違います!」

 ルークが激しく首を振る。

「僕の好きはそうじゃない! 違うんです! 僕はエリザベート様を愛しています!」
「……え?」
「エリザベート様が僕の全てです。エリザベート様の為に僕の一生を捧げます。エリザベート様が誰を好きになろうと、僕は生涯エリザベート様だけを愛し続けます。だから……だから僕の心を疑わないで下さい!」

 突然の言葉に驚いたエリザベートだが、何か言わなければ、と口を開く。

「あ、その……本当に、ルークの事を疑ってはいないのよ。ちゃんと考えずに言葉を発して、傷つけてしまってごめんなさい。それで……貴方がわたくしの事を好きだというのは……なんというか……そう感じるかもしれないけれど、違うのよ。ルークはわたくしに恩義を感じて、恩を返さなくては、と思っているでしょう? それで、思いつめてしまっているのかもしれないけれど、それは愛とは別物なの」
「ちゃんとわかっています、その違いは。僕のこの気持ちは決して恩義とか、そういうことじゃありません。恩義なら、最初からずっと感じていました。でもその時の感情と今の感情は違います。本当に本当に、僕はエリザベート様の事を……」

 自分の心を知って欲しくて、自分の感情を認めて欲しくて。
 必死に告白をしたルークだったが。

「……あ……もうしわけ、ございません……」

 我に返り、頭を下げた。

「奴隷の身で……エリザベート様に対してこんな感情を抱くなんて……もうしわけ……」
「…………」
「罰を、与えて下さい。どうか……」

 震える声で謝罪するルークに、エリザベートはフーッと息を吐いてから、言った。

「……罰なんて、与えられるわけないじゃない。だって、ルークはわたくしの大切な騎士なのよ? それに人の心は、他人にどうこうできるものではないわ。わたくしの事を愛するのが罪だなんて、そんな事言えないわ。でも、それを踏まえたうえで言うと……」

 どう説明するのがいいのだろうと考えたが、良い案は浮かんでこない。

(……正直に、話すのがいいわね……)

「わたくしは今、誰とも恋仲になるつもりはないの。結婚もしたくないし」
「……はい」
「王太子殿下の事はもう好きではないし、王妃にも全く未練はないわ。でも、だからといって、新しい恋をしようとは思えないの。裏切られた記憶は薄れていないし、愛なんて信じられないの。それにルークの事は……なんというか……弟のような感じで……」

(ごめんなさい! でも、それが事実なんですもの!)

「……いえ、わかっていました。エリザベート様に、弟のように思われているのは」

 落ち着きを取り戻したルークが、悲しそうな笑顔で言った。

「エリザベート様がとても優しく接して下さって、大切にして下さって……とても嬉しかったですが、男性としては見られていないとわかって、悲しんだ時もありました。でも、しょうがないんです。だって実際、弱いし、子供っぽいし、まだまだ全然男らしくないのですから」
「……ごめんなさい」
「いいえ。私の方こそ、申し訳ございませんでした。それに時々、子供のように思われているんじゃ、と感じた事もありましたから、弟でまだ良かったです!」
「ルーク……」

(ごめんなさい! 実は、貴方の言う通り、弟というよりも息子のように感じる事もしょっちゅうあるわ! でもそう言ったら増々ダメージを与えてしましそうだから、秘密にするわ!)

 二人は少し笑い、その後は公爵邸に着くまで、ずっと黙ったままだった。



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