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③ あなたと私は結ばれない

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「次は何を作るんだ?」
「おうきゅう!」
「俺、王宮住みだからな、あまりロマンを感じねえなぁ」

 この光景、信じられない。短時間でルゥはミハエル様に馴染み過ぎだし、ミハエル様は私の質素な部屋に馴染まなさ過ぎだ。

「積み木、ありがとうございました。こんな質のいい物をいただけるなんて」
「これ、俺が小さいころ遊んでいたやつなんだ。新品じゃねえよ」
「全然かまいません。ルゥとても喜んでいますし。それにしても、本当にどうして私なんかと友達に?」

「結婚したいから」

「…………。ご存じのとおり、私は17にして4つの子持ちですが」

「何か問題が?」

 何か問題が?じゃない!! そりゃ王子のように、人前でああいうこと言えてしまうのは、人の上に立つ者として浅慮だと思うが、普通は気にすることだろう。この方はお相手選び放題の王族様だ。

「私は平民です。どうして私??」

 この掴みどころのない王族様になんだか苛立ってしまうのは、どうせ“聖女が物珍しい”、たったそれだけなんだと卑屈になっているからだろうか。

「だって、可愛い!って思ったんだ! 平民だって仕方ないだろう!?」
「え??」
「でもお前はあいつの婚約者で、どうにも手ぇ出せずにいたら急に破棄ってことになったから、俺にチャンス来た!って思ったっておかしくないだろ……」

 彼は少し照れたのか、目を反らした。ルゥが隣で積み木をかちかちする中、私たちふたりは少しのあいだ、沈黙の渦に飲み込まれていた。

「あ、あなたの周りには、可愛い女性なんて、いくらでもいるじゃありませんか……」

 私もなんだか無性に恥ずかしくなってきた。そんなふうに男性に言われたの、初めてだから。

「主観の問題だろそんなの」

 そんなきっぱりと……。もう何も言えない。ただ口をつぐんでしまう。

「だからさ」
 そんな私の床へ置く手に、彼は手を重ねてきた。友達とか言っておいて。これ、猛烈に口説いてくる体勢というやつでは?と、私は瞬間、身構えた。

「占ってくれ、俺たちの行く末を」

 口説いてくる……。口説……。

「は、はぁ……?」

 猛烈に……というのではなかった。


「俺たちが無事、結ばれるかどうか、占ってくれ」

「ええっと、私は仕事人として、順番厳守でやっておりますので、予約していただけないと。半年間、王宮で召し上げられている間こなせなかった分を、今急いでやっておりますので、まだだいぶ時間かかりますが」
「ああ、整理券持ってるぞ」
「はぁ!?」

 彼が懐からさっと出したそれをよく見たら、待ち順・明日の整理券!

「なぜぇ?」
「俺の姉が聖女の占いに興味あって、半年以上前に入手していたんだと。しかし無期限キャンセルされて、今もう姉は留学してしまったから、俺が譲り受けた」
「は、はぁ……。それは申し訳ないことです」
 私が悪いんじゃありませんが……。あの不遜な王子のせいですが……。

「だから、これで占ってくれ」
「まぁ、そういうことでしたら……。半日前倒しですけど」
 私は水晶玉を取り出して占ってみた。

「……だめですね」
「ん?」
「私たち、結ばれません。ご縁がないです」

 彼は真顔になった。たぶん私も、真顔になっている。

「嘘ついてるんだろ」
「へ?」
「お前が俺のところに来たくないから」
 今度はいじけた顔で言う。

「私は仕事でやってるんです! 私情で嘘なんてつくわけありません!」

 すると彼はルゥを膝に抱き上げた。
「なぁ、お前の母様、嘘ついてないか?」

 ルゥがじっと私を見てくる。

「かあしゃま、うそつかない」
「そうか」

 そして彼は口角を上げたまま立ち上がり、またルゥの頭をぽんぽんし、
「また来るよ」
と言うのだ。

「どうしてっ……」

 “結ばれない”って、私、言ったのに。

「友達の家に遊びに来るのに、理由がいるか?」

 またそれだ。丸めこまれていると思う。

 彼の帰った後、私は王宮で紹介された人々の肩書などをメモした記帳を開いてみた。もう意味のない物だったが捨てずにおいてよかった。ほとんどの人は顔とメモ書きが一致せず、彼のことも分からなかったが、確かにメモには書かれている。

「話したこともきっとほとんどないのに、結婚って、何を言ってるんだろう」

 でも私は確かに視えた。水晶には背中合わせの私たちが映った。彼と私の未来は交わらない。



***


「えっ! ミハエル様、またいらしてるんですかっ!?」
 私は豪快に自室の扉を開けた。

「わぁい! かみひこーき、とんでくよ~~」
「次は外でやろうな」
 仕事から帰ると、またこの景色だ。何らかの持ち込み玩具で、ルゥはいつもめろめろにされている。

「かあしゃまおかえり! かみ! もらったの~~」
「あ、これ、何度も再利用してるから、王族のムダ遣いってわけじゃないぞ」
「むだぁ―?」
「お前の母様うるさいからな、ムダ遣いとか贅沢に」

 彼がここまでずかずかと入り込めるのは、毎度の差し入れで母様も姉様もすっかり篭絡ろうらくされているからだ。彼女らは甘味に弱い。あと男手があったら便利な家内の仕事を手伝ってもらってもいるらしい。わざわざ彼は質素な服に着替えて。

 それにしてもこのルゥの懐きようときたら、彼女らの比ではない。確かにミハエル様の面倒見のよさは、本当に王族なのって思うくらいだし、正直私や母様たちも助かっていたりする。

 しかし、こうも頻繁にやってくるとは、王族は暇なのか。まぁ暇なのだろう。暇を持て余したお偉方の遊び、なのだろう。

 いや、もしかしたら、ミハエル様は小児性愛者なのでは!? まさかうちのルゥに目を付けて!?

 とんでもないわ。もしルゥに指一本でも触れたら、窓から背負いぶん投げて追い出してやる。いや、すでに指一本どころか肩車もしてもらっているけれど。

 今のところ大丈夫だと思うけど、“手ぇ出すなよっ”という視線をジト目で送っておこう。

「うん、なんか威圧的な視線を感じる……」
「ねね、ミハエルしゃま」
「ん、なんだ?」

「ルゥ、おっきくなったら、ミハエルしゃまのおよめになる」

 えっ、ルゥもそんなこと言うお年頃になっちゃったの!?

「ああ、それはダメだ。俺はお前の母様と結婚するから、お前を嫁にはできない。悪いな!」
「え――」
「ちょっとちょっと! そんな笑いながら女を振るなんて、性悪オトコにもほどがあります! うちの娘の純情返してください!!」

 私はぎゅっとルゥを抱きしめ頭よしよしした。ああ、なんてかわいそうなルゥ。こんなオトコに引っ掛かったばっかりに。

「俺はなんて答えるのが正解なんだ……」



 それから庶民の晩御飯で彼をもてなした後、私はいつものように家の前まで彼を見送りに出た。

「まだ馬車が来てないから、ちょっと近くの川沿いまで散歩しないか」
「構いませんが……」
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