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初恋に終止符を
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海里はいつものように出社前の珈琲を、これまたいつもの通りの見える席に座り飲んでいた。
だが、その表情はどこか憂いを帯びている。
「お前ねえ···その端整な顔立ちで切なげな表情するなよ。さっきから、女子社員がチラチラ見ながら声かけるタイミング狙ってるぞ」
珈琲カップを海里の席の隣に置き、怜司が視線で女性社員の位置を目配せしながら座る。
「何だか元気がなさそうだから声かけて慰めたら付き合うきっかけになるかも···なんて言ってたのが聞こえたぞ」
なかなか計算高いよな~と言いながら怜司は珈琲を一口飲んだ。
「···俺は女性に興味ない」
「だったらいつものように隙きのない笑顔でも張りつけとけよ」
「今はそんな余裕はないな···」
ボソッと呟いた海里に、
「で?また逃げられちまったのか?」
と、ニヤニヤ笑いながら怜司は問いかけた。
「今度は逃げられてない」
海里の答えにじゃあ何だよ、と怜司は珈琲に口をつけながら聞いた。
「俺との関係を隠したがっている。名前で呼ばれるのも、朝送っていくのも嫌がられた」
海里の返答に一瞬ぽかんとした怜司は、
「いやいや、普通だろ。俺はお前が男が好きだろうがお前を見る目は変わらねえよ。だけど、そう見れない奴の方がまだまだ多い世の中だ。避けられるなら避けたいに決まってんだろ···。お前だってそう思ったから、同じ社の奴に手ぇ出さなかったんじゃねえの?」
「は?俺が面倒と言ったのは、色恋沙汰で仕事に支障をきたすと困るからだけど?別れでもすれば余計仕事し難いだろうが」
そっちかよ!と怜司は呆れた顔をした。
「出世を望むんなら、波風たてない事だな。それに、お前は気にしなくても相手はどうか分かんないぜ?好奇な視線にさらさせたくなかったらバレないように気をつけてやれよ」
出世などどうでもいいが、真尋が嫌な思いをするような事にはさせたくはない。
「それは···分かってるさ」
分かってはいるが···
彼は自分のモノだと知らしめさせたい
自分はこんなにも独占欲が強い人間だっただろうかと、考えながら海里は飲みかけの珈琲に口をつけた。
❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇
真尋はデスクの上のスマホをチラリと見た。
今朝の名前で呼びたそうな海里の表情がチラつく。
急にそんな事をされれば変に勘ぐる奴だって出てくるだろう。彼の早い出世を妬んでいる者だっているのだから、自分の所為でそんな奴らに足元を見られるような事にはなりたくない。
自分を好きにならなければ···そんな後悔だけはされたくなかった。
きっと···
海里には女性を好きになるという選択肢もあっただろうから···
真尋は常に女性社員に囲まれている海里の姿を思い出しながら、心が沈むのを感じた。
暗くなってしまった気持ちを、それでも海里は自分を選んでくれたのだからと振り払う。
真尋はスマホを手に取り、海里にメッセージを送る為のアプリを起動させた。
『今日、夕飯を食べに行きませんか?』
送信すると、すぐに返事のメッセージが送られてきた。
『いいよ。真尋がフロアを出たら、俺もすぐ後から行くから』
そのメッセージにささやかな幸せを感じ、真尋はスマホをそっと置いた。
❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇
海里のスマホが振動し、メッセージの受信を知らせるランプが点灯した。
スマホを開くなり、浮かない表情をしていた海里の頬が途端に緩む。
朝、車で送られる事も名前で呼ばれる事も拒絶された海里にとって、真尋からの誘いは単純に嬉しかった。
素早くメッセージを打ち込み、真尋へ送信する。
「···お前、顔が緩みまくってるぞ」
呆れた顔をした怜司をよそに、海里は先行くぞと席を立った。
だが、その表情はどこか憂いを帯びている。
「お前ねえ···その端整な顔立ちで切なげな表情するなよ。さっきから、女子社員がチラチラ見ながら声かけるタイミング狙ってるぞ」
珈琲カップを海里の席の隣に置き、怜司が視線で女性社員の位置を目配せしながら座る。
「何だか元気がなさそうだから声かけて慰めたら付き合うきっかけになるかも···なんて言ってたのが聞こえたぞ」
なかなか計算高いよな~と言いながら怜司は珈琲を一口飲んだ。
「···俺は女性に興味ない」
「だったらいつものように隙きのない笑顔でも張りつけとけよ」
「今はそんな余裕はないな···」
ボソッと呟いた海里に、
「で?また逃げられちまったのか?」
と、ニヤニヤ笑いながら怜司は問いかけた。
「今度は逃げられてない」
海里の答えにじゃあ何だよ、と怜司は珈琲に口をつけながら聞いた。
「俺との関係を隠したがっている。名前で呼ばれるのも、朝送っていくのも嫌がられた」
海里の返答に一瞬ぽかんとした怜司は、
「いやいや、普通だろ。俺はお前が男が好きだろうがお前を見る目は変わらねえよ。だけど、そう見れない奴の方がまだまだ多い世の中だ。避けられるなら避けたいに決まってんだろ···。お前だってそう思ったから、同じ社の奴に手ぇ出さなかったんじゃねえの?」
「は?俺が面倒と言ったのは、色恋沙汰で仕事に支障をきたすと困るからだけど?別れでもすれば余計仕事し難いだろうが」
そっちかよ!と怜司は呆れた顔をした。
「出世を望むんなら、波風たてない事だな。それに、お前は気にしなくても相手はどうか分かんないぜ?好奇な視線にさらさせたくなかったらバレないように気をつけてやれよ」
出世などどうでもいいが、真尋が嫌な思いをするような事にはさせたくはない。
「それは···分かってるさ」
分かってはいるが···
彼は自分のモノだと知らしめさせたい
自分はこんなにも独占欲が強い人間だっただろうかと、考えながら海里は飲みかけの珈琲に口をつけた。
❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇
真尋はデスクの上のスマホをチラリと見た。
今朝の名前で呼びたそうな海里の表情がチラつく。
急にそんな事をされれば変に勘ぐる奴だって出てくるだろう。彼の早い出世を妬んでいる者だっているのだから、自分の所為でそんな奴らに足元を見られるような事にはなりたくない。
自分を好きにならなければ···そんな後悔だけはされたくなかった。
きっと···
海里には女性を好きになるという選択肢もあっただろうから···
真尋は常に女性社員に囲まれている海里の姿を思い出しながら、心が沈むのを感じた。
暗くなってしまった気持ちを、それでも海里は自分を選んでくれたのだからと振り払う。
真尋はスマホを手に取り、海里にメッセージを送る為のアプリを起動させた。
『今日、夕飯を食べに行きませんか?』
送信すると、すぐに返事のメッセージが送られてきた。
『いいよ。真尋がフロアを出たら、俺もすぐ後から行くから』
そのメッセージにささやかな幸せを感じ、真尋はスマホをそっと置いた。
❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇
海里のスマホが振動し、メッセージの受信を知らせるランプが点灯した。
スマホを開くなり、浮かない表情をしていた海里の頬が途端に緩む。
朝、車で送られる事も名前で呼ばれる事も拒絶された海里にとって、真尋からの誘いは単純に嬉しかった。
素早くメッセージを打ち込み、真尋へ送信する。
「···お前、顔が緩みまくってるぞ」
呆れた顔をした怜司をよそに、海里は先行くぞと席を立った。
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