上司と部下の恋愛事情

朔弥

文字の大きさ
21 / 85
デート

21

しおりを挟む
 休日の昼下り。真尋は駅へと向かっていた。
 朝夕はまだ空気が冷たく感じる日もあるが、初夏の日中はカットソーの上にカラーシャツを羽織っただけの薄手な服装をしていても歩いていると少し熱いなと感じる。
 デートをしようと海里に言われ、待ち合わせをした映画館へは最寄りの駅から電車で5つ程乗り過ごさなければならない位置にあった。
 もっと近くにも映画館はあったのだが、わざわざ少し遠くの映画館を待ちあわせ場所に指定してきたのは、社の中では上司と部下の関係を崩したくないという自分の気持ちに配慮して、会社の誰かに見られないよう会社から離れた映画館にしてくれたのだろう。


 電車に揺られ、目的の駅に着いた真尋はホームに降りた。そして改札口を抜け、駅からは然程さほど離れていない映画館までの道のりを歩いて向かった。
 映画館の建物の近くに立つ海里の姿を見つけた真尋は彼に近づこうとして、その歩みを止めた。
 真尋が近づく前に二人組の女性が海里に、にこやかな笑顔を浮かべながら話しかけていたからだ。
 微かだが彼女達の会話が聞こえてくる。
「お兄さん、さっきからずっと一人ですけど、もしかして相手の方に振られちゃったんですかぁ?良かったら、私達とどこか遊びに行きませんかぁ?」
 甘い声で誘う女性の声。
 カットソーの上に爽やかな色合いのテーラードジャケットを羽織り、濃いめのパンツ姿で建物の柱に少し背を預けたたずむ海里の姿は人目を引いた。待ち合わせをしていようが、構わず声くらいかけられてもおかしくないかもしれない。
 よく見れば、少し離れた所で成り行きを興味深く見ている女性達の姿もあった。彼女達が駄目だったら次は自分達が声をかけてみようか、そんな視線がうかがえる。
 そんな彼女達の視線の中、自分が海里に声をかけるのか···と、物怖じしてしまい真尋は次の足がなかなか踏み出せずにいた。


「···悪いけど、もうすぐ来るから」
 海里はさらりとかわすが、彼女達は尚も食い下がる。
「またまたぁ~、だってお兄さん、かなり前からいるじゃないですかぁ」
 彼女達の言葉に真尋はスマホの時間を確認してみる。待ち合わせの時間の10分前だから、真尋が遅かった訳ではない。海里は一体、何時からこの場所にいたのだろうか。
 そんな事を考えていると海里が真尋に気づき、
「連れが来たから、もういいかな」
と、真尋の方へ歩き出した。
「え~、本当に待ち合わせだったんだぁ···え?待ち合わせって彼女とかじゃないじゃないですかぁ」
 海里の後ろを追ってきた彼女達の視線が真尋に注がれる。
「お友達も一緒でいいんで、一緒に遊びましょうよ」


 彼女じゃない···

 彼女達の言葉がチクリと胸に刺さる。

 付き合っているのに、そうだと言えない自分の存在は何だろうか···


「真尋」
 名前を呼び、海里の伸ばした手が真尋の手をとり握った。
「悪いけど、デートの邪魔しないでくれるかな?」
 彼女達にニッコリ笑って言うが、声は心做こころなしか冷たい。
「行くよ、真尋」
 固まってしまった彼女達を置き去りに、海里はグイッと真尋の腕を引いて歩き出した。

「あ··の···良かったんですか?彼女達にデートだなんて言って···手も···」
 繋がれた手を見つめる。
「なんで?デートでしょ。嫌だった?俺には真尋が傷ついているように見えたけど」
「嫌···じゃ···ないです···」
 ちょっと···いや、かなり嬉しいかもしれない、と真尋は顔が赤くなるなるのを感じ、掌で口元を隠すように覆い顔を少しうつむかせた。


しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

捜査員達は木馬の上で過敏な反応を見せる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

処理中です...