上司と部下の恋愛事情

朔弥

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番外編

バレンタイン

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「課長のデスクは毎年すげーな···チョコであふれてんじゃん」
 仕事の手を休めた城戸が課長のデスクに置かれたチョコの箱の多さに、うらやましいと零しながら呟いた。
 城戸の言葉に真尋も海里のデスクに視線を向ける。フロアにいる男性社員に今日はバレンタインだからと女性社員達が合同で気持ちばかりの義理チョコを配ってくれたが、課長のデスクには本気が込められたチョコレートの箱が個別に置かれていた。
 女性社員全員分あるのではないだろうか···と思える量の箱が書類に混じり積み上げられている。
「相変わらず課長はモテますね···」
 自分の恋人は女性にかなりモテるんだった···と、複雑な気持ちで真尋は呟く。
「早坂は?お前も本命からとかないよな!」
 必死に聞いてくる城戸に、貰う側ではないが今年は恋人がいる···とも言えず、曖昧に言葉を返す。
「ああ···、貰ってないな」
 チョコは貰ってないのだから、嘘は言っていない。
「はぁ~、学生の頃の方が出合いがあったな~。社会人になったら忙しくって会社の奴としか飲んでねぇし···課長の半分くらいでいいから俺も本気のチョコが欲しい!」
「城戸、あれを羨ましいと思うか?あの数をホワイトデーに返すんだぞ?俺は一人に貰えればそれでいいな」
 松永は俺はごめんだな、と横目でチョコの山を見ていた。
「···確かに···そうッスね···」
 松永の言葉に城戸は思わずポケットに入ってる財布を手で押えた。羨ましさよりも財布の中身が勝ったようだ。
「そういえば、課長の姿を今日はあまり見ないッスね···」
 チョコだけ置かれ、当の机の主は殆どデスクに戻らず不在だ。
「今日は歩く度に女性に捕まってんだろ?課長に確認が必要な案件は急ぎじゃなきゃ、今日は諦めろ。いつ戻ってくるか分からねぇからな」
 松永の言葉に、海里が女性に囲まれ笑みを浮かべながらチョコレートを受け取る姿を想像してしまい、真尋はデスクの上のチョコに嫉妬の混じった視線を向けていた。
「どうした?早坂、お前も課長に嫉妬してんのか?何か目がわってんだけど···」
 松永に聞かれ、ハッとした真尋は慌てて視線を外した。
「いやいや、ちょっと疲れたな···と。あの、俺ちょっと珈琲飲んできます」
 真尋は誤魔化すように席を立った。



 真尋はオフィスを出ると、この階の隅にある小さな部屋のドアを引いて入った。この部屋には珈琲やお茶などの自販機が3台ほど設置され、ちょっとした椅子とテーブルも置かれており社員達が休憩できる場所になっている。
「あ···課長···」
 珈琲のカップに口をつけている海里の姿を見つけ、真尋は思わず声を洩らした。そして、視線はテーブルの上に置かれているチョコの箱に目が留まる。
「···今日は忙しそうですね」
 気にしないようにしようと思いながらも、ついチョコを受け取る海里の姿を思い浮かべてしまった真尋は、そう言いながら自販機の前に立った。
 自販機にコインを入れようと手を伸ばした真尋の手首を、何時の間にか背後に立った海里の手が掴んだ。
「嫉妬、してくれてるの?」
 耳元で囁かれ、背後から抱きすくめられるくらい近くに海里がいる事に気づいた真尋は慌てた。
「してない!ちょっ···誰かに見られたら···」
「この時間あまり休憩所に来る奴がいないから、俺はここに逃げて来たんだけどね」
 やっぱ色々と女性に捕まってたんだ···と真尋は目を細め、じとっとした視線を思わず向けた。
 そんな真尋の視線を受け、海里はやっぱり嫉妬してくれてる、と嬉しそうに笑みを浮べた。
「彼女達からより俺は真尋一人から欲しいな」
「···用意なんかしてないよ。あれだけ毎年貰ってんだから、これ以上いらないだろ···」
 松永と同じ事を言う海里に、やはり恋人からもらうチョコは特別なのか、と用意してない自分に少し罪悪感をいだく。
「···残念だな」
 本当に残念そうな表情の海里に、真尋は近くに人の気配が無いのを確認すると、
「チョコの代わりにこれでいいだろ」
と、海里の方へ躰を向け頬を両手で挟むとその唇に口づけた。
 軽く味わうだけの浅い口づけ。
 唇を離すと、照れたように顔を赤らめる。
「可愛いけど、チョコの代わりならもっと甘いのが欲しいな···」
「えっ···?」
 腰を引き寄せられ、再び唇を塞がれた。歯列を割って滑り込んできた舌が真尋の舌を絡め取る。
「んんっ···」
 口腔内をまさぐる舌が心地良く、ここが会社の中である事を忘れ海里の口づけに夢中になりかけた。
「あっ···」
 海里の唇が離れていくと、思わず名残り惜しそうな艶めいた吐息が真尋の唇から洩れる。
「ごちそうさま」
 口元に笑みを浮べた海里は近くの椅子に真尋を座らせる。そして自販機で珈琲を購入すると、真尋の座るテーブルの上に置いた。
キスチョコのお返し。これ飲んで躰の熱が落ち着いたら戻っておいで」
 優しく笑いかけると海里は先に部屋を出て行った。



 な、流された···

 このまま甘い口づけを交わしていたいと思ってしまった自分に頭を抱え、テーブルに突っ伏した。


 来年はちゃんとチョコ用意しよ······




─────────────────────



 今日はバレンタインだったな···と今朝思いつき、勢いのまま書いたSSです。
 せっかく本編でバレンタイン前に二人が恋人っぽくなったので、甘い話しを書いてみました···。

 また本編の執筆に戻ります(>_<)

             (2022.02.14)
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