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番外編
出張 1
しおりを挟む真尋はベッドの上に寝転がりながら、メッセージの通知も電話も鳴らないスマホの画面を眺めていた。
今日は営業の人間にどうしても一緒にクライアント先に出向き打ち合わせに参加して欲しいと頭を下げられ、海里が同行している。
泊まりの出張になる為、打ち合わせが終わったら酒の席があるから何時に開放されるか分からない。電話をかけれたらかけるが、待たずに寝ていいからと海里には言われていた。それでも真尋はつい何度もスマホを手にしては画面の表示を気にしては何の通知も入らない画面を目にしては気持ちを沈ませていた。
「まだ解放してもらえないのか···」
溜め息混じりに呟きながら、スマホを手にしたままベッドに腕を投げ出した。
人当たりの良い海里の事だ。取り引き先にも気に入られ話しが弾みなかなか放してもらえないのだろう。
真尋はチラリとスマホに視線を向けると、溜め息を吐きながらスマホを放り投げ、代わりに枕をぎゅっと抱き締めた。
海里も待たなくていいと言っていたのだから、寝てしまってもいいんだろうけど·····
出張に出かける直前に交わされた会話を真尋は思い浮かべていた。
出張へ出かける直前、海里は真尋のデスクに立ち寄った。
「真尋、じゃあ留守は頼んだよ。冷蔵庫に食事の作り置きはしておいたし、セキュリティはしっかりしてるとはいえ帰ったら必ず玄関の鍵は─··」
「課長!」
放っておいたら、延々と続きそうな海里の言葉を真尋は強めの言葉で遮リながら立ち上がった。
海里としては恋人を心配しての口から出た言葉だったが、傍からみれば過保護な保護者が心配しているようにしか聞こえない。
「···子供じゃないんですから」
これ以上、余計な事を言う前にさっさと行ってくれとばかりに真尋は海里の背中を押しながら、心配せず行ってきて下さい!とオフィスの出入口へと追いやった。
「課長!早く行かないと営業の人から催促の電話が来ますよ!」
やり取りを聞いていた女性社員達が、微笑ましいとクスクス笑いを漏らしている声を耳にした真尋は恥ずかしさに顔を赤らめながらジロリと海里を睨めつける。
そんな真尋の表情を可愛いなぁと、クスリと笑みを零しながら海里は他の社員には聞こえないよう、そっと真尋の耳に顔を近づけた。
「終わったら電話するけど、眠かったら無理に起きてなくていいからね」
そう言いながら、でも ──··と海里は口元に甘やかな笑みを浮かべた。
「寂しかったら待ってて·····」
ベッドの中で囁かれるような声で耳元を擽られ、真尋は耳まで真っ赤にしながら言葉を詰まらせ狼狽えた。
「なっ、なっ···こんな社内で何言って···!誰かに聞かれたたら···」
声を押し殺しながら海里に文句を言う真尋に、
「真尋の反応が可愛いくてつい···ね」
と悪戯っぽく笑う。
「だから、会社の中でそんな事言うなって言ってるだろ!」
誰かに聞かれたらと焦る真尋とは反対に絶対にバレない自信でもあるのか、海里は落ち着き払っている。その自信は一体どこから湧くのだろうか。同棲宣言も自然な流れにもっていってしったくらいだ。今の会話だって、誰かに聞かれ変に勘ぐられたとしても簡単にはぐらかしてしまいそうだ。
そんな事を考え押し黙ってしまった真尋を見た海里は、少し揶揄い過ぎてしまっただろうか、と申し訳なさそうな笑みを浮かべながら、
「大丈夫だよ、真尋が社内で困る状況になるような真似はしないから」
と真尋を安心させるように言い、「じゃあ行ってくるよ」とオフィスを出ていった。
十分、困るような状況なんだけど····
海里の背中を見送りながら、真尋は呆れた溜め息を洩らした。
寂しかったら待っててって···普通、職場でそんな誘いかけるような事を言うか?
そう考えた瞬間、再び海里の声が思い返され躰の熱が上がるのを感じ、慌てて記憶を振り払うように席に戻った。
大体、たった一日出張でいないくらいで寂しいなんて···───
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