上司と部下の恋愛事情

朔弥

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番外編

犬派?それとも猫派? 1

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「本宮課長~、クッキー食べませんか?」
 昼休みになると海里のデスクの周りには女性社員が集まってくる。彼女達は少しでも海里の好みを知り、彼の理想の女性に近づきたいと画策していた。
「可愛い猫のクッキーなんです」
「ありがとう、頂くよ」
 差し出されたクッキーの一つを手に取り、海里は隙きのない笑みを浮かべる。一定以上踏み込めない雰囲気を常に纏わりつかせていた。
 そんな空気を肌で感じながらも彼女達はめげずに話しかける。
「本宮課長は犬派ですか?それとも猫派です?」
「···そうだな······」
 彼女の問いかけに、海里は珍しく興味を惹かれたように考え込んだ。
「課長って、なんか大っきい毛並みのいい犬を撫でてそうなイメージっスね」
 城戸が自分のデスクから彼女達の会話に加わる。
「城戸君、分かる!ゴールデンレトリバーとかでしょ?」
「そう、それっス!」
 城戸と彼女達が意気投合している横で海里は、
「大型犬って感じじゃないな···小型犬?」
 ボソッと呟きながら、その視線は真尋へと注がれていた。
 

 え?何で俺を見てんの?


 彼女達の会話をこっそり気にかけていた真尋だったが、海里の視線を感じ思わず見返した。
「犬も可愛いけど···やっぱり猫···かな」
 真尋を見つめたまま海里が答える。
 その口元には何かを企む時に浮かべる、薄っすらとした笑みが見える。


 嫌な予感しかしないんだけど···


「課長、猫派なんスか?」
 城戸が意外っスね、と呟く。
「ああ、ちょっと前まで懐きそうで懐かない猫がいてね」
 海里の言葉に真尋はピクッと眉を動かす。


 ···小型犬とか猫って、やっぱり俺の事言ってたな


 じろりと真尋は目を細め海里をムッとした表情で見つめた。
「猫は気まぐれっスからね···」
 城戸は肩をすくめながら言った。
「あら、気にかけてないような素振りをしておいて、擦り寄ってくるのが可愛いじゃない。それで課長、その猫ちゃんは懐いてくれたんですか?」
「人前だと甘えてくれなくてね···素っ気なく逃げられちゃうんだ。俺としてはもっと甘えて欲しいところだけど···」
 ちらりと海里の視線がこちらに向けられる。


 同棲までしているのに、会社では上司と部下である関係にしっかり線引きしている自分に対して言っている事が痛いほど伝わってくる。
 海里は一緒に住んでいるのだから、多少親密であっても不自然ではないと言うが、社内では関係がバレないよう仕事で必要以上の関わりを持つ事を真尋は嫌った。
 社内では課長としか呼ばないし、昼休みも殆ど城戸か松永と過ごしている。
 それが海里には少し不満なようで、こうやって暗に訴えかけてくる。


 俺は海里みたいに器用じゃないんだよ···


 仲を疑われるような事を言われでもしたら、焦って海里のように上手く誤魔化す自信などない。
 今だって、海里の言う猫が実は自分の事を言っていると誰かに気づかれやしないかとヒヤヒヤしていた。


「課長、その猫ちゃんが可愛くて仕方ないんですね~」
 普段は笑っていても、どこか一線を引かれている雰囲気を纏っている課長の表情が和らいでいる事を感じ取った彼女はくすりと笑いながら言った。

「ああ、可愛いよ···」

 自然と言葉を口にする海里の表情はまるで恋人を想うかのように甘い笑みを浮かべる。
 そんな海里の表情にフロアにいた女性社員達は眼福ですとばかりにうっとりと目を奪われていた。
 海里のその言葉が自分に対して発せられている事を知る真尋は、気恥ずかしさにひとり顔を熱くさせた。
 


「にしても課長、猫飼ってたんスね。早坂の引っ越しの手伝いで課長んに行った時には気づかなかったな~···」
 彼女達の会話を聞いていた城戸が、何気なくあの日の事を思い返しながら呟いた。
 その言葉に真尋はギクリと躰を強張らせる。
 恥ずかしさに熱くなった頬の熱が、今度は一気に冷めていく。
「あー··でもそれだけ警戒心の強い猫なら姿見せてくれないかもしれないっスね···」
 なかなか懐いてくれなかったという海里の言葉を思い出しながら、勝手に納得したように自己完結する城戸に真尋はほっと胸を撫で下ろした。だが、これ以上この話題が続いては自分の身が持たない。
「課長!確認して頂きたい書類をメールしたので···」
 もう切り上げて下さい、と強い念を乗せた眼差しを向けながら海里に声をかけた。
 真尋の視線の意図を感じ取った海里は「分かった」と答えながらも、毛を逆立てる猫のイメージと真尋が重なって見えてしまい、くすりと軽く笑う。
「さあ、お喋りはそのへんにして···午後の業務に戻ろうか」
 海里の言葉で皆、それぞれのデスクに向かい始めた。
 海里が自分を見て何を想像したのか何となく察したが、これ以上自分から話しを蒸し返す事もないだろうと、真尋は気にしないようにパソコンの画面と向き合う。
 

 よくある昼休みの雑談


 その時はそう思い、自分が猫に例えられた事など午後の業務に追われるうちにすっかり記憶から消えていた。


 まさか、まだこの話題が続くとは

 思いもしなかった──··
 

 



─────────────────────


 久しぶりの更新です。。。

 私の中では真尋は猫っぽいイメージで書いてますが···皆さんはいかがでしょうか
 
 王道ネタではありますが、お付き合い下さると嬉しいです(>_<)

 


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