上司と部下の恋愛事情

朔弥

文字の大きさ
78 / 85
番外編

海里の過去 1

しおりを挟む




「ん ──··」
 真尋は難しい顔をしながらリビングのソファーに座り、テーブルの上に置いたスマホをじっと見つめていた。
「真尋?さっきからスマホとにらめっこしてるけど···どうかした?」
 海里は真尋の前に珈琲を置くと、自分も珈琲を飲みながら隣に座った。
「あ─··毎年、この時期になると年末は実家に帰って来るのかって母親からメールがくるんだけど···」
「···けど?」
 海里の問いかけに、真尋はスマホを手に取ると画面を操作し、メッセージ画面を海里に見せた。そこには『無理に帰ってこなくていいのよ』と一言書かれていた。
「俺が裕也を好きなの、薄々、気づかれてんじゃないかなって思ってたけど····やっぱり知ってたんだなって···」
 中学までは頻繁にうちにも遊びに来ていたし、家も近所だ。裕也が結婚したという話しはとっくに耳にしているだろう。
 失恋した息子を気にしているが、打ち明けられている訳ではない。なるべく当たり障りのない言葉を悩みながら選んだ結果、このメッセージになったんだろうな···という母親の悩みながらスマホのメッセージを打ち込む姿が思い浮かび、思わず苦笑する。
 それと同時に、息子が同性を好きな事に気づきながらも黙って見守っていてくれた事に胸が熱くなった。
「···本当は···海里を·······」
 家族に紹介したい。一緒にいたい大切な人が出来たと言いたかった。だが、それを海里が望まないなら無理強いは出来ない。
 好きな人が同性だからとあからさまに拒絶はされないだろうと感じてはいるが、実際に言葉にした事があるわけではない。拒絶される不安がまるで無いわけではない以上、海里に不快な思いはさせたくなかった。
「·········なんでもない」
 気持ちを隠すように笑いながら真尋はスマホの画面に視線を落とすと、『今年は帰らないけど、元気だから心配しないで』とメッセージを打ち込んだ。


 いつかは···
 大切な人と一緒に帰るよとメッセージを送れるといいな···


 真尋はそんな事を思いながら送信のボタンを押す。
「·········真尋は···家族に打ち明けたい?」
 真尋がスマホの画面を操作する様子を横に座り見ていた海里がぽつりと呟くように問いかけた。
「·········海里?」
 その声が少し暗い影を落しているように聞こえ、真尋はスマホの画面から顔を上げた。視線が合うと、海里はスッと目を逸らす。その表情は思い詰めているかのように硬かった。
「あっ···いや、いつかは大切な人が出来たって紹介出来たらとは思ったけど、海里が嫌だったら···」
 このままでいい、と言いかけた真尋の言葉を遮るように抱きしめた。
「ごめん···真尋、そうじゃないんだ。嫌だなんて思っていないよ····ただ─··同性の恋人を受け入れてもらうのは難しいんじゃないかな···。俺は何を言われても構わない。だけど──··」
 海里は少し迷いながらも、話しを続けた。
「俺の存在が·····真尋の家族との関係を壊したらと考えると······」


 ── 怖いんだ


 声にならないほど小さな声で呟く。
「海···里?大袈裟に考えすぎだって。確かに打ち明けた事はないけど······ちゃんと伝えれば···分かってくれると思うから···」
 いつでも自信があって自分なんか余裕で包み込んでしまう海里からは想像出来ないくらい不安に揺らぐ瞳をしていた。真尋はどう言葉にしたら海里の不安を軽くする事が出来るのか分からず、戸惑いながら言葉を探す。


 海里との関係を分かってくれる···


 それは明確に言葉で説明出来るものではない。家族だから···分かる。
 そんな感覚的な事を海里に分かってもらうのは難しいだろうな、と真尋はもどかしさを感じていた。
「·······海里は···何で俺の家族が壊れるって思うわけ?そんなの···言ってみないと分からないのに」
 海里なら「説得してみせるよ」と、自信溢れる笑みを浮かべながら言いそうなくらいだ。なのに、何が海里をそこまで不安にさせるのだろうか。

 海里は真尋を抱きしめる腕に力を込めた。 
「知っているから······。家族でも簡単に壊れる事を····」
「簡単に壊れるって···」
「俺と······同じ想いをして欲しくないから···」
「それって···海里の家族の事?」
「·········」
 海里は真尋を抱きしめたまま暫く黙っていたが、やがて重たい口を開いた。




─────────────────────


エールを押して下さりありがとうございます!

しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...