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番外編
海里の過去 1
しおりを挟む「ん ──··」
真尋は難しい顔をしながらリビングのソファーに座り、テーブルの上に置いたスマホをじっと見つめていた。
「真尋?さっきからスマホとにらめっこしてるけど···どうかした?」
海里は真尋の前に珈琲を置くと、自分も珈琲を飲みながら隣に座った。
「あ─··毎年、この時期になると年末は実家に帰って来るのかって母親からメールがくるんだけど···」
「···けど?」
海里の問いかけに、真尋はスマホを手に取ると画面を操作し、メッセージ画面を海里に見せた。そこには『無理に帰ってこなくていいのよ』と一言書かれていた。
「俺が裕也を好きなの、薄々、気づかれてんじゃないかなって思ってたけど····やっぱり知ってたんだなって···」
中学までは頻繁にうちにも遊びに来ていたし、家も近所だ。裕也が結婚したという話しはとっくに耳にしているだろう。
失恋した息子を気にしているが、打ち明けられている訳ではない。なるべく当たり障りのない言葉を悩みながら選んだ結果、このメッセージになったんだろうな···という母親の悩みながらスマホのメッセージを打ち込む姿が思い浮かび、思わず苦笑する。
それと同時に、息子が同性を好きな事に気づきながらも黙って見守っていてくれた事に胸が熱くなった。
「···本当は···海里を·······」
家族に紹介したい。一緒にいたい大切な人が出来たと言いたかった。だが、それを海里が望まないなら無理強いは出来ない。
好きな人が同性だからとあからさまに拒絶はされないだろうと感じてはいるが、実際に言葉にした事があるわけではない。拒絶される不安がまるで無いわけではない以上、海里に不快な思いはさせたくなかった。
「·········なんでもない」
気持ちを隠すように笑いながら真尋はスマホの画面に視線を落とすと、『今年は帰らないけど、元気だから心配しないで』とメッセージを打ち込んだ。
いつかは···
大切な人と一緒に帰るよとメッセージを送れるといいな···
真尋はそんな事を思いながら送信のボタンを押す。
「·········真尋は···家族に打ち明けたい?」
真尋がスマホの画面を操作する様子を横に座り見ていた海里がぽつりと呟くように問いかけた。
「·········海里?」
その声が少し暗い影を落しているように聞こえ、真尋はスマホの画面から顔を上げた。視線が合うと、海里はスッと目を逸らす。その表情は思い詰めているかのように硬かった。
「あっ···いや、いつかは大切な人が出来たって紹介出来たらとは思ったけど、海里が嫌だったら···」
このままでいい、と言いかけた真尋の言葉を遮るように抱きしめた。
「ごめん···真尋、そうじゃないんだ。嫌だなんて思っていないよ····ただ─··同性の恋人を受け入れてもらうのは難しいんじゃないかな···。俺は何を言われても構わない。だけど──··」
海里は少し迷いながらも、話しを続けた。
「俺の存在が·····真尋の家族との関係を壊したらと考えると······」
── 怖いんだ
声にならないほど小さな声で呟く。
「海···里?大袈裟に考えすぎだって。確かに打ち明けた事はないけど······ちゃんと伝えれば···分かってくれると思うから···」
いつでも自信があって自分なんか余裕で包み込んでしまう海里からは想像出来ないくらい不安に揺らぐ瞳をしていた。真尋はどう言葉にしたら海里の不安を軽くする事が出来るのか分からず、戸惑いながら言葉を探す。
海里との関係を分かってくれる···
それは明確に言葉で説明出来るものではない。家族だから···分かる。
そんな感覚的な事を海里に分かってもらうのは難しいだろうな、と真尋はもどかしさを感じていた。
「·······海里は···何で俺の家族が壊れるって思うわけ?そんなの···言ってみないと分からないのに」
海里なら「説得してみせるよ」と、自信溢れる笑みを浮かべながら言いそうなくらいだ。なのに、何が海里をそこまで不安にさせるのだろうか。
海里は真尋を抱きしめる腕に力を込めた。
「知っているから······。家族でも簡単に壊れる事を····」
「簡単に壊れるって···」
「俺と······同じ想いをして欲しくないから···」
「それって···海里の家族の事?」
「·········」
海里は真尋を抱きしめたまま暫く黙っていたが、やがて重たい口を開いた。
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